東京都におけるアライグマ生息状況の推定
東京都におけるアライグマ生息状況の推定
日本の多くの地域で問題になっているアライグマ.
しかし,アライグマの生息状況はなかなか明らかになっていない.
※ただし,北海道や神奈川県,千葉県では結構明らかになっていたりする.
cf. 北海道アライグマ防除計画
cf. 神奈川県アライグマ防除実施計画
cf. 千葉県アライグマ防除計画
そこで,今回は東京のアライグマ生息状況を捕獲実績から明らかにした.
しかし,相対評価でしかないこと,統計的にはまだまだ精度が低いことなど課題はかなり多いので,ざっくりとした予想に留まることは注記しておきたい.
これをふまえて,より詳細な情報収集・調査が必要.
--目次------------------------------------------------------
1. CPUEとは
2. 東京の現状-CPUE-
3. 東京の現状-必要捕獲努力量-
4. 周辺との関係
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1. CPUEとは
アライグマの生息状況を把握するためにはCPUE(捕獲努力量当たりの捕獲数)を算出することが重要.
CPUEとは,どれだけ頑張ったらどれだけ捕獲できたかという指標.
指標として捕獲数や農業被害額を算出している場合もあるが,これだけでは不十分.
捕獲数:
捕獲数10として.1日で10頭とれたのか,100日で10頭とれたのか?前者ならかなり高密度だろうし,後者なら密度が低いかもしれない.捕獲数だけでは,現状はわからない.
農業被害額:
農業被害防止の観点からは重要な指標.しかし,生態系被害も考慮すると,農地が少ない場所などの生息状況も把握すべき.
2. 東京の現状-CPUE-
ということで,今回は情報が少ない東京の現状についてまとめた.
東京のアライグマ防除計画は↓から
cf.東京都アライグマ・ハクビシン防除実施計画
しかし,生息状況は「アライグマは多摩地域を中心に分布が広がっており、個体数 も増加傾向で区部への侵入も進んでいると推定」と,なかなか詳細には掴めていない状態.
そこで,開示請求で捕獲実績(捕獲数,捕獲努力量,CPUE)をいただいて図示.
CPUE を算出したところ,生息密度は区部で比較的低く,多摩で高い可能性が示唆された.特に,狭山丘陵,関東山地,多摩丘陵は生息密度が高いホットスポットとなっている可能性がある.
3.東京の現状-必要捕獲努力量-
続いて,必要捕獲努力量を算出してみた.
本報告の必要捕獲努力量とは9年で根絶するためにどれくらい罠をかける必要があるかという値.
個体数推定には浅田・篠田(2009)を,個体群動態推定には坂田(2009)を用いた.
※ただし,こちらはCPUE以上に統計的に脆弱で,取扱要注意!!
厳密な計算に必要な情報が得られていないため,かなり粗い概算にとどまっている.
cf. 浅田・篠田(2009)千葉県におけるアライグマの個体数試算(2009 年)
https://www.bdcchiba.jp/publication/bulletin/bulletin01/RCBC1racoon.pdf
cf. 坂田(2009)生息頭数変化に及ぼす捕獲効果のシミュレーション
今の捕獲努力量が足りているのか?
かなり不十分(1.5倍以上必要)
不十分(1.0~1.5倍必要)
足りている(~1.0倍必要=十分かも?)
情報不足
にカテゴライズして色分けしてみた.
大まかな傾向はCPUEと同じである一方で,CPUEがそこまで高くなくても赤く染まる地域があるね.
4. 周辺との関係
隣接県との関係はどうなっているのか.
ありがたいことに,千葉県と神奈川は結構情報の収集がされている.
例えば.
神奈川県では,近年,横浜・川崎で生息密度が上昇していることが示唆されている.
そう考えると,隣接する町田市が危機的状況なのは納得できる.
多摩市や稲城市は情報がないが,多摩川以南は生息密度が高い可能性は高いだろう.
また,必要捕獲量を見ると23区はほとんど大きな問題はみれないが,葛飾区だけ真っ赤.
これは千葉県野田市あたりからの侵入の可能性がある.
Hirose et al.(2021)ではDNAから千葉県のアライグマの侵入経路を明らかにした.
cf. Hirose et al.(2021) Population genetic structure of raccoons as a consequence of multiple introductions and range expansion in the Boso Peninsula, Japan. Sci Rep 11, 19294
これによると,葛飾区の北部の野田市から新たな侵入が確認されている.これが埼玉由来か茨城由来かはわからないが,葛飾区のアライグマもそこが由来かも?
隣接した足立区の状況も心配.
東京のアライグマの現状推定でした.
まだまだ情報不足ですが,狭山丘陵・多摩丘陵と西側関東山地がやばそうなことがわかりました.
とりあえず私は狭山丘陵の防衛を固めるために奔走したいと思います.
以上.
2022.1.17. 執筆