アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

セミナー『日本のアライグマ防除を考えよう』のお知らせ

初学者向けセミナー

『日本のアライグマ防除を考えよう』

 

生態系や野生動物に興味のある中高生~大学生対象にアライグマ防除に関するセミナーの開催が決定いたしました!!

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今,外来種アライグマが日本で問題になっているのをご存知ですか?
アライグマとは?どういう生態で,何が問題になっている?どういう対策がされている?
アライグマの防除の基礎知識が濃縮された全2回のセミナーとなっております.
自然環境に興味のある中高生~大学生のご参考になれば幸いです.もちろん大人の方も大歓迎です.

※もうがっつりアライグマの勉強しているor捕獲に従事している方には基本的すぎる内容かもしれません!!


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『日本のアライグマ防除を考えよう』
◎日時
 第1回 5月9日(日) 14:00-16:00
 第2回 5月16日(日) 14:00-16:00
※第1回と第2回は別内容です.どちらか一方の参加でも構いません.

◎場所 
 Zoom meeting(約1週間前にURLをご案内いたします)

◎申込
 下記申し込みフォームより
 締切:5月1日(土)
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeGD0nldtiewulZPr8TwMSDDFiOyFqJzECjv-NqOgeWHGXK-w/viewform?usp=sf_link

◎内容
※一部変更が生じる可能性があります
第1回
①野生動物保護管理基礎知識
(講師:さとやまん,鳥獣管理士・里山自然環境整備士など)
 近年,人間社会と野生動物の軋轢が強まっている.そこで必要とされる野生動物管理の概念とはどのようなものか.具体的にはどのような視点が重要になるのだろうか.野生動物保護管理の基本的な概念について説明いたします.

 

②アライグマという生き物
野生動物問題のひとつにアライグマ問題がある.では,そもそもアライグマとはどのような生物なのだろうか.いつ,なぜ,日本に入ってきたのか.どのような問題が生じているのか.アライグマの基礎生態から生じている問題について説明いたします.

 

 

第2回
①アライグマ防除のいろは
(講師:さとやまん,鳥獣管理士・里山自然環境整備士など)
では具体的にはどのような手法でアライグマの防除は実施するのだろうか.狩猟と有害鳥獣捕獲とかってどう違うのか.どのような罠を使うのか.実際の防除の計画や手法について説明いたします.

②日本のアライグマ防除事例
(講師: Oji,NGOけものみち 代表など)
日本各地で様々な対策が講じられている.その中で代表的な防除事例について説明いたします.
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生態系や野生動物に興味があるけど,どうやって学べばいいのかいまいちわからないって人はこのセミナー来てみてくれ!!

そんでアライグマ連絡会入って,アライグマについて一緒に考えよう!!

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

以上

執筆 2021.4.12

 

 

アライグマ連絡会について

アライグマ連絡会について

 

アライグマ連絡会というアライグマの情報交換の場・知識や技術の研鑚の場のお誘いです!!


アライグマ連絡会はアライグマに携わる先生や学生, 被害対策関係者等を有機的に繋がり, お互い情報共有することを目的として2019年秋に設立されたグループ・メーリングリストです.


現在, アライグマの分布は拡大しており, 農業・生態系への被害が甚大であるにもかかわらず, 有効的な対策を打てている地域はほんのわずかです. 今後はアライグマに関する研究や対策がこれまで以上に必要になってくると思われます.

一方で, アライグマについて研究・勉強・対策している人は全国にいるにもかかわらず, そういう人材が繋がるコミュニティは現在ありません. そこで,アライグマに携わる先生や学生, 被害対策関係者等を有機的に繋がり, お互い情報共有することが必要だと感じました.


アライグマ連絡会は,将来のアライグマ対策のために
・情報交換の場
・知識や技術の研鑚の場
・人材の輩出のための場
を創出することをポリシーとしております.

 

現在(2021.4.12)は
社会人:9名
学生 :25名
にご参加いただいております.
北は北海道から,南は兵庫まで,
大学の先生から,学部1年生まで
幅広い方々にご参加いただいております.

会をあげて何か行動を起こすといったことは特にはしておりませんが,2020年度からは有志でオンライン勉強会などを12回行いました.
今年度も定期的に勉強会を行おうと考えております.

 

私も運営にかかわっておりますので,興味がある方は
コメントもしくは
raccoon.memorandum[アットマーク]gmail.com
([アットマーク]を@にかえてください)
までご連絡ください!!

狭山丘陵における中型哺乳類のカメラトラップ調査(東出ほか 2019)

東出大志,竹内大悟,山崎晃典,鷲見羽衣子,三浦慎悟.

近年の狭山丘陵における中型哺乳類の生息状況とその変化―アライグマの定着・増加による在来哺乳類への影響―.

人間科学研究32(2);197-204

irdb.nii.ac.jp

 

 

論文レビューです.

狭山丘陵におけるアライグマの調査に関する論文を発見した!!
12地点とやや少ない地点数ながら,中型哺乳類を網羅的に調査したうえでアライグマの定着に言及しているものだ.
これはかなり面白そう!!

 

しかも著者陣もアツいメンバーだ.
東出先生は岐阜大所属の先生で,2020年まではあの兵庫県立大学に所属されている先生.(2021.3.14.訂正,大変失礼いたしました)
自分はイノシシの掘り起こし痕跡の分布に興味があるんだけど,東出先生も動物の密度指標の研究をされていて,イノシシ掘り起こし痕跡の密度指標化に尽力されているんじゃなかったかな.
自分のやりたいことを,自分よりはるか高い水準でやられている方だ...足元向けて眠れんぞ,こりゃ.

 

そして面白いのは,はじめにに書いてあることが武蔵野アライグマの同期とほぼ一致しているということ.パクったんじゃないよ!!ぼくがリサーチ不足だったってことだ...
でも自分の狭山丘陵の認識がそんなに的外れじゃなかったっぽくて安心.

cf. 武蔵野アライグマ

satoyaman-raccoon.hatenablog.com


例によって赤字は自分の感想・注釈です.

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目次
1. はじめに
2. 方法
3. 結果
4. 考察

5. 武蔵野アライグマの観点から...
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1. はじめに
・狭山丘陵は生物多様性が高い里山
・しかし,重昆(2011)の文献調査こそあれ定量的な調査はほとんどされていない.

・そして,近年アライグマが問題になっている.
・しかし,狭山丘陵のアライグマ動向は把握されていない.
・先行研究から言って,狭山丘陵でも生態系に影響ある可能性あり.

 

2.方法
カメラトラップ調査
2016.1-2016.12
早稲田所沢キャンパスに12地点(4-落葉広葉樹林,7-林縁湿地)

過去のカメラデータと比較
・山崎(2012)による2010-2011の調査
・鷲見(2014)による2013の調査

 

①撮影頻度の年変動
...撮影頻度(RAI)をGLMで解析(説明変数:調査年)
②種間関係(撮影頻度の影響)
...タヌキ撮影頻度に対するアライグマなどの撮影頻度の効果検証.タヌキの撮影頻度RAIを目的変数,アライグマ,ハクビシン,イエネコの撮影頻度を説明変数.


3. 結果
主な中型哺乳類の撮影回数は以下の通り.
タヌキ349回
アライグマ146回
イエネコ59回
ハクビシン35回

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(東出ほか 2019)

 

①撮影頻度の年変動
・アライグマ2011-2016に有意差あり
・その他の中型哺乳類については有意差なし

②種間関係(撮影頻度の影響)
・タヌキとアライグマに正の効果

 

4. 考察
・タヌキが一番多く撮影された→狭山丘陵においてはタヌキが一番一般的な種.

 

・アライグマは年追うことに増加(ハクビ,ネコは年比較で有意差なし)
アライグマが増加していることが示唆(撮影地点が年ごとに違うもののいずれも水辺)
・埼玉県の捕獲数は増えているが,狭山丘陵での個体数低減にはつながっていないかも.


・タヌキとアライグマに正の効果
→正の影響ではなく,2種の選好環境が類似(先行研究とは異なる結果)
ただし,実際は負の相関となる事象も,環境収容力考慮しないと,みかけ上正の相関が得られる場合もある.
→今回の結果から競合の可能性論じるのは難しい.

※環境収容力が十分にある場合(アライグマとタヌキがどっちもいても餌資源が十分など),本来競合するアライグマ・タヌキがまだ共存できている→好みが近いから正の相関として表現される

ということだろうか

 

・アライグマ増加していたものの,タヌキ等在来中型哺乳類の撮影頻度RAIに変化なし
→現時点ではアライグマ増加が在来中型哺乳類に与える影響は大きくないかも


アナグマがちょっとだけ映った.
→先行研究的にもめっちゃ少ない.今後調査する必要あり.

 

5. 武蔵野アライグマの観点から...

僭越ながら,今自分が行っている武蔵野アライグマ調査と合わせて考えさせていただく.

cf. 武蔵野アライグマ#1

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

cf. 武蔵野アライグマ#2

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

cf. 武蔵野アライグマ#3

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

f:id:Satoyaman:20210314102054j:plain

本論文における調査地は,地図上の赤丸.

狭山丘陵北部ではアライグマが増加しているとのこと(本論文).

狭山丘陵南部でもアライグマの糞尿被害があったりと,なかなかの密度が予測される.

狭山丘陵東部では比較的生息密度が低いのかな?

 

一方で,本論文では在来中型哺乳類に影響はあまりないとのこと.

自分としてはアライグマの生態系への影響は,大きく2つあると思う.

すなわち,「在来種の捕食」「在来種との競合」である.

流れとしてはこんなかんじ?↓(これは推測であり,報告があるわけじゃありません)

 

①アライグマ侵入

②アライグマ定着

③両生類等が捕食で壊滅

↓・・・ここらへんから環境収容力超え始めて...

④在来中型哺乳類との競合顕著化

 

なのかなと.

狭山丘陵北部・南部では③前後

狭山丘陵東部では②前後

なのかなと推測しています.

 

今後は文献調査で上記フローが認識として正しいか勉強しながら,上記の推測の裏打ちとなるデータを収集を続けたいと考えています.

 

以上

2021.3.14. 執筆

2021.3.14. 訂正

武蔵野アライグマ #3調査報告②-爪痕調査(東大和市)-

~前回までのあらすじ~


武蔵野におけるアライグマの生息状況を調べようと思った.
先行研究をざっとあたると,埼玉では報告が多い一方,東京での報告は少ない.
埼玉の報告や埼玉・東京の捕獲数をみると狭山丘陵周辺に多く生息してそう.
そこで,特に報告が少ない狭山丘陵西端の東村山で爪痕調査を行った.その結果,東村山の寺社仏閣には爪痕が少ないことがわかった.


東村山市は生息報告が少なく,爪痕も少ない.これは整合性の取れた結果といえそう.
しかし,爪痕調査は地域によってはあんまり参考にならないこともあるらしい(めっちゃ生息しているのに爪痕はない事例あり).


cf. 武蔵野アライグマ #2爪痕調査東村山編

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

 

...ということで今回は狭山丘陵南部本丸の東大和市を攻めようか.

 

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目次

1. 調査概要

2. 結果

3. 考察

4. どうなる狭山公園!?

5. 今後の予定

6. 謝辞

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1. 調査概要

今回,アライグマの生息を「浅く広く」調べる手法は「爪痕調査」.
これについては後日記事を書きます.


こちらが詳しいです↓.まとめるまではこちらをご参照.

www.kansaiwildlife.com

 

簡単に言うと,木造の寺社仏閣をめぐり,柱につく爪痕を調査するというもの.
爪痕の様子でアライグマが来ているのかどうかがわかる.
アライグマ→5本の平行な爪痕
ハクビシン→4本の平行な爪痕(ネコも?)


様々な注意点はあるけど,それは後発の記事でこちらから.(2021.4.25追記)

cf. アライグマ爪痕調査

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

この手法は狭山丘陵北部の所沢市でも行われている(堀井ほか 2013).
前回は狭山丘陵西端の東村山市で行った.
今回は狭山丘陵南西の東大和市で行った.

調査は2021年3月12日に行った.
寺社仏閣は大小さまざまあるが,今回は昭文社MAPPLE都市地図に記載されているもの計14ヵ所を対象とした.

そして,ついでに狭山公園(+1神社)で散策したのだが...!?

 

 

2. 結果
結論から言うと...アライグマ爪痕たくさんあり!!

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特に狭山丘陵に近いほど多い傾向にある気がする.

こちらがとある寺院の爪痕の写真.

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アライグマの爪痕(東大和市)


この寺院では住職さんがアライグマを確認しており,糞尿被害に悩まれているとのこと.これは住み着いている可能性高いですね...

こちらはかなり密についた爪痕.すんごい登っている...

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アライグマの爪痕(東大和市,友人撮影)

 

3. 考察

では今回の結果と,前回の結果,所沢市の先行研究(堀井ほか 2013)と比べてみよう.

cf. 武蔵野アライグマ #2爪痕調査東村山編

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

cf. 所沢市におけるアライグマ生息状況調査(堀井ほか 2013)

https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf

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所沢市の結果の凡例は以下の通り
●:現在も侵入
○:過去に侵入
▲:現在も訪問
△:過去に訪問
□:痕跡なし

色は気にせず,印の形だけ注目して比較してほしい(本調査では訪問時期については評価していない).

いずれの地域でも狭山丘陵周辺で痕跡が多い傾向が見られる.狭山丘陵西端の多摩湖縁(東村山,東大和所沢市境の黒丸)までアライグマの魔の手が伸びていることがわかる.
一方で,北西部に少し孤立して伸びる八国山緑地では痕跡が少ない
これは多摩湖周辺に集中していて,まだその西部には広がっていない可能性を示唆する.

 

東村山では爪痕が少なく,正直言って手法そのものを怪しんでいた.
里山が好きで,畑や住宅街もイケるアライグマが狭山丘陵に面する東村山にいないわけない.それなのに痕跡が少ないとは...
しかし,今回の結果から,ちゃんと生息密度が高いところは爪痕残るとはっきり分かった.
これは逆説的に東村山のアライグマの生息密度が低いことを意味する("生息密度が低い"のと"生息していない"は意味が大違いなので要注意).

 

 

 

次に,植生データと重ねてみよう.
植生データは環境省自然環境センターが公開してくれている.

※住宅地は白地です.

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やはり落葉広葉樹林に位置する(=狭山丘陵内の)寺社仏閣に爪痕が多い傾向にあるようだ.
一方で,住宅地や畑周辺では爪痕痕跡が少ない.
これは半分当然,半分意外だった.
たしかにアライグマは里山を好むとされているので,落葉広葉樹林に痕跡が多いのは納得.しかし,畑や住宅地にも進出できるorしていると思っていた.今回の爪痕調査ではその可能性は支持できなかった.

 

 

つづいて,捕獲頭数(2018)と重ね合わせてみてみよう.

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これはメッシュごとの集計である.
捕獲が多い東大和武蔵村山・所沢のメッシュでは,当然,痕跡が多い地点が複数見られた.
ただし,捕獲が全くない東大和一部・東村山のメッシュでも痕跡が多い地点が複数見られた.
捕獲頭数は捕獲努力量(どれだけの人が罠をかけたのか?など)に大きく左右されるため,捕獲に力を入れていない東京だとあんまりあてにならなそう.


4. どうなる狭山公園!?
帰りに狭山公園をお散歩.
北部の神社ではアライグマの痕跡が見られた.

 

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狭山公園地図(引用:狭山丘陵の都立公園にきてみて!https://www.sayamaparks.com/sayama/)


 

 

そして水路では...

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アズマヒキガエルの卵塊

アズマヒキガエルの卵塊が!!

 

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ヤマアカガエルの卵塊(友人撮影)



これはヤマアカガエルの卵塊のようだ.初めて見た!!

 

アライグマは在来種の捕食が大きな問題になっている.特に両生類は地域個体群がほぼ壊滅することもあるという.


アズマヒキガエルの捕食事例としては例えば松田(2004)などがある.
cf. 横浜自然観察の森におけるヤマアカガエルの卵塊数(2002-2004)(松田 2004)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrghsj1999/2004/2/2004_2_123/_pdf

 

ヤマアカガエルの捕食事例は金田(2008)など.

cf.外来生物アライグマ(Procyon lotor)がトウキョウサンショウウオ(Hinobius tokyoensis )等に与える影響(金田 2008)

http://kanto.env.go.jp/wildlife/mat/data/m_2_1/h19_houkokusho.pdf

 ↑85P

この報告では捕食だけでなく,その結果卵塊数が減ったことも報告している.

 

その他両生類の捕食事例は兵庫県森林動物研究センターが一覧にしてくれているよ.
cf. 兵庫ワイルドライフモノグラフ12号

www.wmi-hyogo.jp

 

つまり,狭山公園において
・アライグマが生息している
・アライグマに被害を受けやすいアズマヒキガエルが産卵している
ことがわかった.

本報告を警鐘としたい.


5. 今後の予定

今後も「報告少ない地域のアライグマ生息状況の把握」を進めていこうと思う.
具体的には3点.


①継続-東・南-
清瀬や東久留米,小平など報告少ない地域を爪痕調査で「浅く広く」.今回の調査で,狭山丘陵南部に多そうだとわかった.報告数が少ない地域はまだ安全地帯?そういうわけではない?


②継続-西-
→西はもっと多いだろうな.狭山丘陵東端よりちょっと東では友人たちと11頭のアライグマを捕獲するなど,かなりのアライグマが生息している.武蔵村山でも爪痕調査をして狭山丘陵を一周調査したいね.
生息密度が明らかに違うなら爪痕調査の結果も差が出るはず!?

 

③より解像度の高い調査
→餌トラップ法による在不在調査,カメラトラップ調査など.
爪痕調査はあくまで指標のひとつ.こういうのは複数個の指標が必要.

そこでより新しくて検出力が高そうな(たんなる印象)餌トラップを使いたい!!そしてついでに餌トラップの性能も評価したい!!

ただ,餌トラップ設置許可がなかなか下りない...


cf. 餌トラップ法

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

調査やってみたいって人は連絡ください笑
TwitterのDMでも,コメントでも,メールでも.
(中高生以上,中高生は保護者の許可を)
raccoon.memorandum☆gmail.com(☆を@にかえてね)

 

6. 謝辞
調査同行してくれた後輩3名に感謝とリスペクトを.
今回は調査企画者の自分が2時間遅刻するという大粗相かましました.
本気でごめんなさい.

何か感想,考察,疑問,議論等ございましたらコメントください.


2021.3.12.執筆

2021.4.25.追記

原産国でのアライグマ食性(Kaufman 1982)

[英論レビュー]
Kaufman(1982)Raccoon and Allies.

"Wild Mammals of North America"(Champman and Feldhamer)

 

 やっぱアライグマのこと勉強するなら,原産国の豊富な知見にも触れておかなくては.ということで,北米のアライグマについて洋書を読んでみた.
 北米の野生動物について書いた「Wild Mammals of North America」のアライグマの章です.(2003年に改訂版出てたけど,間違って1982年版を読んでしまった...)
友人と輪読したので,本備忘録では自分の担当ページ「食性」について.日本の研究結果とも比べてみよう.
赤字は自分の補足です.

 

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目次

1. 餌資源ごとの傾向

 1.1. 植物性餌資源

 1.2. 動物性餌資源

2. 季節ごとの傾向

 2.1. 春

 2.2. 夏

 2.3. 秋

 2.4. 冬

 2.5. 通年

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食性の研究を統括すると,2つの報告に大別される.すなわち,

・「アライグマは日和見主義的雑食である」

=その場にあるものを食う,選好性は低い,地域差や季節変動が大きい.

・「ほとんどの生息地では,アライグマの食物において植物は動物よりも重要である」

※日本では(or現在では)日和見主義的雑食という見方が強いよね.

 

1. 餌資源ごとの傾向

1.1. 植物性餌資源

・多肉果

 ノブドウ(Vitis spp.),チェリー(Prunus spp.),リンゴ(Malus spp.),カキ(Diospyros spp.),ベリー全種
堅果
・その他(草本の種,芽,菌類,芝などのその他草本)などを利用

 


1.2. 動物性餌資源

脊椎動物より無脊椎動物を好む.
・ザリガニ

※ザリガニは日本でもかなり広まってる.これはどっちも対処する必要があるね.

 

・昆虫類(コオロギ類,甲虫,毛虫,膜翅類)

 

・その他(カニ,エビ,カキ,ムラサキイガイ棘皮動物,海洋環形動物,カタツムリ,ナメクジ,ミミズ)


・げっ歯類

・ウサギ

・鳥類...スズメとか少し,怪我した水鳥など
たまに鳥が自分用に取った獲物をアライグマに落としてしまう(落としたのをアライグマが食う?)場合も.コミミズクとか.

鳥の卵を食う例,ノスリの巣(樹上15m)を強奪する事例も.

※日本では北海道でアオサギの巣を襲った報告がある.それでアオサギが営巣放棄してしまったとか.

cf. 【まとめ】アライグマのアオサギコロニーに対する影響

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 


・爬虫類 両生類

あまり食べない.カメ(特に卵)は地域によっては食べることも.ヘビは少しは食う.

※日本で言うと大分での奮闘が有名かも?

cf. おおいた環境保全フォーラム

http://www9.plala.or.jp/kei_uchida/

 

ここはウミガメのための環境保全とアライグマ防除を両方やっているアツそうな団体!!

噂によると大分市は神奈川県三浦半島兵庫県丹波篠山市と並んでアライグマ防除が進んでいる地域らしい.報告書についてはこちら.

cf.おおいた環境保全フォーラム.2019.大分県北西部アライグマ防除推進業務報告書

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

cf. 大分で活動されている方のブログ

blog.goo.ne.jp

 

カエル,サンショウウオを食う例は少ない. 

※日本の報告とはかなり違うね.日本ではカエルやサンショウウオへの影響がかなり大きいとされている.レビューとしてはこの報告書がいいのかな?

cf. 兵庫県ワイルドライフモノグラフ12

www.wmi-hyogo.jp

・魚類

魚は少数だが頻繁に捕食する.また,水辺が乾いて捕りやすくなるときは一時的に重要な餌資源となる


・死肉やごみなども

 

2. 季節ごとの変動

2.1. 春

動物質>植物質(1年で動物質餌資源利用の方が多いのは春だけ)ザリガニ,昆虫,小さい脊椎動物堅果類は他の餌資源が利用可能になる前の春先では重要な餌資源となる.
アイオワの一部地域では春の食性のほとんどを穀物が占める(Giles 1940;Cabalka et al. 1953)


※これは島根の先行研究でも似た傾向がみられているね.

cf. 小宮ほか(2019)島根県におけるアライグマの生息実態Ⅱ.島根県中山間地域研究センター研究報告15 

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

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図.島根で利用された餌資源の季節変動(小宮ほか 2018)

 

2.2. 夏

主に果実を採食一部の地域ではトウモロコシが重要な餌資源である.動物質餌資源で最も重要なのはザリガニ,次いで昆虫,小さい脊椎動物
※ミシガンの一地域で夏の食性の59%がザリガニ(Dearborn 1932)

※ワシントン海岸ではほとんど海洋性無脊椎動物(Tyson 1950)

※ウィルコンシンの湿地ではマスクラットとザリガニ(Dorney 1954)


2.3. 秋

植物(特に果実と堅果)>動物質餌資源
※湿地において引き続きザリガニや魚などの動物質餌資源が重要という報告も(Dorney 1954)

※1000-2000の怪我をしたガチョウが食性のほとんどを占めていると報告も(Yeager and Elder 1945).
※これも島根と同様の傾向


2.4. 冬

堅果類が最も重要な餌資源.+小さいトウモロコシや残った果実で補っている
無脊椎動物や小さい脊椎動物の多様性もまた冬に重要.怪我した水鳥や捕らえられたマスクラットも,特に冬の湿地では捕食する.


2.5. 通年

ほとんどの研究が植物質餌資源の方が動物質餌資源より重要であると報告している.

いくつか反対意見も(Dorney 1954,Grinnell et al.1937)

 

ということで,原産国のアライグマの食性でした!!

おおむね傾向は日本同様

・基本的に植物質の方が多い

・ただし春には動物質が多い

また,日本でも確認されている樹上の鳥の巣襲撃やカメの卵捕食といった事例は原産国でも見られているのが興味深い.

一方で,カエルやサンショウウオはあっちではほとんど食べられていないそう.

これは興味深いね.日本と北米の差?それとも文献が古いから?

興味深い!!

2021.2.23執筆

 

武蔵野アライグマ #2調査報告①-爪痕調査(東村山市)-

~前回までのあらすじ~
武蔵野におけるアライグマの生息状況を調べようと思った.
先行研究をざっとあたると,埼玉では報告が多い一方,東京での報告は少ない.
埼玉の報告や埼玉・東京の捕獲数をみると狭山丘陵周辺に多く生息してそう.
しかし,狭山丘陵西端に位置する清瀬,東久留米,東村山は特に報告が少ない.

 


...ということで,文献調査もそこそこにフィールド調査に繰り出しました.

今回の目的はずばり「報告少ない地域のアライグマ生息状況の把握」!!
先述の通り,清瀬,東久留米,東村山では特にアライグマの報告が少ない.

これは大きく分けて2つの解釈ができよう.


①生息数が少ないから報告が少ない
→この場合,アライグマ低密度地域として管理をする必要がある.外来種は侵入初期の対策が重要.もし低密度地域なら,今こそ力を入れるべし!!

 

②実際は結構生息しているが報告が少ない
→この場合,知らぬ間に生態系(+住環境,農作物,文化財,健康...)が脅かされていることになる.かなりまずい!!

 

どっちなのかは調べてみないとわからない.
ひとまず「浅く広く」調べてみよう.

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 目次

1. 調査概要

2. 結果

3. 考察

4. 今後の予定

5. 注目!!北山公園

6. 謝辞

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1. 調査概要
今回,アライグマの生息を「浅く広く」調べる手法は「爪痕調査」.
これについては後日記事を書きます.

 

こちらが詳しいです↓.まとめるまではこちらをご参照.

www.kansaiwildlife.com

 

簡単に言うと,木造の寺社仏閣をめぐり,柱につく爪痕を調査するというもの.
爪痕の様子でアライグマが来ているのかどうかがわかる.
アライグマ→5本の平行な爪痕
ハクビシン→4本の平行な爪痕(ネコも?)


様々な注意点はあるけど,それは後発の記事でこちらから.(2021.4.25追記)

cf. アライグマ爪痕調査について

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

この手法は狭山丘陵北部の所沢市でも行われている(堀井ほか 2013).
その比較ができるというこのともふくめて,まずは東村山市で調べてみよう.


調査は2021年2月に行った.16の寺社仏閣を調査.
マップル地図(1:10,000)では約20の寺社仏閣が記載されているので,約8割といったところ.
追々残りの調査もします.

追加調査を終えて24の寺社仏閣を調査.マップル地図(1:10,000)に記載された寺社はおおむねまわれました.(2021.2.19追記)

 

また,ついでに湿地が広がる北山公園で足跡を探しました.
結構な面積の湿地だったが......!?

 


2. 結果

結論から言うと...アライグマ痕跡ほとんどなし!!

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痕跡調査結果(2021.2.19追加結果含め差し替え)

 

 

しかし,市の中央部でも発見されたよ.
緑地とかから広まってきたと考えると,ここにだけしかいないって考えるのは無理がある.緑地から広がってきたか...川を伝って入ってきたか...

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八坂神社(東村山市)の爪痕①

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八坂神社(東村山市)の爪痕②

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八坂神社(東村山市)の足跡(これはハクビシンか?)



また,国宝建造物(東京では2つしかない)の正福寺千体地蔵堂にもアライグマの爪痕が.アライグマの爪痕は1-2つしかなかったけど,ハクビシンらしき爪痕は結構あった.
文化財被害を改めて痛感.
しかし,最近の目撃は少ないそう.

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正福寺(東村山市)の爪痕(写真:友人)


湿地が広がる北山公園ではアライグマはおろか,中型以上の足跡は発見できず.
隣接する八国山緑地の湿地でも同様.

 

ちなみにハクビシンはこんな感じ

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アライグマと違い,ハクビシンの痕跡はほとんどの地点で確認された.

また,侵入の可能性がある(痕跡が結構多い)地点も多かった.


3. 考察
今回の結果では,アライグマの爪痕痕跡は少なかった(2地点).

所沢市の先行研究(堀井ほか 2013)と比べてみよう.

cf. 所沢市におけるアライグマ生息状況調査(堀井ほか 2013)

https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf

 

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先行研究(所沢市)との比較(2021.2.19追加結果含め差し替え)

所沢市の結果の凡例は以下の通り
●:現在も侵入
○:過去に侵入
▲:現在も訪問
△:過去に訪問
□:痕跡なし

 

所沢市では狭山丘陵周辺で痕跡が多かったみたい.東村山市との境は特に頻繁に利用しているわけではないものの痕跡は残っていたようだ.
今回の調査結果は,不自然とまでは言わないが,ちょっと痕跡が少ないように思える.
狭山丘陵からあまり南下していないのだろうか??

 

先述の可能性,
①生息数が少ないから報告が少ない
or
②実際は結構生息しているが報告が少ない
は正直まだわからない.

しかし,広い湿地が広がる北山公園で足跡が見られなかったのは興味深い.
今は繁殖期だし,足跡たくさんついているとは思ったんだが...
もしかしたら生息数,少ないかもしれない.
今後はもっと解像度の高い調査が必要だな.


今回15地点の調査でアライグマの痕跡があった2地点はいずれも大きな寺社(2棟以上ある).やっぱり寺社の爪痕調査は,寺社の規模がバイアスとしてかかると思う.
だから,爪痕がないこと=不在データと捉えてはいけないのは注意点だね.

 

4. 今後の予定

今後も「報告少ない地域のアライグマ生息状況の把握」を進めていこうと思う.
具体的には3点.


①継続-東-
清瀬や東久留米など報告少ない地域を爪痕調査で「浅く広く」

 

②継続-西-
→捕獲数が多く,生息も多そうな東大和武蔵村山でも爪痕調査を.
生息密度が明らかに違うなら爪痕調査の結果も差が出るはず!?

 

③より解像度の高い調査
→餌トラップ法による在不在調査,カメラトラップ調査など

cf. 餌トラップ法

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

当分捕獲とかはできないかな~
調査やってみたいって人は連絡ください笑
TwitterのDMでも,コメントでも.
(中高生以上,中高生は保護者の許可を)

 

5. 注目!!北山公園
北山公園や八国山緑地は外来種対策に力を入れているみたい!!

北山公園には外来種回収ボックスがあったよ.
子ども(+大人も)がつかまえたアメリカザリガニウシガエル(いるの!?)を回収するらしい!!
アライグマも捕まえて入れようかな!?(冗談です,許可ない捕獲はアライグマでも基本的に違法です)

 

 

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また,池ではアメリカザリガニ侵入防止のネットもしてあった.

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こうやって保全に力入れてくれるのは見ていてうれしいし,何か手伝いたい!!

 

 

6. 謝辞


調査同行してくれた社会活動家同期とサークル後輩2名に感謝とリスペクトを!!

 

 

何か感想,考察,疑問,議論等ございましたらコメントください.


2021.2.17.執筆

2021.2.19.追記

2021.4.25.追記

武蔵野アライグマ #1はじめに

武蔵野アライグマ #1はじめに

 

私は自然科学系の大学・大学院で野生動物管理を学んでいるのですが,その過程で色々アライグマを捕獲したり,文献読んだりしてきました(実はメインはイノシシの研究だったんですが笑).
その中で,やっぱり生まれ育った地元の自然科学的知見蓄積に微力ながら寄与したいなと思いました.

ということで,武蔵野のアライグマについて少しずつ情報を蓄積しようと思います.


1. 武蔵野(今回の対象地)

今回の対象地は武蔵野.埼玉南部-東京北部の地域.
明確な定義はないが,川越以南-府中以北くらいっぽい.
そこで,今回は以下の市町村に絞りたい.

 

埼玉県
飯能市入間市狭山市川越市所沢市ふじみ野市富士見市三芳町新座市朝霞市

東京都
東村山市清瀬市東久留米市西東京市武蔵野市三鷹市小金井市府中市国分寺市国立市立川市武蔵村山市昭島市,瑞穂町,福生市羽村市青梅市東大和市

 

武蔵野の自然環境の特徴としては,武蔵野台地と狭山丘陵が挙げられる.
武蔵野台地は荒川と多摩川の間の約700m^2の台地.


狭山丘陵は武蔵野台地中央に位置する丘陵.所沢市入間市東村山市東大和市武蔵村山市,瑞穂町にまたがる.中央山地から少し孤立した丘陵地で,"緑の孤島"とも呼ばれる.里山景観が有名.

※地質学には疎いのでいくぶんか不正確な記述あるかもしれないです

 

2. アライグマ生息情報

まず,現時点でわかっているアライグマの生息情報をまとめたい.

とりあえず以下を読みました.


野生動物保護管理事務所(2008)平成19年度関東地域アライグマ防除モデル事業調査報告書
岡友美,若澤英明(2013)玉川上水中流におけるアライグマと中型哺乳類の生息状況
重昆達也(2011)狭山丘陵の哺乳類.トトロのふるさと財団 自然環境調査報告書
堀井達夫,北浦恵美,横山信夫(2013)所沢市におけるアライグマ生息状況調査
農林水産省 埼玉県におけるアライグマ対策総合的な体制づくり(埼玉県の事例)
東京都自然環境局 都内におけるアライグマ・ハクビシンに係る状況

 

いずれも公開されている報告.
これらの報告のレビューは次回以降に譲るとして...


とりいそぎ,これらを超ざっくりまとめると武蔵野のアライグマ生息状況は下の図みたいになるかな?

 

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:アライグマの報告多い.確実に定着.密度も比較的高そう.
:アライグマの報告中程度.
:アライグマの報告少ない.

 

それぞれの市町村における報告は↓のようになる.

 

まずは環境省の調査.

アライグマに関する調査は2回
・第7回自然環境基礎調査(2005-2012)
・要注意鳥獣(クマ等)生息分布調査(2017)
これらのデータはshpファイルで公開されてます.もちろん報告書も.

 

www.biodic.go.jp

 

結果↓

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環境省の自然環境基礎調査結果

橙...2012(第7回調査)と2017の両方で確認

赤...2017のみ確認

(水色...2012のみ,灰色...両方でなし,武蔵野にこれらのメッシュはなかった)

この結果によると武蔵野全域に生息しているみたい.

赤い地域には新たに進出しているといえる.

 

続いて文献等その他の調査.
ただし,東京都捕獲はハンターメッシュごと.そのため各市町村の情報は,その市町村の大部分が属するハンターメッシュを参考にした.また,1頭程度の少ない捕獲の場合は青「生息未確認(またはかなり少ない)」に分類した.

 

 

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次に,中央山地帯や狭山丘陵の地形を載せてみよう.

 

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...たいしてなんもわからん.


ただ,少し気になるのは狭山丘陵(所沢-武蔵村山間のモヤ)の北西と南東の温度差.
狭山丘陵はアライグマのホットスポットになっている可能性は高い(というかなっていると思う).
しかし,武蔵村山東大和は生息情報が少ない.東村山に至ってはほとんど生息情報が得られていない.

 

個人的には,これ,過小評価なだけな気がするんだよな...

 


というのも多くの文献は目撃情報捕獲数を根拠にしている.このどちらも生息評価の指標としては怪しい.


まず目撃情報.アライグマはガッツリ夜行性で,感覚的にはタヌキやハクビシンよりも目撃しにくい.この時点で,過小評価しやすい指標であると言える.


捕獲数について.埼玉は年5000頭捕獲していて,東京は年500頭.10倍も差がある.東村山や清瀬などのベッドタウンはアライグマの農業被害も少ないし,狩猟も全く盛んではない(東村山の農業は果樹に偏っておりアライグマの被害は少なそう?).

 

ただ,本当に東村山・清瀬・東久留米が生息密度低いんだったら,逆ホットスポットとして管理の観点上興味深い要所になりうる.

 

 

3. 今後の予定
とりあえず軽く目を通しただけの文献をしっかり読みます.レビューもするかも.
その後,少しずつ調査を始めたいと思う.


まずは寺社仏閣の爪痕調査.時間的スケールでは評価しづらいけど,かなり簡単に在不在情報を得られる調査法.

cf. アライグマ爪痕調査(2021.4.25.追記)

satoyaman-raccoon.hatenablog.com


次は自動撮影カメラと餌トラップ法.自動撮影カメラはかなり詳細な情報を得られるけど,いかんせん金銭的に数をかけられない.餌トラップ法は↓参照.爪痕調査よりも確実に最近の訪問を知ることができ,自動撮影カメラよりも数をかけることができる.

satoyaman-raccoon.hatenablog.com


そんなこんなで地元のアライグマ情報を蓄積するぞ~
いつか防除計画や誰かの研究に役立つといいな.

 

2021.2.5. 執筆

2021.4.25.追記

農村におけるハクビシンの行動圏推定(鳥屋部・斎藤 2020)

鳥屋部文香・齋藤昌幸(2020)山形県庄内地方の農村景観における外来哺乳類ハクビシンの行動圏推定事例.自然科学研究33.15-20

 

 

www.jstage.jst.go.jp

 

f:id:Satoyaman:20210202030254p:plain

図1. ハクビシンの行動圏(鳥屋部・斎藤 2020)



今回はアライグマではなく,ハクビシンの生態の研究.
ハクビシンはアライグマほど侵略性は認められていない.
しかし,気候帯や垂直構造的にかなり適応性が高く,被害額もアライグマを上回る.

 

cf.全国の野生鳥獣による農作物被害状況
https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/tyozyu/attach/pdf/191016-1.pdf

 

一方で,その生態には不明な部分も多い.
今回のレビューは,その最新の報告.
nは少ないものの,もっともよく被害が起きると思われる農村での初の報告.

興味深い!!

 

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◎はじめに

・日本のほとんどの地域に順応
・日本の機構に順応した高い繁殖能力
・被害も多い(全国で4億円)
・日本の行動圏の研究は森林と都市郊外→農村では報告なし

 

◎方法

調査地
山形県鶴岡市
ブナ,ミズナラ,スギ,果樹園,水田,住宅地

 

4個体(測位点が30点超える個体のみ解析)
八木アンテナでラジオテレメトリー調査
18:00-25:00
15分以上間隔あけて測定
30点以上測位点を持つ個体に対して,行動圏,コアエリアを推定

 

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表1. 捕獲個体と測位点数等(鳥屋部・斎藤 2020)


行動圏:100%最外郭法・95%最外郭法・95%固定カーネル法
コアエリア:50%最外郭法・50%固定カーネル法

 

※最外郭法:一番外のポイントを結ぶ感じで行動圏推定
固定カーネル:利用の密度なども考慮?

cf. 

行動圏推定の基礎知識2014.8

 

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(鳥屋部・斎藤 2020,一部改変)

 

行動圏
メス1(F01):森林と農地が含まれていた.狭い→放棄果樹園使っている+測位点少ないから?
オス2(M02):森林と農地が含まれていた
オス3(M03):森林と農地が含まれていた
いずれも行動圏重複→先行研究と同じ

 

※アライグマは200-1400haなので,それに比べると結構小さい?

cf. 島根での報告

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

面積は
森林>農村(本研究)>都市郊外
先行研究曰く「都市化した生息環境ほど行動圏は小さくなる」←先行研究通り

・個体数が少ない+季節も限られてた
→一般化はできない

 

 ※サンプル数は少ないものの,結果としては先行研究から推測された通りに出ていて十分にあり得そう!!

※行動圏だけでなく,コアエリアも重なっているのは興味深い!!かなり利用価値の高い場所だったのかな?コアエリアの結果も出ていたが,特に考察はされていなかったのでここに関しても考察あると嬉しい.

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図2 コアエリア(鳥屋部・斎藤 2020)

 

執筆:2021.2.2

目次

自分の振り返り用です.

 

アライグマ備忘録について - アライグマ備忘録

 

レビュー:『日本の外来哺乳類』5アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-(阿部,2011) 前編 - アライグマ備忘録

レビュー:『日本の外来哺乳類』5アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-(阿部,2011) 後編 - アライグマ備忘録

 

巣箱型箱罠について - アライグマ備忘録

 

『アライグマ防除「日田市前津江式」で成果 住民が役割分担,生息数減少』(大分合同新聞) - アライグマ備忘録

 

レビュー:『兵庫県における外来哺乳類の現状と課題』 4章 住民主体によるアライグマ捕獲隊の活動事例~大山捕獲隊の活動記録~ - アライグマ備忘録

 

レビュー:『ニホンジカとアライグマにおける低密度管理手法「遅滞相管理」の提案 』(浅田 2013) - アライグマ備忘録

 

レビュー:『兵庫県における外来哺乳類の現状と課題』 3章兵庫県神戸市におけるニホンアカガエル繁殖期に出没・カエル捕食したアライグマの記録 - アライグマ備忘録

 

日本のアライグマ管理はどうあるべきか(2020.6.20更新) - アライグマ備忘録

 

狩猟?管理捕獲?有害鳥獣捕獲?-野生鳥獣捕獲の行政的枠組みの整理- - アライグマ備忘録

 

レビュー:大分県北西部アライグマ防除推進業務報告書 前編(捕獲編) - アライグマ備忘録

 

前肢拘束型アライグマ捕獲器について - アライグマ備忘録

 

レビュー:北海道アライグマ防除実施計画 - アライグマ備忘録

 

アライグマ防除実施計画の比較レビュー(北海道/兵庫篠山/東京/埼玉/神奈川) - アライグマ備忘録

 

【随時更新】アライグマの生態系への影響の報告(2020.8.20) - アライグマ備忘録

 

レビュー:Egg Trapの有効性と混獲防止効果の検証(阿部ほか,2006) - アライグマ備忘録

 

【現場の工夫】レビュー:近畿地方アライグマ防除の手引き(環境省近畿地方環境事務所 2008) - アライグマ備忘録

 

レビュー:外来生物法に基づくアライグマの防除捕獲【動画】 - アライグマ備忘録

 

【随時更新】短めレビューまとめ(2020.5.30最終更新) - アライグマ備忘録

 

TBS 噂の東京マガジン~アライグマが!ハクビシンが!激増する都会の野生動物に異変!?~ - アライグマ備忘録

 

【動画あり】Egg Trapについて~利点や使い方,仕組み,入手方法など~ - アライグマ備忘録

 

レビュー:野幌森林公園地域におけるアライグマの行動圏(池田ほか,2001) - アライグマ備忘録

 

レビュー:アライグマの行動圏とその空間配置(倉島・庭瀬,1998)-前編- - アライグマ備忘録

 

【まとめ】アライグマのアオサギコロニーに対する影響 - アライグマ備忘録

 

【実録】アライグマ来てる!?餌トラップ法 - アライグマ備忘録

 

レビュー:環境省YouTubeLive『第2回鳥獣の保護管理のあり方検討会』 - アライグマ備忘録

 

『第1回鳥獣の保護管理のあり方検討会』について - アライグマ備忘録

 

【レビュー】島根のアライグマ生息実態-生態,専用罠,GPS,探索犬- - アライグマ備忘録

 

レビュー:新潟のアライグマシンポジウム(途中まで) - アライグマ備忘録

 

【英語論文】レビュー:アライグマとタヌキの生息地利用(Okabe and Agetsuma 2007) - アライグマ備忘録

 

NHK サイエンスZERO 「“害獣”イノシシ研究最前線 科学の力で共生の道を」 - アライグマ備忘録

 

【レビュー・解説】『アライグマ被害 過去5年で最悪』(NHK首都圏) - アライグマ備忘録

 

 

 

 

 

【レビュー・解説】『アライグマ被害 過去5年で最悪』(NHK首都圏)

『アライグマ被害 過去5年で最悪』(NHK首都圏)

埼玉でのアライグマ被害が増えているとのニュース.
NHK NEWS WEB (2021/1/5)

このニュースについて,レビューと補足情報です.

 

www3.nhk.or.jp

 


捕獲数7223頭  ...過去最多,-2015年の倍の水準

被害額2136万円 ...過去5年間で最多

(数値はいずれもニュース本文より)

 

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図1. 埼玉県におけるアライグマ捕獲数推移(埼玉県 2017)

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表1. 埼玉県におけるアライグマによる農業被害額の推移(埼玉県 2017)

cf. 埼玉県(2017)埼玉県におけるアライグマ対策の総合的な体制づくり

埼玉県におけるアライグマ対策総合的な体制づくり(埼玉県の事例):農林水産省

 

 

埼玉県による資料(埼玉県 2017)によると,生息地域・捕獲地域は図2のとおり.もう全域に広まっているという感じ.
もっともっと捕獲しないと減らないということである.
(アライグマは生息頭数の50%を捕獲しないと減らない,被害軽減するには70%とか獲らないと...)

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図2. 埼玉県におけるアライグマの分布状況(埼玉県 2017)

 

では,アライグマはどういう捕獲があるのか?
おおきく分けて3つ


外来生物防除の捕獲:生態系保全等が目的
②有害鳥獣捕獲:農業被害軽減が目的
③狩猟:目的は自由

 

アライグマは狩猟の人気は低いので,主に①と②で捕獲していると思われる.
①に関して,埼玉県は埼玉県アライグマ防除実施計画を策定している(埼玉県 2011).これの計画期間(第3期)は2011.3-2021.3なので,来年度からは第4期のもっと本腰を入れた計画が策定されることが予想される.

他の都道府県のアライグマ防除計画がどうなっているかは下記をcheck it out

 

cf. 埼玉県(2011)埼玉県アライグマ防除実施計画

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0508/gairai/documents/634726.pdf

cf. アライグマ防除計画の比較

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

cf. アライグマ捕獲の種類

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 


ニュースの本文では以下の2点に言及.
・新型罠の開発
・捕獲従事者の確保

 

新型罠の開発について,
「アライグマの手を伸ばして獲物を取る習性を利用し筒状のアライグマ専用の捕獲装置を開発」
とある.おそらく,選択的トリガー式箱罠のことであろう(下記参照).この罠の性能を評価した論文・報告書等は少ないので,有効性についてはここでは言及しない.選択的罠は他にもたくさんあるよ(下記参照).

 

cf. 選択的トリガー式箱罠(記事後半)

satoyaman-raccoon.hatenablog.com


捕獲従事者の確保について,
「狩猟免許がなくても捕獲できるよう農家や自治体職員を対象に、講習会を開くなど対策に力を入れていく」
とある.これは下記URLのような研修会を行うことで捕獲のハードルを下げることが期待される.先述の捕獲の枠組みで言うと,「①外来生物防除の捕獲:生態系保全等が目的」である.ただ,結局自助の推進でしかない気がするので不安.

 

cf. アライグマ捕獲従事者研修会

www.pref.saitama.lg.jp

 

行政が自助に頼らない捕獲に乗り出さないと減らない気もするけどね.

 

以上

2021.1.5 執筆