武蔵野アライグマ #4 論文出版!!(渡邉 2023)【レビュー】
今日は論文紹介 兼 ご報告
この度...やっと初の査読付論文が発行されました!!!
査読付論文を出すというのはわりと夢だったというか一つの目標だったので、ひとあんしんです...
論文のレベルとしては高くないんだけど、ちゃんとした形で出せたというのは大きい...!!
そして、本ブログの連載?武蔵野アライグマ調査報告の第一章完結です!!
ということで、今回は
渡邉(2023)爪痕調査と捕獲記録に基づく狭山丘陵のアライグマ生息状況の評価
を紹介します
本論文は題名の通り爪痕調査と捕獲記録から狭山丘陵のアライグマの生息状況を調べたというもの。
狭山丘陵は自然豊かな里山なんですが、アライグマにとっては最高な環境。
同時にトウキョウサンショウウオなどアライグマに捕食される希少種も生息しています。
cf.トウキョウサンショウウオ:長期調査で分かった個体群の衰退と絶滅
http://salamander.la.coocan.jp/salamander/pdf/20report/20report_tl.pdf
狭山丘陵の保全のためにはアライグマ対策も必要!!...なんですが、実はアライグマの生息状況(どこで多いとか)は全くわかっていません。
所沢市(狭山丘陵囲む6市町のうち北東の市)では爪痕調査やカメラトラップ調査が行われているのですが、狭山丘陵全体のスケールではわかってない。
しかも難しいことに、狭山丘陵は東京と埼玉にまたがる丘陵。行政界を超えた調査は行政的にはやりづらいよね...
cf. 所沢市におけるアライグマ生息状況調査
https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf
cf. 近年の狭山丘陵における中型哺乳類の生息状況とその変化-アライグマの定着・増加による在来哺乳類への影響-
そこで、私は「とりあえず超ざっくりでいいから狭山丘陵のアライグマのこと調べておきたいよね」ということで、
簡易に広範囲を調べられる
・寺社仏閣の爪痕
・捕獲情報
の2点を調べ、分析しました。
しかし、寺社仏閣の爪痕は以前記事で書いた↓のように精度が低く、問題点が多い手法。
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
そのため、今回の結果は「ざっくり広く見る」ということが目的だということに留意が必要です。
たまにこの爪痕データを解析している論文もありますが、個人的にはデータ一つひとつの信憑性は低い手法なのであまり解析とかはしないほうがいいかと...
ただし、何度も書くように専門的な技術を用いずに広範囲の大まかな状況を把握する手法としては有用。
生息状況がわかっていない地域の、とっかかりの調査としては最適だと思っています。
短報でカロリーも低い論文なので、方法と結果はあっさり言っちゃいます。
おそらくですが、東京は西から東にアライグマの分布が拡大しています。
そして!!本論文執筆時点(2022.3)では、東村山市は捕獲ゼロでしたが、2021年度から捕獲され始めているらしい...
cf.東村山市web site
www.city.higashimurayama.tokyo.jp
東村山市は分布の最前線といえるかもしれません。
今度(来年度になると思うけど)、東村山市の中大型哺乳類相に関する報文も出そうと思っているで、乞うご期待。
そして、今回の結果を踏まえて、我々はどう狭山丘陵を保全するべきか考える必要があります。
もちろん
1捕獲圧をあげる
ことは重要です。そのためには、
1'住民への普及啓発・免許不所持者への講習
などの整備が必要でしょう。
そして、個人的には
2保全優先地域を選定、重点対策をする
が必要だと思います。正直、すぐにはアライグマ減らせません。
しかし、それでは地域絶滅してしまう種がいるかもしれない。そこで、重点的に保全する地点を決めて、重点捕獲(攻)や柵による防護(守)などをすすめるべきではないでしょうか。
最後にはなりましたが、本論文は多くの方の協力があって書き上げることができました。
指導教員をはじめ、お世話になって皆さまありがとうございました。
調査手伝ってくださった皆様、ありがとうございました。
2023.11.05執筆
捕獲圧あげたらCPUEはどうなるの①(雑論文紹介 Skalskiほか1983)
捕獲圧あげたらCPUEはどうなるの①
(ざっくり論文メモ Skalskiほか1983)
アライグマのモニタリングについて,考えてみた.
密度指標の捕獲効率って,捕獲努力量変えたらどう変動するの??
今回の内容は要約するとこんな感じ
---------------------------------------------------------------------
・アライグマの密度指標として捕獲効率(捕獲数/捕獲努力量)が用いられる
・でも,同じ密度でも捕獲努力量あげたら分母大きくなるから値としては下がっちゃいそう
・では,捕獲効率(捕獲数)と捕獲努力量の関係ってどんな感じなの?
・捕獲数E(n)は↓の関係らしい(Nが個体数,cが係数,fが捕獲圧),つまり捕獲圧は次数に来る
---------------------------------------------------------------------
目次
1. はじめに
2. 本編
---------------------------------------------------------------------
1. はじめに
アライグマの生息状況を知るためには,増減や密度の濃淡を知ることが重要だろう.
でも,実際の個体数などはどうやったってわからない.
そのため,我々は密度指標を用いてその動物の様子を推し量る
例えば,シカでは個体群密度が高くなったら...
・シカの糞が増えるんじゃない?=糞粒密度・糞塊密度
・目撃されやすくなるんじゃない?=目撃効率
・捕獲されやすくなるんじゃない?=捕獲効率
・調査したら見つけやすくなるんじゃない?=区画法・ライトセンサス法・撮影頻度
などなど,複数の結果からシカが増えたか減ったか推測する.
しかし,アライグマの場合は,糞は見つけづらく,目視もしづらい.
そのため,アライグマで用いられる密度指標は主に2つ
・捕獲効率
・撮影頻度
cf. 研究ベースでは足跡トラップ法も有効とされる
岩下ほか 2016アライグマ(Procyon lotor)防除事業のための分布域と相対密度に関する研究
https://nodai.repo.nii.ac.jp/record/644/files/2015-728.pdf
このうち,実際に行政が主導でアライグマ対策するとき,中々カメラトラップ調査はできないので,捕獲効率が大事だといわれている(ぼくもそう思う)
ただし,密度指標ってことは,
「密度が高くなるほど,密度指標の値も大きくなる」
という前提がある.
言い換えれば
「密度が同じだったら,密度指標の値も変わらない」
という前提を持っている.
しかし,捕獲効率は捕獲数÷努力量(100わな日)という割り算で算出されるため.
めっちゃ罠かけたら捕獲効率の値は下がってしまうだろう
これはこまった...
それじゃちゃんとした密度指標にならないんじゃない?
ひとまず,「どれくらい捕獲圧あげたら,どれくらい捕獲効率は下がるの?」という点を調べてみよう.
2. はじめに
ということで,関連論文を読んでみました.
Skalskiほか(1986)Competing probabilistic models for catch-effort relationships in wildlife censuses
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0304380083900455
これは,仮想の状況から2つのありえそうなモデルを構築し,
実測値(ネズミの標識再捕獲による個体数推定値)との整合性を調べ,
その有効性を調べた研究
今回は,結果としてよかったモデルを備忘録残すよ
まず,ある調査地(面積A)における全個体(N頭)のそれぞれについて考えてみる
それぞれの個体について,そのすぐ近くにわなを置いたら捕獲されるとしよう.
この「すぐ近く」を"捕獲範囲a"としてみる
[まずある1個体について考える]
では,わなをひとつ置いてみる.
この個体の捕獲範囲aにたまたまその罠が入る確率は,a/Aとなる
この個体の捕獲範囲aにたまたまその罠が入らない確率は,1-a/Aとなる
次にわなをf個置いてみる.
この個体が捕獲されない(f個のうち1個も捕獲範囲に置けない)確率は,
逆に言えば,捕獲される確率pは
計算しやすいように&わかりやすいように式変形をしよう
よくわからん定数のf乗ってやだな(a/Aは定数だが)
ネイピア数eの累乗ならよく見る形だよね
ということで,式変形してネイピア数eの累乗の形にしてみる
ので,(1-a/A)^fをまずlogとって,exp()とってみる(値はかわらない)
元の式に戻すと...捕獲される確率pは
このとき,定数項 log(1-a/A)を-cにおきかえると(log(1-a/A)は負の数),
[つづいて,個体数Nの地域で考える]
以上では1個体が捕獲される確率pを考えた.
これがN頭いるのだから,捕獲数nの期待値E(n)は
ここで2次式にテイラー級数展開*で近似すると**
*ブログ筆者はテイラー級数展開知らなすぎるので,式変形の詳細は分からん(ググった程度).2次式に近似すると↓になるようだ.
というのも,e^xのテイラー級数展開は↓らしくて,これを2項目までやると↑になるっぽい
https://k-san.link/exp-taylor/
**論文では,ここらへんから「個体群ごとの考え方」から「プロットごとの考え方」に移行しています.個体数N→各プロットの個体数=平均μの乱数,捕獲努力量f→プロットiの捕獲努力量fiみたいな感じ.でも自分用メモは簡潔にしたいので,このままいきます
したがって,捕獲効率n/f(頭/わな日)の期待値E(n/f)は,両辺を努力量fでわって
つまり,たしかに個体数が多いところでは捕獲数も捕獲効率も大きいけども,
捕獲圧をあげると上の式に従って,上り幅が小さくなっていく.
例えば,同じ個体数だったとしても
わなを増やせば増やすほど,捕獲数は↓のようになる
そのときの捕獲効率は↓となって値自体は小さくなってしまう.
CPUEを密度指標として使っているものの,同じ生息密度だったとしても捕獲努力量によって値が変わってしまうようだ...
ではどうすればいいか...
結論:わからん
なんか捕獲努力量を式変形して補正CPUEみたいな比較できる値にならないかな~とおもったけど,
全く思いつきませんでした.
とすれば,
・複数の密度指標と比較したり,REST法などで密度推定して比較することでcを推定
・地域全体でcが同一であると仮定して,外挿し,補正?する.
とかはできるかも?
でもそんなに調査研究にコストかけるべきか?
だってそもそも捕獲の質がバラバラ.地域によっても捕獲率とか違いそう.
だとすると,ラフな値であることを前提に考えるべきなのかも.
例えば,生息状況を推測するモニタリングとしての捕獲効率は,捕獲努力量で用いるデータにフィルターかけるなど.
○○<捕獲努力量<△△の地域でのみ算出するみたいな
.
全データ使った捕獲効率によるモニタリングと,上記のような一部データのみ使ったモニタリングで得られる傾向に違いがあるかを考える必要があるかもね.
今後も「どういうモニタリングが必要か」について,考えていこうと思います
ご意見あったらコメントや何やらください.
以上
2023.10.1 執筆
シンポジウム『他分野のアプローチに触れる若手研究座談会』ほかの
ご無沙汰です.
所属している野生生物と社会学会 青年部会のイベント(+さとやまんプレゼンツ個人企画)のお誘いです.
①他分野のアプローチに触れる若手研究座談会
―野生動物管理の学際的議論にむけてー
野生動物マネジメントは学際的な議論が必要ですよね~
個体数推定とか分布域推定とか自然科学の力も必要だけど
法整備とか予算,民意反映など社会科学の力も必要.
どちらか一方では適切なマネジメントはできないです.
他分野ではそもそも考え方の根本が違います.
例えば,自然科学の調査・研究は基本的にランダムサンプリングの概念が基本ですが,人文社会科学では必ずしもそうではないらしい(もちろんこの限りではない).
また,自然科学といっても景観生態学から,個体群生態学,個体生態学などスケールが違ったり,分子生物学や獣医学など全く違うアプローチがあったり.
でも我々学生は一分野すら習得できない.
いわんや他分野をや.
自分の畑すら把握が難しいのに,隣の畑の垣根はとても高い.
ということで,それぞれの畑の同年代にそれぞれ
「うちの畑からはこういうアプローチをしているぜ!!」
と頭の中の一部を共有してもらいます.
隣の畑の垣根を飛び越えるのは難しくても,せめて垣根を低くしてみませんか??
そして,全部一人でやるのは無理だから,あらゆる分野の仲間と連帯する第一歩としませんか???
【参加対象者】
現地参加:定員50名 / Zoom参加:50名(いずれも参加費無料!)
学会員・青年部会員以外の方々もご参加いただけます!!
・野生動物管理学や,その周辺分野を専攻する若手研究者や学部生
・鳥獣害対策や捕獲に従事される行政職員や一般市民の方々
【内容】
1.Wildlife Managementとは(稲穂太一 東北野生動物保護管理センター)
2.生態学が果たすEBPMへの貢献(同上)
3.野生動物管理とゲノム解析の意義(遠藤優 北海道大学理学院 博士課程 / 学振PD2)
4.獣医学から向き合う野生動物管理(石黒佑紀 帯広畜産大学獣医学研究部門 博士課程)
5.野生動物管理への質的研究の貢献(髙畑優 総合研究大学院大学先導科学研究科 博士課程 / 学振PD2)
6.野生動物政策の政策過程分析(古賀達也 京都大学大学院農学研究科 博士課程 / JST奨励研究員)
【申し込み】
・下記グーグルフォームよりお申し込み下さい.
https://forms.gle/cZda8HTQW1M5wJmi7
・申し込み締め切り:2月28日23:59まで
【主催】
「野生生物と社会」学会青年部会 連絡先: green_forum@wildlife-humansociety.org
②野生動物管理に関わる若手研究交流会
これは同日開催ですが,学会とは無関係の完全な個人企画です,
昼過ぎから↑のシンポジウムやって,ボルテージあがったところで今度は双方向的に交流しませんか?
参加者それぞれがそれぞれの研究や調査,研究計画を打ち上げて,それを肴に交流しませんか?
ここから共同研究とか,研究じゃなくても様々な連帯が生まれるとめちゃくちゃ盛り上がるよね.
高校生や学部1年生とか,まだ研究発表することないって人でも,燃え上がってる同世代の中で話聞くだけで楽しいと思いますぜ.
【申し込み】
・下記グーグルフォームよりお申し込み下さい.
https://forms.gle/cZda8HTQW1M5wJmi7
以上
2023.02.10 執筆
総務省(2021)外来種対策の推進に関する政策評価 レビュー
総務省(2021)外来種対策の推進に関する政策評価 レビュー
レビューというか,元からめっちゃまとめられているので,結構抜粋になってしまうかも.
(2022/9/19閲覧)
#毎度ながら赤字斜体は筆者の意見です
-----------------------------------------------------
目次 ※目次は実際の報告書のそれとは異なります
1. 概要
2. 政策の整理:外来種全般
3. 政策の効果:外来種全般
4. アライグマに関する政策の評価
4.1 アライグマ政策の概要と評価
4.2 地方自治体の現状調査-環境省の生息分布調査の活用状況-
4.3 地方自治体の現状調査-市町村の対策-
4.4 外来生物法と鳥獣保護管理法を相互に活用した取組
-----------------------------------------------------
1. 概要
現在,外来種について様々な対策が講じられてきたが,その分析や評価はあまりされていない.
そこで総務省は現状を調査した.
その結果,
・ヒアリ対策が的確に講じられるため、現状の評価・検証
・アライグマ対策に必要な情報の提供の在り方についての検討
・アライグマ対策の実務における、適切な手段の選択を支援するための検討
が必要であるとわかった.
この政策評価ではヒアリ,アライグマ,オオキンケイギグ,セイヨウオオマルハナバチを対象としているが(本中間報告ではヒアリとアライグマ),今回はアライグマの部分のみレビューする.
評価対象とする政策は
・外来生物法
・生物多様性国家戦略 2012-2020
・外来種被害防止行動計画(なんだこれ知らんぞ,勉強します)
◎調査手法
関係省・都道府県・市町村・関係団体等を対象に各種取組の実施状況・国の各種取組の活用状況・関係機関の連携状況等について実地調査を行い,その実施状況や効果等を把握.
2. 政策の整理:外来種全般
ほぼ略.
基本的に日本の鳥獣は捕獲禁止.それが,外来生物法に基づいて,特別な捕獲(防除)が可能になる.
捕獲枠組みについて詳しくは↓
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
・行動計画・生態系被害防止外来種リストの策定
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で愛知目標の中では,侵略的外来種への対策が重要とされた.そこで,「生物多様性国家戦略2012-2020」では,愛知目標の達成に向けて,行動計画・生態系被害防止外来種リストを策定することとした.
●行動計画
目的: 国・地方公共団体・事業者等の多様な主体が連携した外来種対策総合的かつ効果的に推進し,我が国の生物多様性を保全すること
「国として実施すべき行動」
「個別の行動目標」
を定めている.
●生態系被害防止外来種リスト
429種の外来種を対策の方向性に応じて3つのカテゴリに分類
総合対策外来種:防除など総合的な対策が必要な外来種.アライグマとか.
産業管理外来種:産業・公益的役割において大事.ニジマスとか.
※『実践 野生動物管理学』でも解説されてあるよ.Must check it.
この外来種被害防止行動計画では「未定着」「侵入初期」「蔓延後」のそれぞれの段階について必要な対応とコストについて明記しているそう.
この計画をもとに総務省が作成した図がコチラ↓.
#最高では?
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
しかし,このリストに対して総務省はこう言う.
「同リストに掲載することのみでは,政府の外来種対策における当該生物種に対する基本的な考え方などが明らかにされているにとどまり,そのままでは飼養や取引などの活動に対する規制まではできないことになる。」
#たしかにね.
3. 政策の効果:外来種全般
以上をまとめると,これらの政策の目標は
外来種の導入防止・防除推進→特定外来生物などを制御・根絶することで生態系を保全すること
と言えよう.
しかし,総務省は指摘する.
実際に総合目標を掲げ,分析・評価をしている政策は奄美大島での「マングースの捕獲努力量あたりの捕獲数」のみ.
特定外来生物の防除については「適切な目標を定めて実施する」としているけど,目標や達成状況とかの情報はないじゃないか.
現状把握・今後の展望は各主体のニーズはあるだろうが,生物種ごとに対策がバラバラだから分析・評価が難しいのだろう.
4. アライグマに関する政策の評価
4.1 アライグマ政策の概要と評価
アライグマのカテゴリー
定着段階:分布拡大期~まん延期
行動計画: 優先的に防除を進めるべき外来種→国が効果的・効率的な防除手法の開発やモデル地域における防除体制の確立等を行い,成果をまとめて共有することで,各主体の防除を支援していく.
環境省の取り組みと成果
・行動計画に基づき,環境省は2018年に「平成 29 年度要注意鳥獣(クマ等)生息分布調査報告書」を公表.
#我々が無限回お世話になってるやつね
生息都道府県:35→44
生息分布5 kmメッシュは1388→3862(2.8倍)
捕獲数は右肩上がり.
農業被害額は2006年から2010年までで倍増.2010年以降は高止まり横ばい.
以上から総務省はこうまとめる.
アライグマ捕獲頭数は着実に増えており,その意味で『防除』の『除』は成果を上げているが,それによる被害の縮減にまではつながっておらず,分布の拡大を抑えることもできていない.
#…まぁそうですよね……
“『除』は成果を上げている”としてくれてはいるが,分布拡大抑えられていないので十分ではないんだろうな…(個体数推定ができない以上,捕獲数が十分かどうかはわからないものの)
なお,行動計画では,国の役割として,アライグマを含める優先的に防除を進めるべき外来種について
①防除手法の開発
②モデル地域における防除体制の確立
③マニュアルの作成等情報提供を通じて各主体の防除を「支援」すること
としている.
この役割と今回の調査をまとめると,課題は2つ
4.2 地方自治体の現状調査-環境省の生息分布調査の活用状況-
アライグマの分布情報(2018)は活用されているのか?30地方公共団体に聞いてみた
↓
活用している:1
活用していない:12
知らなかった:17
生息密度がわからないため活用が進まないのでは?という意見も
#知らない地方公共団体多いな...
#生息密度調査は結構労力がかかるが,防除にダイレクトに効くと思う.筆者的にはざっくりとした分布調査は国が,その上での生息密度調査は都道府県が担うのがちょうど良さそうに思うけど,どうだろう?
捕獲の法的枠組みには外来生物法と鳥獣保護管理法のふたつがある.
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
それぞれに基づく捕獲数は鳥獣統計としてオープンになっているが,↓のような意見もあった.
「他市町村における外来生物法に基づく捕獲頭数が分からないため、予算要求に際して、他市町村の取組と比較した説明が財政当局に対してできないので、環境省から市町村単位の情報を示してほしい」
一部の都道府県では,各市町村の捕獲頭数の情報について毎年度集約し、全市町村の情報をフィードバックしているらしい.
なお,鳥獣被害防止特措法使えば,特別交付税や補助事業による財政支援を受けることができる.
#予算要求の事情とか知らなかったから,こういう声を知れて良かった
4.3 地方自治体の現状調査-市町村の対策-
対策の詳細について,20市町村に聞いてみた.
なお,分布調査を踏まえて
侵入初期:2006年以降に分布した地域
定着・分布拡大:2006年以前に分布していた地域
と定義.
#2006年以降に分布した地域を侵入初期とするのはだいぶ情報が古い気がするが,仕方ないな…
その結果
侵入初期:9
定着・分布拡大:11
侵入初期の自治体の意見(#筆者抜粋)
・定着段階も判断できず,限定的な対策しかできていない
・市町村や都府県の境界をまたいで移動することから、市町村が単独で対策を実施しても効果は限られるため,国や都道府県が広域的な対策を主導してほしい
既に定着しているところでは,根絶は難しく,拡大阻止・被害低減が重要.
そのためには,具体的な防除の目標を設定することが大事だろう.
そこで定着・拡大期の11市町村に目標の設定状況を質問.
4市町村では,捕獲頭数の目標を設定していない.
なぜなら
・数値目標の根拠となるアライグマの生息数を把握できておらず,何頭捕獲すれば効果的なのかが判断できない
・数値目標を設定したとしても,捕獲頭数の把握だけでは目標を達成できたか否かが判断できないため,防除の取組の評価が難しい
#「何頭捕獲すれば効果的なのか」は研究者でも算出できないのでは
7市町村では,(外来生物法ではなく鳥獣保護管理法の)被害防止計画において,過去の捕獲実績をもとに捕獲頭数目標を設定
しかし,総務省はバッサリ斬る.
過去の捕獲実績をもとにしてたら生息数増減との関係は薄い.情報量として仕方ないけどね.
#総務省,鋭い…しかも,情報が少ない市町村の事情もわかってくれるの良いな.
4.4 外来生物法と鳥獣保護管理法を相互に活用した取組
アライグマが定着している地域では,捕獲圧を強化することが重要.
外来生物法の防除では狩猟免許を持たなくても捕獲できるなど,防除従事者の育成・確保が容易.
では,定着している11市町村ではどうか.
1市町村では外来生物法による防除は行っていない.「アライグマ以外の鳥獣にも対応できる被害防止計画の方が使いやすい」とのこと.
10市町村では防除の確認を受けていたが(防除の許可をとっている的な意味),実際防除として捕獲しているのは7市町村.やはり,アライグマ以外に適用できないため,有害鳥獣捕獲の方が使いやすいようだ.
総務省はこう言う.
外来生物対策としてのアライグマへの取組においては,その「優先的な防除」が実現すれば、捕獲の根拠法が何であるかを問うものではないとも考えられる.「アライグマの防除」という目的のために二つの仕組みが用意されている現状を踏まえれば,それぞれの効果,メリット・デメリットなどを整理して,評価し,二つの仕組みが相互に補い合い,防除の取組がより効果的に行われるよう,総合的な取組の方針を市町村に示すなど,実務における適切な手段の選択を支援する取組が有用であり検討すべきである
#わかる(わかる)
そして,総務省はこう続ける.
なお,このようなアプローチは,アライグマに限らず,外来生物法と鳥獣保護管理法の適用を受ける全ての外来種についての先例となり得ることを付言する.
--------------------------------------------------------------------------------
めちゃくちゃよい政策評価レポートだった…
最近やっと外来生物法とかわかってきて,でも問題点とかはあんまりわかってなかったから助かる.
やはり外来生物法と鳥獣保護管理法の使い分けが大事か…という感触.
個人的には,シカ・イノシシの計画の勉強をしようと思う.
シカやイノシシでは,とうとう2014年頃から個体数を減らすことができている.
こちらも改善点はあるだろうが,アライグマよりはだいぶ進んでいるといえそうだ.
そして,シカ・イノシシでも
第二種特定鳥獣管理計画:管理目的・都道府県
鳥獣被害防止計画:被害防止目的・市町村
の2種類の計画がある.
この計画の使い分けとか,都道府県・市町村の役割分担とか,アライグマに応用できないかな?
ご意見等,コメント募集します~
以上
2022.09.19
【新入生とか】野生動物始める人LV.1 装備~道具から教科書,コミュニティ,資格まで~
野生動物始める人LV.1 装備
~道具から教科書,コミュニティ,資格まで~
新学期ということで,大学1年生などこれから野生動物の調査や研究に挑戦してみたい方も多いかと思います.
経験詰んでいく中で,自分に合った装備や本,コミュニティなど揃えていくと思いますが,中には「もっと早く知っておけばよかった…」的なものもあるかとおもいます.
また,自分は先輩から教えてもらったことも多いんですが,そうやって教えてくれる先輩に必ず出会えるとも限りません.
そこで
…ということで,今回は,野生動物系の調査・研究に携わりたい人LV.1装備について,個人的な意見を発表します!!
フィールドの装備とかから,おすすめの教科書,メーリングリストとかまで.
【対象】これから野生動物に携わりたい人 LV.1 など
生態学系の人全般に共通する内容もあるけど,他分野は門外漢すぎるので,今回は野生動物管理とかそこらへんに興味がある人にぴったりかと.
大学1-2年をイメージして書いてますが,別に学生じゃなきゃいけないってこともないです.
【注意】筆者は初心者フィールドワーカーで,内容は個人の見解です
・筆者はLV.5くらい(修士課程2年)の初心者です.ガチプロではないです.
・特に道具集めるのが趣味とかではないので,詳しいわけでもないです.
・装備は好み別れると思うので,参考程度にしてください.後々自分でカスタマイズしてください.
・オススメある人はコメントください
---------------------------------------------
目次
フィールド装備
教科書とか
情報網とか
資格とか
---------------------------------------------
1. フィールド装備
基本的には,一般的なフィールドワーカー装備があればOK.
※なお,高山は想定しません.高山は専用の装備があると思うで,ちゃんと調べてください.
・長袖長ズボン ・軍手 ・雨具(上下セパレートの合羽) ・タオル ・防止
・昼食や携行食(チョコ・ナッツ) ・飲み物 ・地図やコンパス ・保険証
・クマスプレーやクマ鈴(フィールドによる)
・適切な靴* ・救急セット** ・野帳と筆記用具*** ・追加ポケット****
・適切な靴
フィールドによって異なる.
例えば,自分は3種類使います.
平地,里山,整備された山など→トレッキングシューズ・登山靴(自分は常用の靴が半登山靴なので)
湿地,川など→長靴
おすすめは日本野鳥の会長靴です.
かなりしなやかで,フィットします.折りたためて持ち運びも楽.フィットするから足首の負担がほぼない.走れるくらい.
ただ,靴底は薄いので河原や刈られたササとかには弱い.
初見で長靴5000円は高いと思ったけど,今思うとかなり安いです.50回使ったら,1回100円だもんね.
ガッツリとした山→スパイク足袋・スパイク長靴・足袋
自分はBushManのスパイク長靴を使っています.
急傾斜や崩れやすい土壌で,重い荷物(機材や材木,動物など)を運ぶ時には足が安定しないといかん.そのときにスパイクがついた足は有用.というかスパイクないと危ない.
足袋:踏みしめやすい(林業系は足袋が多い気がする)
長靴:防水性が高い
狩猟は冬に行うので,雪が多い猟場だと防水性は欲しい.また,川も渡ったりするのでね.
防水スパイク足袋とかもあるので,検討してみてもいいかも.
釣り具屋や銃砲店(銃を撃っている店)とかで売ってます.
ちゃんとしたもの買うと結構高いけど,個人的には必要経費だと思う.
3000円とかのものもあるけど,これは買ったことないのでわかりません…
・救急セット
2000円しないで買えるものもある.スズメバチ用のポイズンリムーバー(毒を抜く逆注射器みたいなやつ)とかは必須ですね.
・野帳
なんかメモする物は欲しい.防水の手帳とかもある.自分はバインダー+紙を使ってます.
雨の日は45L透明ゴミ袋とかに手帳と腕ツッコんでメモすると良いよ.
何メモするかは,腕の見せ所です.何に気づけるかが重要.そのためには経験が必要らしい.同じ自然を見ても,事前知識の有無で得られる情報が全然違うので,いっぱいフィールドに出ましょう.
・追加ポケット
これは必須ではないけど,リュックの他にポケットが多い装備をしているとかなり便利.
自分は↓のようなジャケットを愛用していました.毎日着てました.大学の座学の時も着てました.ワークマンとかでも安く売ってるよ.
ポシェットを使う人もいる.
2. 教科書とか
個人的に激推しするのは以下の2冊.
あと,基本的にいい本はちょっと無理してでも買ったほうがいいです.
すぐに絶版になって,10倍くらいの値段になります.ホントに定価3,000円くらいの本が30,000円くらいになります.
・実践野生動物管理学
野生動物管理の大御所たちが出版した入門書.主要な獣種の生態から,管理の考え方,個体数推定方法などのエッセンスがまとまっている.練習問題とかもあって,1冊目としてとても良い.
アライグマに関する章のレビューは↓でも.
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
・野生度物管理のためのフィールド調査法:哺乳類の痕跡判定からデータ解析まで
1度は絶版になった良書.今では全頁PDF公開されています.動物の痕跡とかについて詳しく書かれていてとても良い.
その他は↓も良いor読んでみたい
・野生動物の管理システム-クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして-
クマ,シカ,イノシシについて生態から管理方法まで記した入門書.絶版.
・生物学を学ぶ人のための統計のはなし―きみにも出せる有意差
これは野生動物に限らず,生物系の統計のはじめの一歩.かなりわかりやすい.高校数学分かれば読める.有識者の中には「統計は後でいい,とにかくフィールド」派もいて,それも正しいとは思う(統計はフィールドで見たものを表現する手段なので).でも研究始める前に解析のノリもわかっていたほうがいいと思うなぁ.
あとは,最近出たこの2冊が気になっています.まだ読んでいないので言及できないけど,絶対面白いと思う.読んでよかったらまた編集します~
・SDGsな野生動物のマネジメント: 狩猟と鳥獣法の大転換
・いきもの六法 日本の自然を楽しみ、守るための法律
3. コミュニティ
これはなかなか自分じゃ辿り着けない情報だと思う.自分も先輩から教わったし,後輩に教えたときに「もっと早く知りたかった」と言われた.今回の記事の動機でもある.
それゆえ,この2つ(+α)以外にもあると思う.そこは頑張って探してくれ.
以下は全てML(メーリングリスト).登録すると,有用な情報(シンポジウムやイベント,求人など)が流れてくる.たまに議論が発生する.
・野生動物メーリングリスト
その名の通り,野生動物関連の情報が流れてくる.野生動物のシンポジウム・イベント情報はもちろん,数少ない求人が流れてくるのもありがたい.鬼オススメ.
・新Jeconet
これは野生動物に限らず生態学系全般について情報が流れてくる.幅広い情報収集におすすめ.野生動物の内容は両方のMLに同時に流されることが多い.
あとは,それぞれの動物や学会,専門分野についてMLがあったりします.
例えば,
・アライグマ連絡会
アライグマに関して,管理から生理生態まで.毎月勉強会やったりして,今全盛期です.
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
・JBN(日本クマネットワーク)
ツキノワグマやヒグマに関する団体のML.ここも良い.
あとは学会には早いうちから言ったほうが楽しいと思う.学会とは,研究者や学生が研究成果を発表し,公表する場.
ここで,憧れの先生や同じ志を持つアツい仲間を見つけることができる.
祭典.ここからあらゆる物語が始まる.
学部生の聴講はタダだったりやすかったりするので,是非.
・日本哺乳類学会(8-9月)
哺乳類に関する研究が幅広く発表される.野生動物好きにとっては,規模やレベル,内容全てにおいてちょうどいいと思う.必須.
・野生生物と社会学会(11月)
野生生物と人間の軋轢とかに着目.社会学的な側面も内包しており,野生動物管理にぴったりな内容.ただ,規模は小さく,レベルもばらつきがある.
・日本生態学会(3月)
生態学全般.野生動物だけでなく,植物も魚類も節足動物とかも色々.規模もかなりデカいし,盛り上がる.ただし,その分野生動物の色は薄いし,基礎生態とか基礎科学に寄る.
僕は哺乳類学会と野生生物と社会学会がメインで,生態学会のぞき見くらいのスタンスです.
4. 資格とか
資格に関してはまだどれだけ「使える」かわからないので(就職や仕事をとったりしていない),なんともいえないけども…
感想込みです.
・普通自動車免許(MT)
普通自動車免許(ATでも可)は必須.ないと使い物にならん.
(ちなみに僕はクソ下手なので,かなり苦しんでます)
基本的にATでも良さそうだけど,現場によってはMTのところもあるのでMT取っておくのが無難.
・狩猟免許
狩猟や鳥獣保護管理法の基本知識が学べるので取ったほうがいいと思う.
狩猟と管理捕獲,有害鳥獣捕獲とかはそれぞれ違うけど,必ず共通する部分はあるので.
あと,職種によっては狩猟免許が必須だったり,優遇されたりする(銃かわなかはその会社によるけども).
少なくともわなは簡単なので(銃は持ってないからわからん),とりあえず取ったほうがいい.
狩猟自体のハードルは高いかもだけど,できたらやったほうがいいと思う.
捕獲の経験になるし(狩猟の見学じゃ得られないほどの),一連の手続きも体感できる.
楽しさも,大変さもわかる.
・鳥獣管理士
野生動物管理に特化した資格.専門性は高いが,難易度はそこまで高くなく,認知度も低い.
ただ,この資格持っていると,一定の野生動物管理の専門性が担保されるし,持っておくとよいと思う.高いけど.
もちろん「使えるの?」って意見もある.使えるかはわからん.
でもそもそも,技術士とか公認会計士とかそういう資格じゃないから,仕事に直結する資格なんてのはほぼないと思う.
あと,個人的にはこの資格を通して,めっちゃ頼れる仲間に出会えたので,個人的には「使える」と思う.
資格を得ること自体を利益に直結させたいならいらないかもね.この資格を元に自分で頑張りたいなら有用だと思う.
・教職
野生動物関係は仕事少ないので,保険の一手.アカデミアだと持っている人は結構いるイメージ.でも今のところ使えそうにはない.あと,まぁまぁ大変.結構大変.ハイリスク,?リターン.学芸員は持ってないからわかりません…
以上のまとめ.
1年で揃えられそうですかね~
これを基本装備として,あとはカスタマイズしたり,追加したりして自分にとって最強の装備を揃えたらいいと思います~!!
以上
2022.04.03執筆
外来生物法改正で何が変わる?-アライグマ防除の視点から-
外来生物法改正で何が変わる?-アライグマ防除の視点から-
その一部改正案が2022年3月1日に公表された.
2013年に一部改正されてから5年以上たったので,近年の状況を鑑みたそう.
今回は,特にアライグマ防除の観点からこの外来生物法改正案を読んでみた.
以下は,その所感の備忘録です.
※筆者は制度や法律のプロではないので,間違っていることが多々あるかも!!
是非ご自分で元資料にあたってください.
※本文の主務大臣を本ブログでは国とか環境省とか表現しているかもです.正確ではないけど,本質は違わないよね…?
#赤字 は個人の感想です.
-----------------------------------------------------------------
目的
1. 改正法律案の概要
2. 改正の内容
2.1 各位の責務とそれぞれによる防除
2.2 捕獲従事者とかが調査のために民有地に立ち入る許可がおりるようになるかも!?
2.3 外来生物の防除は適切な方法で
2.4 鳥獣保護管理法との整合
2.5 予防せよ!!
2.6 新カテゴリー『要緊急対処特定外来生物』を制定
2.7 その他
3. 感想
-----------------------------------------------------------------
1. 改正法律案の概要
改正法律案の大きな特徴は以下の3点
①ヒアリ対策の強化
②アメザリ・アカミミの規制手法の整備
③各主体による防除の円滑化
①のヒアリは,日本では2017年に侵入が確認.前回の2013年改正後の外来種界隈で大きな話題トップクラスの大きな話題でしたね.②ザリガニなどに関しては2020-2021年に大きな話題に.アメザリ以外の外来ザリガニが特定外来生物になったんですよね,たしか.
でも,ヒアリもザリガニ,カメも気になるけど,私が不勉強なのもあり,今回はアライグマに特化した備忘録・話題提供にします.
現行の外来生物法では,防除(イメージ的には”捕獲主体の対策”)を行う主体は国.
しかし,地方公共団体も知見が蓄積されていて,知見の蓄積と防除の主体が食い違った状態.そのため,地域での防除や地域間の連携などに支障があるらしい.そこで,国、都道府県、市町村、事業者及び国民に関する責務規定を創設することで役割分担をする.
たとえば,現在では都道府県が防除を行う際は国に”確認”(≒申請)が必要だが,それが不要になる(詳細は後程).
2. 改正の内容
2.1 各位の責務とそれぞれによる防除
現行法では,特に誰が何をする責任があるかについては示されていない.
そこで,改正案では国,地方公共団体(都道府県・市町村),事業者・国民のそれぞれに責務を定めた.
そして,現行法では防除の主体は国で,地方自治体は国に「確認」(≒申請)する形で都道府県や市町村が独自に対応することはできない.
改正案では,それぞれ協力しつつ都道府県は独自に防除を実施できるみたい.
国:
責務
総合的に対策せよ
まだ未定着・局所的な外来生物に対応せよ
地方公共団体や事業者・国民の活動を促進せよ
防除
現行法の被害が生じている・生じそうな場合に加えて,
未定着・局所分布な場合も防除の実施が可能に.
#上記ホットスポットとは,正式には「生物の多様性の確保上重要と認められる地域」.国立公園とかのことかな? 改正案では,地方自治体の役割も明記されているので,「特に頑張んなきゃいけないところは国もやるよ」っていう役割分担かな?
責務
被害の発生状況や動向などを踏まえて,被害防止のために対応せよ
防除
現行法では国に確認(≒申請)が必要だが,改正案では都道府県は独立して防除が可能に.
市町村は確認(≒申請)が必要っぽい.
基本的に既に定着している外来生物の防除を担う.
#おそらく今までは「被害が出ているんだったら環境省に言って防除していいよ」ってニュアンスだったのかな?それが.「各自防除する責務がある,それぞれ能動的に防除せよ」っていう強いニュアンスに変わったのだろうか.
事業者・国民:
責務
適切に理解し,適切に取り扱うように.
国や地方公共団体に協力せよ.
外来生物法改正案に伴い,物流途中で検査とか入るかもしれないけど配慮せよ(?)
#ここはかなり意訳.原文「物品の輸入、輸送又は保管を他人に請け負わせる者は、当該者から物品の輸入、輸送又は保管を請け負った事業者がこの法律及びこの法律に基づく命令を遵守して事業を遂行することができるよう、必要な配慮をするものとする。」.意訳が間違っている可能性大きいので,ここは引用とかしないでください(汗)
防除
現行法では国に認定(≒申請と受理)が必要.地方公共団体と近い扱い.しかし,改正案では都道府県が独自で防除実施できる等の変更があったため,こちらも別途明記.
ただし,内容自体に大きな変更はないで,国に認定してもらうことが必要みたい.
2.2 捕獲従事者とかが調査のために民有地に立ち入る許可がおりるようになるかも!?
(2022.03.15修正)
現行法において,捕獲・調査のために民有地等に入ることができるのは環境大臣が指示した環境省の職員職員&委任された者のみ(もちろん必要限度).(2022.07.01修正)
それが,改正案では環境省大臣だけではなく,防除を行う地方公共団体の長も立ち入り許可を与えることができるようになった.
ただし,地方公共団体については調査はNGで,防除のみ.(2022.07.01修正)
#「環境大臣が指示した」を追記.権限を持っているのが主務大臣であって,その権限の行使ができるのは「職員または委任した者」でした…すみません.(2022.07.01修正)
#初稿・第二稿では,改正内容を「権利行使者を委任した者に拡張した点」としましたが,そこは変わっていませんでした.改正内容は「許可出せるのが大臣から地方自治体の長に拡張された点」です.全然違うこと書いてた…(2022.07.01修正)
それが,改正案では「委任した者」も立ち入ることができるようになる.もちろん,必要限度において,身分証の提示とかは必要だけど.
また,現行法では捕獲・放獣のためでないと立ち入りができなかったが,改正案では調査目的の立ち入りも可能になる.
#委任した者とは誰を指すのだろう?国が調査機関に依頼するという形かな?
初稿では「捕獲従事者」と書いたけど,これは不正確でした.訂正します.
(2022.03.15修正)
#委任した者云々は新設ではなく,現行のままです.取り消し線で消した旧原稿は全部的外れ...(202207.01修正)
2.3 外来生物の防除は適切な方法で
現行法では特に防除の方法については何も規定されていないかった.
改正案では,鳥獣保護管理法などの規定を遵守した適切な方法を用いることが求められる.
#おそらく,殺処分方法を苦痛のないやり方で…ってことだと思う.あとは後述の危険猟法とかのことかな.
2.4 鳥獣保護管理法との整合
現行法では,外来生物法による防除(≒捕獲)の場合は鳥獣保護管理法の例外とされている.
改正案では,「限定的」に例外とする.すなわち,鳥獣保護管理法の一部は守る必要がある.例えば…
指定猟法禁止区域,特定猟具禁止区域,危険猟法,夜間や住宅地での銃猟
の規定は許可を得ない限り順守する必要がある.
#そうか…今までは外来生物の防除のためだったら危険猟法や夜間発砲とかも可能だったのかな…?
2.5 予防せよ!!
現行法では,被害がある・ありそうなときに対応する形.
改正案では,未定着・局所的であってもあらかじめ蔓延防止や予防的に対応することが定められる.
#外来種対策は早期対策や予防原則が大事だとされるけど,現行法では被害対策の色が強い.それが改正されて予防対策できるようになるのはアツい!!
2.6 新カテゴリー『要緊急対処特定外来生物』を制定
そもそも…
「外来種」とは,「人為的な導入により本来の生息地の外に生息・生育する生物」.国内由来のものも含まれる(国内外来種).
そのなかで,明治元年以降に導入された国外外来種を外来生物法では「外来生物」と呼ぶ(法律用語…って言っていいのかな?).
その「外来生物」のうち,生態系等に被害を及ぼすものを「特定外来生物」として指定している.特定外来生物はアライグマとかマングースとかキョンとか色々.
その改正案では,「外来生物」の中で,「蔓延したらめっちゃやばくて国民生活の安定に影響があるかもしれなくて,その対応を緊急に実施しないといけない(意訳)」ものを「要緊急対処特定外来生物」として定める.
そして,その要緊急対処特定外来生物がいる(存在・付着・混入)している可能性が高い場合には,該当する物・場所を強制検査させたり,とりあげたり(無償で集取)できる.
そして所有者に報告を求めることができる.
#詰めるってことかな?「おい,動くな!!手に持っているものを置け!!検査させてもらう!!没収だ!!」とかみたいなことができるのかも.違ったらすみません.
しかも,こういった対応は「国-要緊急対処特定外来生物を所持している人」だけにとどまらない.空港の管理している事業者とかに対しても拡散防止など措置の指針を指定するらしい.で,その事業者とかが環境省・国交省の言うこと(助言)を聞かないと怒られる(勧告,命令)らしい.
#もしかしてかなり強い対応なのでは…??
2.7 その他
現行法では,科学的知見の収集とかを推進するよう努めよとのこと.
改正案では,推進せよと変更.努力義務から義務に変更っぽい.
現行法では国内の対応にのみ言及しているが,
改正案では国際協力の推進を努力義務として明記.
現行法では,防除(≒捕獲とか)に対する国民の理解推進を国が行うものとしている.
改正案では
・防除だけでなく外来生物そのものに対して
・国だけでなく地方公共団体も
国民の理解推進を担う.
現行法では関連省庁との協力について何も言及していなかったが,
改正案では関連省庁との協力を明記.
3. 感想
全体的に積極的な体制になった印象.
国がメインから,都道府県単位での防除も可能になったし,
それぞれの責務を定めたのも「防除は国だけではなくみんながやるもの」という方向性になったのかもしれない.
また,未定着種や局所分布に対しても対応ができるようになり,予防原則の適用が可能になったのも期待大.
科学もより重視されているし,国際協力も推進されている.
加えて,現行法の穴も塞がれた感じがする.
たとえば,危険猟法や殺処分方法などの防除の上でも必要な考え方が改めて担保された.
立ち入り許可も環境省職員だけでなく,現場の従事者にもおりるようになりそう.
より積極的・現実的になりそうな法改正に期待します.
これで外来生物対策が進むといいな.
(国内外来種に関しては依然対策はされないのかな…)
※国内由来の外来種については,生態系被害防止外来種リストとしてまとめており,対策の進展を図っている.(2023.4.18 修正)
以上
2022.03.14 執筆
2022.03.15 修正
2022.07.01 修正
2023.04.18 修正
【レビュー】高橋(2015)2014年鳥獣法改正の法的分析
高橋(2015)
狩猟の諸要素を踏まえた2014年鳥獣法改正の法的分析
野生生物と社会3(1).13-21.
2014年に鳥獣保護法が改正されて,鳥獣保護管理法になりましたよね~
自分が野生動物管理に興味を持ったときにはすでに改正されていたので詳しくはないのですが…
ということで,今回は2014年の改正で何が変わったのか?という内容.
野生動物の保護管理をはじめとした環境法・法社会学の研究をされている富山大学の高橋満彦先生の総論です.
赤字はブログ執筆者の感想です.
-----------------------------------
目次
- [レビューの前に]そもそも鳥獣保護管理法とは,大まかな改正内容
- 「目的」について
- 「対象鳥獣」について
- 「担い手」について
- 「猟具」について
- 「狩猟の場」について
-----------------------------------
1. [レビューの前に]そもそも鳥獣保護管理法とは
鳥獣保護管理法とは
正式名称「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」
「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資すること」が目的.
我々狩猟者にとっては親のような法律.野生動物管理としても親のような法律.
鳥獣法関連の大まかな流れは↓のとおり.
1895年 狩猟法制定
↓
1918年 狩猟法一部改正 「鳥獣激減!!鳥獣保護せよ」
↓
2002年 狩猟法→鳥獣保護法 「鳥獣保護せよ」
↓
2014年 鳥獣保護法→鳥獣保護管理法 「めっちゃ増えている鳥獣もいるので,鳥獣保護と管理両方せよ」
鳥獣法の研究している先輩曰く,野生鳥獣保護管理の情勢としては1918年の改正がめちゃくちゃ大事らしい.鳥獣の著しい減少をうけて,保護に舵を切ったターニングポイント.
この20年でシカとか急増しているが,これはそれ以前の保護政策の結果でもある.
もちろん,以前は保護する必要があるくらい減っていたので,保護政策が間違っていたというわけではない.
鳥獣保護法云々の前に,狩猟と有害鳥獣捕獲と管理捕獲がわからん!!って人は↓を読んでくれ
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
2014年の鳥獣法改正の大まかな内容は以下の通り(高橋 2015)
・題名・目的等の改正
・計画体系の整備(保護計画と管理計画に分離)指定
・管理鳥獣捕獲等事業の創設
・認定鳥獣捕獲等事業者制度の 導入,住居集合地域等での麻酔銃使用の許可
・わな猟 ・網猟免許の取得年齢の引き下げ(20歳→18歳)
わな猟免許引き下げてもらえてよかった~自分は18歳でわな猟免許取得,19歳から捕獲開始だったんだけど,これが2年ズレていたらできていなかったかもな...
2. 「目的」について
従来は「保護」と「狩猟の監督」が目的であったが,2014年改正では「管理」が加わった.
あらためて狩猟の目的なにか.第2条第7項をまとめると
・肉や皮などの資源確保
・鳥獣害被害防止など管理*
・その他レクリエーションなど
管理とは?
「生物の多様性の確保,生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から,その生息数を適正な水準に減少させ,又はその生息地を適正な範囲に縮小させること」(第2条第3項)
ジビエ推進など重要な視点も明記されている.一方で,「その他」については鳥獣法改正前後ともにほとんど言及してない.狩猟文化の継承やレクリエーションについては議論が必要?
3. 「対象鳥獣」について
原則として捕獲禁止(第8条).捕獲には登録狩猟か許可が必要(第9条,第11条).
ここに変更はなし.
cf. 狩猟?管理捕獲?有害鳥獣捕獲?-野生鳥獣捕獲の行政的枠組みの整理-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
科学的な管理のための特定計画制度
--旧法(旧法第7条第1項)
対象: 数が著しく増加し又は減少している鳥獣
目的: 長期的な観点から当該鳥獣の保護を図るため
--新法(新法第7条)
第一種特定鳥獣と第二種特定鳥獣を設定.
第一種特定鳥獣: 生息数が著しく減少し,又はその生息地の範囲が縮小
第二種特定鳥獣: 生息数が著しく増加し,又はその生息地の範囲が拡大
例えば,
ツキノワグマの保護が必要な場合→第一種特定鳥獣保護計画(ツキノワグマ)
シカの管理が必要な場合→第二種特定鳥獣管理計画(シカ)
というように特定計画を都道府県が種ごとに策定する
しかし,この場合,ツキノワグマは判定が難しい.
なぜなら,東北では人身被害なども多い一方で,四国とかでは絶滅が危惧されているという,地域によって生息状況に違いがある動物だから.
実際,福井県以西では第一種,石川県以東では第二種
cf. 特定計画とその策定状況
また,「集中的かつ広域に管理をはかる必要がある」としたシカとイノシシは指定管理鳥獣捕獲等事業として,規制が緩和された.
cf.指定管理鳥獣捕獲等事業
4. 「担い手」について
環境省は狩猟者を鳥獣保護管理の担い手としている.
須藤(2013)や山中(2014)など,スポーツハンターは技術的・科学的に期待できないという意見もある.
cf. 須藤(2013)カワウにおける個体群管理のための捕獲「野生動物管理のための狩猟学」
cf. 山中(2014)ケモノたちの大逆襲の時代の選択肢
https://acaddb.com/articles/articles/17969531
現状(論文が出た2015年時点)では鳥獣捕獲は狩猟者が一手に担っている.
有害鳥獣捕獲に狩猟免許は必ずしも必要ではないが,実質的には狩猟免許所持者で地域の猟友会所属の狩猟者が担っていることが多い.
地域の鳥獣害対策を地域の猟友会が担うことについて,筆者(高橋 2015)が以下の通り指摘する.
・(実質的な)縄張りとして排他的に狩猟を認めるための義務
※法律上は鳥獣は誰の物でもない無主物だが,慣習的に地域のものと考えられている場合もある(田口 2014)
cf. 田口(2014)マタギの狩猟とカミの世 界.「日本のコモンズ思想」
もちろん慣習的な深い考察以外にもTwitterとかでも指摘されている以下も明示している.
・独占的・特権的に猟ができるのはうまみがあるかも
・一方で地域の声にこたえるために夏山で捕獲するのは大変
・報奨金が潤沢なら参入したいかも
安全管理体制や技能・知識が一定基準を満たしている「認定事業者」制度が導入された.
弱体化しつつある地域の猟友会変わって専門業者の育成を目指す.
ただし猟友会と軋轢はありそう.
この考察されたときはまだ改正直後だったので,現実問題どうなのかはわからん.認定事業者が入っているのは国立公園とかだからあんまり軋轢はない?詳しい方コメントください!!
海外では
・専門教育を受けた専門家が行うべき
・狩猟権行使者に個体数調整の義務
の両方の考え方がある.日本にあてはめると,「地元狩猟者の手におえないものを補助する」(hired gun)が現実的かも.
なぜなら
・専門家:予算的にも厳しいし,技術も不安定.
・地元狩猟者:農林水産業や狩猟資源など経済外の動機もある.
5. 「猟具」について
夜間発砲や街中での麻酔について.
個人的に興味が薄いので,レビューはパス.
6. 「狩猟の場」について
鳥獣法では改正前後を通して狩猟の場については言及されていない.
著者は土地所有権と狩猟の場の問題は遅かれ早かれ議論する必要があるとしている(高橋 2014).
cf. 高橋(2014)鳥獣法の根本は変わるのか
現状は,柵とかに囲まれていない土地で狩猟する場合,特に土地所有者の許可は必要ではない.
※これは「柵とかに囲まれている土地では許可が必要」との法文の反対解釈であり,「所有者から許可とらずに狩猟していい」と明記されているわけではない.
日本では入林に許可が必要という観念は乏しい.一方で,地域の慣習にされるので,乱場とはいえ実際は誰でも自由に狩猟できるわけではない.
では土地所有者が入猟を拒絶した場合どうなる?
外来生物法では行政の職員が防除のために市有地に入ることができる(第13条,第18条第4項).鳥獣法は,私人を対象にしているからか,こういった規定はない.
迂闊に土地所有権について規定を作って管理に足枷を作ってはいかんが,慣習が通用しなくなることによって狩猟を忌避する土地所有者が増えても困る…
今後議論する必要があるだろう.
以上
2022.2.4 執筆
東京都におけるアライグマ生息状況の推定
東京都におけるアライグマ生息状況の推定
日本の多くの地域で問題になっているアライグマ.
しかし,アライグマの生息状況はなかなか明らかになっていない.
※ただし,北海道や神奈川県,千葉県では結構明らかになっていたりする.
cf. 北海道アライグマ防除計画
cf. 神奈川県アライグマ防除実施計画
cf. 千葉県アライグマ防除計画
そこで,今回は東京のアライグマ生息状況を捕獲実績から明らかにした.
しかし,相対評価でしかないこと,統計的にはまだまだ精度が低いことなど課題はかなり多いので,ざっくりとした予想に留まることは注記しておきたい.
これをふまえて,より詳細な情報収集・調査が必要.
--目次------------------------------------------------------
1. CPUEとは
2. 東京の現状-CPUE-
3. 東京の現状-必要捕獲努力量-
4. 周辺との関係
-------------------------------------------------------------
1. CPUEとは
アライグマの生息状況を把握するためにはCPUE(捕獲努力量当たりの捕獲数)を算出することが重要.
CPUEとは,どれだけ頑張ったらどれだけ捕獲できたかという指標.
指標として捕獲数や農業被害額を算出している場合もあるが,これだけでは不十分.
捕獲数:
捕獲数10として.1日で10頭とれたのか,100日で10頭とれたのか?前者ならかなり高密度だろうし,後者なら密度が低いかもしれない.捕獲数だけでは,現状はわからない.
農業被害額:
農業被害防止の観点からは重要な指標.しかし,生態系被害も考慮すると,農地が少ない場所などの生息状況も把握すべき.
2. 東京の現状-CPUE-
ということで,今回は情報が少ない東京の現状についてまとめた.
東京のアライグマ防除計画は↓から
cf.東京都アライグマ・ハクビシン防除実施計画
しかし,生息状況は「アライグマは多摩地域を中心に分布が広がっており、個体数 も増加傾向で区部への侵入も進んでいると推定」と,なかなか詳細には掴めていない状態.
そこで,開示請求で捕獲実績(捕獲数,捕獲努力量,CPUE)をいただいて図示.
CPUE を算出したところ,生息密度は区部で比較的低く,多摩で高い可能性が示唆された.特に,狭山丘陵,関東山地,多摩丘陵は生息密度が高いホットスポットとなっている可能性がある.
3.東京の現状-必要捕獲努力量-
続いて,必要捕獲努力量を算出してみた.
本報告の必要捕獲努力量とは9年で根絶するためにどれくらい罠をかける必要があるかという値.
個体数推定には浅田・篠田(2009)を,個体群動態推定には坂田(2009)を用いた.
※ただし,こちらはCPUE以上に統計的に脆弱で,取扱要注意!!
厳密な計算に必要な情報が得られていないため,かなり粗い概算にとどまっている.
cf. 浅田・篠田(2009)千葉県におけるアライグマの個体数試算(2009 年)
https://www.bdcchiba.jp/publication/bulletin/bulletin01/RCBC1racoon.pdf
cf. 坂田(2009)生息頭数変化に及ぼす捕獲効果のシミュレーション
今の捕獲努力量が足りているのか?
かなり不十分(1.5倍以上必要)
不十分(1.0~1.5倍必要)
足りている(~1.0倍必要=十分かも?)
情報不足
にカテゴライズして色分けしてみた.
大まかな傾向はCPUEと同じである一方で,CPUEがそこまで高くなくても赤く染まる地域があるね.
4. 周辺との関係
隣接県との関係はどうなっているのか.
ありがたいことに,千葉県と神奈川は結構情報の収集がされている.
例えば.
神奈川県では,近年,横浜・川崎で生息密度が上昇していることが示唆されている.
そう考えると,隣接する町田市が危機的状況なのは納得できる.
多摩市や稲城市は情報がないが,多摩川以南は生息密度が高い可能性は高いだろう.
また,必要捕獲量を見ると23区はほとんど大きな問題はみれないが,葛飾区だけ真っ赤.
これは千葉県野田市あたりからの侵入の可能性がある.
Hirose et al.(2021)ではDNAから千葉県のアライグマの侵入経路を明らかにした.
cf. Hirose et al.(2021) Population genetic structure of raccoons as a consequence of multiple introductions and range expansion in the Boso Peninsula, Japan. Sci Rep 11, 19294
これによると,葛飾区の北部の野田市から新たな侵入が確認されている.これが埼玉由来か茨城由来かはわからないが,葛飾区のアライグマもそこが由来かも?
隣接した足立区の状況も心配.
東京のアライグマの現状推定でした.
まだまだ情報不足ですが,狭山丘陵・多摩丘陵と西側関東山地がやばそうなことがわかりました.
とりあえず私は狭山丘陵の防衛を固めるために奔走したいと思います.
以上.
2022.1.17. 執筆
千葉連携大学研究発表会2021口頭発表参戦します
千葉県は県内の8大学と生物多様性や自然保護に関する連携協定を締結しています.
そこで毎年,「千葉県と連携大学との研究成果発表会」と称し,連携大学がそれぞれテーマに沿った研究を発表しています.
2021年はオンライン開催.
テーマは
「野生生物保全と自然再生における官学民の協同:自然保護はこれから何をめざせばいいのか」
で,先着100名,事前申し込み(無料)です.
https://www.pref.chiba.lg.jp/shizen/event/2021/documents/chirashi.pdf
自分はアライグマ餌トラップの有効性評価の研究を引っさげて馳せ参じます!!
データ数が少なく不十分な点は多いですが,内容としては結構面白いです(自分で言うのもアレですが笑)
今回の研究会の発表者でアライグマはひとりですが,爪痕残してやるぜ!!
(アライグマだけに)
--------------------------------------------------------------
1. アライグマ餌トラップ法とは?
2. 方法
3. 結果・考察
--------------------------------------------------------------
1. アライグマ餌トラップ法とは?
アライグマ餌トラップ法とは,環境省近畿地方環境事務所が開発したアライグマ訪問確認方法.筒の中の判別餌が消失していたら,アライグマが来ていると判断できる.
安価で簡単にアライグマが来たか否かを確認できるというとても魅力的な手法!!
cf. 【実録】アライグマ来てる!?餌トラップ法
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 環境省近畿地方環境事務所(2008)近畿地方アライグマ防除の手引き
https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/racoon_kinki.pdf
しかし,問題点が2点ある…
・サルがいる地域では使えない点
・有効性が明らかになっていない点(研究されていない)
アライグマ同様に手が器用なサルについてはこの調査方法の限界ではあるが…
有効性に関しては,自動撮影カメラと併用すれば明らかになるのでは??
ということで,今回はアライグマ餌トラップ法の有効性を検証しました.
データが足りないので,今回は中間報告程度になっちゃいますが…
正直アライグマ餌トラップ法は使えるぞ!!
動物の訪問確認方法有効性を考えるうえで,2つの危険性を考慮する必要がある.
偽陽性率:アライグマ訪問以外の原因で判別餌が消失する確率
偽陰性率:アライグマが訪問したのに判別餌が消失していない確率
つまり,
判別餌がなくなったら,アライグマが来たって言いきれる??
判別餌が残っていたら,アライグマが来てないって言いきれる??
これがわかればどれくらい信頼できるかを示せそうだ.
2. 方法
調査地は加治丘陵と狭山丘陵
アライグマ餌トラップと自動撮影カメラを2週間設置,1週間おきに確認
中大型哺乳類が餌トラップの周囲3 m以内に滞在した訪問を4つ分類
「採餌成功」「採餌失敗」「忌避」「通過」
3. 結果・考察
中大型哺乳類9種76訪問を確認.
アライグマ 47訪問
タヌキ 14訪問
イノシシ 6訪問
これは採餌成功するアライグマ!!
一方で,採餌失敗するアライグマも…(かわいい)
他の動物はどうなる…?
たとえばイノシシは,こういう”異物”があるとめちゃめちゃビビるみたい
全76訪問より...
・偽陽性率:アライグマ訪問以外の原因で判別餌が消失する確率→危険性は低い
アライグマ以外の動物が判別餌を取ることはなかった
・偽陰性率:アライグマが訪問したのに判別餌が消失していない確率→危険性は高い
アライグマ採餌成功率約20%,多くの訪問で失敗or通過
まとめると…
判別餌がなくなったら,アライグマが来た可能性大
判別餌が残っていても,アライグマが来てないとは言えない
大量に仕掛けることでアライグマ早期発見には有用かもしれないね.
一方で,未侵入の保証はできなそう.
密度指標としての能力は検証が必要.もっとデータ集めてモデル作れたら理想だな~
今回の調査では,アライグマとタヌキのデータはまぁまぁ集まった一方で,
ネコやハクビシンなど手が器用そうな中型哺乳類のデータが足りない...
データを蓄積して,信憑性を増す必要があるね
また,市民参加型調査にできるように調査フォーマットをつくりたいね
爪痕調査の代替or併用で,簡易な生息確認手法になるかもしれない.
サルが生息する場合は,ペットボトル式ではなく塩ビ管式なら有用かな?サルは視覚的な餌とるけど,見えなかったらあまりとらないって聞いたことある気がする.
それは要検証.
それでは千葉県と連携大学との研究成果発表会でお会いしましょう!!
Let me see your gun-finger!!
以上
2021.11.22. 執筆
【ポスター賞いただきました】野生生物と社会学会2021ポスター発表参戦します
2021年11月3日から始まる野生生物と社会学会.
自分は武蔵野アライグマ第一章の集大成引っさげて馳せ参じます!!
今回から単著での参戦.
そういうとかっこいいけど,強大なバックアップがない中での参戦になります.
(指導教官に添削はしてもらったけど)
アライグマ関連の研究は当分孤軍奮闘しますが,どうぞ優しい目で見守ってください!!
※ポスター賞をいただきました!!大変光栄な賞をいただきまして,本当にありがとうございます.
これを励みに,武蔵野アライグマの調査・防除に一層力を入れたいと考えております.(2021.11.06 追記)
----------------------------------------------------------------------------
1. 今回の発表内容
2. 発表には入れられなかった内容
----------------------------------------------------------------------------
1. 今回の発表内容
狭山丘陵は東京都と埼玉県の境界に位置する独立丘陵.
両生類の生息地としても重要で,トウキョウサンショウウオやトウキョウダルマガエルなどの希少種も生息する.
一方で湿地はアライグマが大好きな景観.そしてアライグマは里山も大好き.
埼玉県では捕獲頭数も年々増加している.
…もしかして狭山丘陵のアライグマやばいのでは??
しかし,狭山丘陵に関するアライグマの情報はめちゃくちゃ少ない.
今回は「狭山丘陵のアライグマはどんなかんじに分布しているの?」ってことをざっくり広い範囲対象に検証することを目的としました!!
重昆(2011)は狭山丘陵の哺乳類情報をまとめた.アライグマの目撃情報などもまとめており,これによると2000年ごろから定着が始まったようだ.
しかし定性的な報告にとどまり,狭山丘陵全域におけるアライグマの生息状況やその年変動まではわからなかった.
cf. 狭山丘陵の哺乳類
https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho8_ho2.pdf
堀井ほか(2014)は所沢(狭山丘陵北東)のアライグマ爪痕を調査した.所沢におけるアライグマの定着を示唆した.
一方で,狭山丘陵北東の情報にとどまり,狭山丘陵全域におけるアライグマの生息状況は依然として不明.また,爪痕調査も様々な問題をはらんでいる.
cf.所沢市におけるアライグマ生息状況調査
https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf
東出ほか(2019)は(主に)所沢におけるカメラトラップ調査で狭山丘陵の動物相とその経時変化を評価した.2011 vs 2013 vs 2016のカメラトラップ調査結果を比較し,アライグマの増加傾向を指摘した.
一方で2013年と2016年は所沢のデータにとどまる.2011年は狭山丘陵全域を対象にしているものの,7地点と調査地点数が限られている.
cf. 近年の狭山丘陵における中型哺乳類の生息状況とその変化―アライグマの定着・増加による在来哺乳類への影響―
cf. [レビュー]近年の狭山丘陵における中型哺乳類の生息状況とその変化―アライグマの定着・増加による在来哺乳類への影響―
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
以上から
・2000年代から定着が始まったらしい
・所沢には2014年くらいには定着しているようだ
・所沢では増加傾向にあるらしい
とわかったものの,狭山丘陵全域を包括して論じることはできてない.
そこで,狭山丘陵全域のアライグマ分布状況を
・寺社爪痕調査
・捕獲実績分析
の2つの視点からざっくりと明らかにしてみた.
まず寺社爪痕調査.
これは↓でまとめているもの.
堀井ほか(2014)と判断基準が違うからか,割合とかはけっこうブレているものの
おおむね傾向は掴めたかな.
南東の東村山市では爪痕は少なく,それ以外の市では結構しっかり見つかった.
捕獲データのざっくりまとめは下の通り.
ポスターではちゃんと年度比較できるようにまとめるけども…
一番大事なCPUEは年変動を抑えたいので,2017-2018の合算してみたよ.
東村山市は捕獲努力量が少ないのが気になるが,どうやら東京は東西方向に勾配がある(西の方が生息密度が高そう)ようだ.
以上が発表するざっくりとした内容.
2. 発表には入れられなかった内容
あとは自分でやってみたプラスアルファ情報など.
まずは爪痕の分布について.
なんか森林に近いほど爪痕が多そうな気がしたので…
100 mグリッドごとの土地利用データをもとにして,半径400 m以内における森林のセル数を解析した(まだこのときは調査終わっていなかったので2~3点調査していない)
結果,アライグマの爪痕がある寺社の周辺は有意に森林が多いことがわかった(t検定,p<0.05).
しかし,ここから「アライグマは森林を好む」としてはいけない!!
超雑な解釈をしても2通りの考え方ができるよね.
①アライグマは森林を好む
②寺社爪痕調査は環境要因が大きなバイアス
①は単純な解釈で,アライグマが森林を好むから森の中の寺社で爪痕が多いというもの. ②はアライグマの数が同程度でも,森林の寺社ほど使われやすいというもの.これは林内と街中での住環境資源の問題.林内は隠れ場が街(側溝,暗渠,空き家,倉庫…)が少なくて,寺社の相対的な価値が高い可能性.
その他に,アライグマが少なそうな東村山(森林が少ない)が結果を引っ張っているんじゃないか?面積が重要なのか林縁からの距離の方が大事なのか?など問題の多い解析です.
そもそも,先述の通りアライグマ爪痕調査は精度が低く,低量調査としても危険性を多くはらむもの.
これをもとに多くを語るのは,砂上の楼閣というかまずい材料で料理をつくるようなものなのであまり深入りはしません.
続いて,必要捕獲努力量について.
神奈川とかは目標としてどれくらいわなをかけたらいいかを算出している(必要捕獲努力量).
cf. 各自治体のアライグマ防除計画比較
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
算出方法の正式な出し方はわからないけど,おそらく
・CPUEと生息密度の回帰モデルから生息密度・生息数を算出
・先行研究の個体群動態モデルからアライグマを減らすor根絶するために必要な捕獲数を算出
という流れだろう.
生息密度の回帰モデルは北海道と千葉で算出されている.
https://hokkaido.env.go.jp/wildlife/mat/data/m_2_2/m_2_2.pdf
cf.浅田(2009)千葉県におけるアライグマの個体数試算(2009年)
個体群動態モデルは兵庫から.
cf. 坂田(2009)生息頭数変化に及ぼす捕獲効果のシミュレーション
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010912451.pdf
狭山丘陵周辺で捕獲努力量がある程度あってCPUE算出されている3市町で計算してみた.
東大和はかなり頑張っている一方で,武蔵村山市や瑞穂町はもっと捕獲圧かけないといけないという結果に…
瑞穂町なんてあと3.5倍かけないといけないらしい.
しかし,回帰モデル自体が粗いのに加えて,調査地も違うだめかなり粗い推定になり科学から離れすぎてしまうので,ポスターや短報には含めません.
ズレすぎた目標設定は逆効果の可能性もあるしね.
という感じで,武蔵野アライグマ第1章は2021.11.7で幕を閉じます!!
第2章は餌トラップとか,より精度の高い狭山丘陵の調査とか.の予定!!
それでは野生動物と社会学会でお会いしましょう!!
Let me see your gun-finger!!
以上
2021.10.27. 執筆
2021.11.06. 追記