東出大志,竹内大悟,山崎晃典,鷲見羽衣子,三浦慎悟.
近年の狭山丘陵における中型哺乳類の生息状況とその変化―アライグマの定着・増加による在来哺乳類への影響―.
人間科学研究32(2);197-204
論文レビューです.
狭山丘陵におけるアライグマの調査に関する論文を発見した!!
12地点とやや少ない地点数ながら,中型哺乳類を網羅的に調査したうえでアライグマの定着に言及しているものだ.
これはかなり面白そう!!
しかも著者陣もアツいメンバーだ.
東出先生は岐阜大所属の先生で,2020年まではあの兵庫県立大学に所属されている先生.(2021.3.14.訂正,大変失礼いたしました)
自分はイノシシの掘り起こし痕跡の分布に興味があるんだけど,東出先生も動物の密度指標の研究をされていて,イノシシ掘り起こし痕跡の密度指標化に尽力されているんじゃなかったかな.
自分のやりたいことを,自分よりはるか高い水準でやられている方だ...足元向けて眠れんぞ,こりゃ.
そして面白いのは,はじめにに書いてあることが武蔵野アライグマの同期とほぼ一致しているということ.パクったんじゃないよ!!ぼくがリサーチ不足だったってことだ...
でも自分の狭山丘陵の認識がそんなに的外れじゃなかったっぽくて安心.
cf. 武蔵野アライグマ
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
例によって赤字は自分の感想・注釈です.
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目次
1. はじめに
2. 方法
3. 結果
4. 考察
5. 武蔵野アライグマの観点から...
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1. はじめに
・狭山丘陵は生物多様性が高い里山
・しかし,重昆(2011)の文献調査こそあれ定量的な調査はほとんどされていない.
・そして,近年アライグマが問題になっている.
・しかし,狭山丘陵のアライグマ動向は把握されていない.
・先行研究から言って,狭山丘陵でも生態系に影響ある可能性あり.
2.方法
カメラトラップ調査
2016.1-2016.12
早稲田所沢キャンパスに12地点(4-落葉広葉樹林,7-林縁湿地)
過去のカメラデータと比較
・山崎(2012)による2010-2011の調査
・鷲見(2014)による2013の調査
①撮影頻度の年変動
...撮影頻度(RAI)をGLMで解析(説明変数:調査年)
②種間関係(撮影頻度の影響)
...タヌキ撮影頻度に対するアライグマなどの撮影頻度の効果検証.タヌキの撮影頻度RAIを目的変数,アライグマ,ハクビシン,イエネコの撮影頻度を説明変数.
3. 結果
主な中型哺乳類の撮影回数は以下の通り.
タヌキ349回
アライグマ146回
イエネコ59回
ハクビシン35回
①撮影頻度の年変動
・アライグマ2011-2016に有意差あり
・その他の中型哺乳類については有意差なし
②種間関係(撮影頻度の影響)
・タヌキとアライグマに正の効果
4. 考察
・タヌキが一番多く撮影された→狭山丘陵においてはタヌキが一番一般的な種.
・アライグマは年追うことに増加(ハクビ,ネコは年比較で有意差なし)
→アライグマが増加していることが示唆(撮影地点が年ごとに違うもののいずれも水辺)
・埼玉県の捕獲数は増えているが,狭山丘陵での個体数低減にはつながっていないかも.
・タヌキとアライグマに正の効果
→正の影響ではなく,2種の選好環境が類似(先行研究とは異なる結果)
ただし,実際は負の相関となる事象も,環境収容力考慮しないと,みかけ上正の相関が得られる場合もある.
→今回の結果から競合の可能性論じるのは難しい.
※環境収容力が十分にある場合(アライグマとタヌキがどっちもいても餌資源が十分など),本来競合するアライグマ・タヌキがまだ共存できている→好みが近いから正の相関として表現される
ということだろうか
・アライグマ増加していたものの,タヌキ等在来中型哺乳類の撮影頻度RAIに変化なし
→現時点ではアライグマ増加が在来中型哺乳類に与える影響は大きくないかも
・アナグマがちょっとだけ映った.
→先行研究的にもめっちゃ少ない.今後調査する必要あり.
5. 武蔵野アライグマの観点から...
僭越ながら,今自分が行っている武蔵野アライグマ調査と合わせて考えさせていただく.
cf. 武蔵野アライグマ#1
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 武蔵野アライグマ#2
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 武蔵野アライグマ#3
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
本論文における調査地は,地図上の赤丸.
狭山丘陵北部ではアライグマが増加しているとのこと(本論文).
狭山丘陵南部でもアライグマの糞尿被害があったりと,なかなかの密度が予測される.
狭山丘陵東部では比較的生息密度が低いのかな?
一方で,本論文では在来中型哺乳類に影響はあまりないとのこと.
自分としてはアライグマの生態系への影響は,大きく2つあると思う.
すなわち,「在来種の捕食」と「在来種との競合」である.
流れとしてはこんなかんじ?↓(これは推測であり,報告があるわけじゃありません)
①アライグマ侵入
↓
②アライグマ定着
↓
③両生類等が捕食で壊滅
↓・・・ここらへんから環境収容力超え始めて...
④在来中型哺乳類との競合顕著化
なのかなと.
狭山丘陵北部・南部では③前後
狭山丘陵東部では②前後
なのかなと推測しています.
今後は文献調査で上記フローが認識として正しいか勉強しながら,上記の推測の裏打ちとなるデータを収集を続けたいと考えています.
以上
2021.3.14. 執筆
2021.3.14. 訂正