~前回までのあらすじ~
武蔵野におけるアライグマの生息状況を調べようと思った.
先行研究をざっとあたると,埼玉では報告が多い一方,東京での報告は少ない.
埼玉の報告や埼玉・東京の捕獲数をみると狭山丘陵周辺に多く生息してそう.
そこで,特に報告が少ない狭山丘陵西端の東村山で爪痕調査を行った.その結果,東村山の寺社仏閣には爪痕が少ないことがわかった.
東村山市は生息報告が少なく,爪痕も少ない.これは整合性の取れた結果といえそう.
しかし,爪痕調査は地域によってはあんまり参考にならないこともあるらしい(めっちゃ生息しているのに爪痕はない事例あり).
cf. 武蔵野アライグマ#2 爪痕調査-東村山偏-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 武蔵野アライグマ#3 爪痕調査-東大和編-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
前回の報告からはや5ヶ月…
報告遅れてすみません…
しかしこの5ヶ月,サボっていたわけじゃないんです!!
なんと…
狭山丘陵周辺爪痕調査完了しました!!
所沢は先行研究(堀井ほか 2014)があるので,それ以外の5市町(埼玉県入間,東京都東村山市,東大和市,武蔵村山市,瑞穂町)で行いました.
合計103か所!!
今回はその調査結果の報告です.
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目次
- 調査概要
- 結果
- 考察
- 今後の予定
- 謝辞
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1. 調査概要
今回,アライグマの生息を「浅く広く」調べる手法は「爪痕調査」.
簡単に言うと,木造の寺社仏閣をめぐり,柱につく爪痕を調査するというもの.
爪痕の様子でアライグマが来ているのかどうかがわかる.
アライグマ→5本の平行な爪痕
ハクビシン→4本の平行な爪痕(ネコも?)
詳しくはこの記事でまとめました.
Cf. アライグマ爪痕調査について
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
今回はそれ以外,西側南北の結果.
2. 結果
結論からいうと…
半分くらいの寺社で爪痕を確認!!
市町村名の横の数字は最新年度の捕獲頭数.埼玉県は2020年度,東京都は2018年度.
東京都のカッコ内はCPUE(捕獲効率)の値.1.0くらいで密度高め.
だから瑞穂町とかはヤバそう.
この数値のデータについてはまた追って記事出しますわ.
詳細データも表にしてみたよ.
こうみると,東村山だけアライグマの爪痕少ないものの,それ以外では高い割合で爪痕が見つかっているようだ.
寿昌寺(入間市)では,このように侵入防止ネットを張っていたよ.
そして,狭山丘陵や加治丘陵に近い寺社で爪痕が多く,街中の寺社では少ない気がする…
ということで,解析してみようか.
まず,国土交通省から土地利用データ(100 mメッシュ)をダウンロードし,森林のみ抽出.
https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html
そして,寺社周辺400 m内のセル数(メッシュ内に含まれるセルの重心の数)を算出してみた.
やっぱり,印象通り爪痕がある寺社は森林に囲まれていることが多いようだ.
(t検定,p<0.05)
もっとしっかり言うならば,より詳細な土地利用データを用いて面積算出したほうがいいんだけど,今回はザックリ見ることが目的なので簡略的な解析でご容赦ください.
3. 考察
今回の考察は大きく分けて2つ
- 狭山丘陵のアライグマは西側で多そう
- 爪痕がある寺社の周辺に森林が多いのは…
・狭山丘陵のアライグマは西側で多そう
前回までは極めて断片的なデータしか得られなかった.でも,計6回以上の調査を経て全貌が見えてきた.
どうやら,東大和市以西では爪痕が多いようだ.そして,捕獲効率は西に行くほど高くなっている.以上から,西ほどアライグマが多いことが推察される.
埼玉県はCPUEを算出していないため,南北の比較はできないのが心残りだが…
・爪痕がある寺社の周辺に森林が多いのは…
今回の調査結果から,爪痕がある寺社の周辺に森林が多いことが示唆された.この原因は大きくわけて3つある.
◎アライグマは森林を好む
これは一番シンプルな読み方.森林にアライグマが多いから森林近くの寺社に爪痕が残る.そういう考察はよく見るし,ありえそうだが…断定するにはちょっと早いか.
◎寺社爪痕調査は環境要因が大きなバイアス
アライグマは森林だけでなく街にもいるが,森林だと爪痕が残りやすい説.
たとえば,
街には側溝や納屋,空き家などカバーが森林より多い
↓
寺社のカバーとしての価値は森林>街
↓
アライグマ密度が変わらなくても,森の寺社の方が好まれる
これも十分ありえそうな説.
◎生息密度が低く,森林が少ない東村山が下に引っ張っている
うーん,これはどうだろ.武蔵村山や東大和などでも街中の寺社には爪痕がない傾向があるから,この説は薄いと思う.
アライグマの環境選択の問題なのか,環境要因によるバイアスの問題なのかは今回の結果や現状の先行研究では断定できない.
今後の調査に期待大.
4. 今後の予定
今回で爪痕調査はとりあえず終わった.
そして,(これは後日まとめますが)行政の捕獲データもゲットした.
- ひと段落着いたので,ちゃんとした形でまとめます
とりあえず今回の内容を野生生物と社会学会大会2021でポスター発表してきます.そのあと論文か報告書かなんかにまとめて形に残します.
- より解像度の高い調査(餌トラップ調査,カメラトラップ調査)
考察や爪痕調査の記事でも触れた通り,アライグマの爪痕調査は簡易で広範囲で行える一方で不確実性も高い.ということで,武蔵野のアライグマ調査をより補強するためにまだまだ調査をします.様々なポイントでより詳細がわかる調査を行う予定.
たとえば,餌トラップ調査.これは,設置から回収までの1週間でアライグマが来たか否かが判断できるというもの.
これを狭山丘陵周辺の5か所くらいでやりたいなぁ
まだまだ報告続けますよ.
調査やってみたいって人は連絡ください笑
TwitterのDMでも,コメントでも,メールでも.
(中高生以上,中高生は保護者の許可を)
raccoon.memorandum☆gmail.com(☆を@にかえてね)
チェックしてください.
5. 謝辞
調査同行してくれた同期・後輩諸氏に感謝します.
何か感想,考察,疑問,議論等ございましたらコメントください.
2021.9.14 執筆