アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

【レビュー】高橋(2015)2014年鳥獣法改正の法的分析

高橋(2015)

狩猟の諸要素を踏まえた2014年鳥獣法改正の法的分析

野生生物と社会3(1).13-21.

 

www.jstage.jst.go.jp

 

2014年に鳥獣保護法が改正されて,鳥獣保護管理法になりましたよね~

自分が野生動物管理に興味を持ったときにはすでに改正されていたので詳しくはないのですが…

 

ということで,今回は2014年の改正で何が変わったのか?という内容.

野生動物の保護管理をはじめとした環境法・法社会学の研究をされている富山大学の高橋満彦先生の総論です.

 

赤字はブログ執筆者の感想です.

 

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目次

  1.  [レビューの前に]そもそも鳥獣保護管理法とは,大まかな改正内容
  2. 「目的」について
  3. 「対象鳥獣」について
  4. 「担い手」について
  5. 「猟具」について
  6. 「狩猟の場」について

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1.  [レビューの前に]そもそも鳥獣保護管理法とは

 

鳥獣保護管理法とは

正式名称「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律

「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資すること」が目的.

我々狩猟者にとっては親のような法律.野生動物管理としても親のような法律.

www.env.go.jp

 

鳥獣法関連の大まかな流れは↓のとおり.

1895年 狩猟法制定

1918年 狩猟法一部改正 「鳥獣激減!!鳥獣保護せよ」

2002年 狩猟法→鳥獣保護法 「鳥獣保護せよ」

2014年 鳥獣保護法→鳥獣保護管理法 「めっちゃ増えている鳥獣もいるので,鳥獣保護と管理両方せよ」

 

鳥獣法の研究している先輩曰く,野生鳥獣保護管理の情勢としては1918年の改正がめちゃくちゃ大事らしい.鳥獣の著しい減少をうけて,保護に舵を切ったターニングポイント.

この20年でシカとか急増しているが,これはそれ以前の保護政策の結果でもある.

もちろん,以前は保護する必要があるくらい減っていたので,保護政策が間違っていたというわけではない.

 

鳥獣保護法云々の前に,狩猟と有害鳥獣捕獲と管理捕獲がわからん!!って人は↓を読んでくれ

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

2014年の鳥獣法改正の大まかな内容は以下の通り(高橋 2015)

・題名・目的等の改正

・計画体系の整備(保護計画と管理計画に分離)指定

・管理鳥獣捕獲等事業の創設 

・認定鳥獣捕獲等事業者制度の 導入,住居集合地域等での麻酔銃使用の許可

・わな猟 ・網猟免許の取得年齢の引き下げ(20歳→18歳)

わな猟免許引き下げてもらえてよかった~自分は18歳でわな猟免許取得,19歳から捕獲開始だったんだけど,これが2年ズレていたらできていなかったかもな...

 

 

2. 「目的」について

従来は「保護」と「狩猟の監督」が目的であったが,2014年改正では「管理」が加わった.

あらためて狩猟の目的なにか.第2条第7項をまとめると

・肉や皮などの資源確保

鳥獣害被害防止など管理*

その他レクリエーションなど

 

管理とは?

生物の多様性の確保生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から,その生息数を適正な水準に減少させ,又はその生息地を適正な範囲に縮小させること」(第2条第3項)

 

 

ジビエ推進など重要な視点も明記されている.一方で,「その他」については鳥獣法改正前後ともにほとんど言及してない.狩猟文化の継承やレクリエーションについては議論が必要?

 

 

3. 「対象鳥獣」について

 

原則として捕獲禁止(第8条).捕獲には登録狩猟か許可が必要(第9条,第11条).

ここに変更はなし.

 

cf. 狩猟?管理捕獲?有害鳥獣捕獲?-野生鳥獣捕獲の行政的枠組みの整理-

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

科学的な管理のための特定計画制度

 

--旧法(旧法第7条第1項)

対象: 数が著しく増加し又は減少している鳥獣

目的: 長期的な観点から当該鳥獣の保護を図るため

 

--新法(新法第7条)

第一種特定鳥獣と第二種特定鳥獣を設定.

第一種特定鳥獣: 生息数が著しく減少し,又はその生息地の範囲が縮小

第二種特定鳥獣:  生息数が著しく増加し,又はその生息地の範囲が拡大

 

例えば,

ツキノワグマの保護が必要な場合→第一種特定鳥獣保護計画(ツキノワグマ)

シカの管理が必要な場合→第二種特定鳥獣管理計画(シカ)

というように特定計画を都道府県が種ごとに策定する

 

しかし,この場合,ツキノワグマは判定が難しい.

なぜなら,東北では人身被害なども多い一方で,四国とかでは絶滅が危惧されているという,地域によって生息状況に違いがある動物だから.

実際,福井県以西では第一種,石川県以東では第二種

 

 

cf. 特定計画とその策定状況

www.env.go.jp

 

 

また,「集中的かつ広域に管理をはかる必要がある」としたシカとイノシシは指定管理鳥獣捕獲等事業として,規制が緩和された.

 

cf.指定管理鳥獣捕獲等事業

www.env.go.jp

 

f:id:Satoyaman:20220204140528p:plain

環境省HP(2022.2.4確認)

 

 

4. 「担い手」について

 

環境省狩猟者を鳥獣保護管理の担い手としている.

須藤(2013)や山中(2014)など,スポーツハンターは技術的・科学的に期待できないという意見もある.

 

cf. 須藤(2013)カワウにおける個体群管理のための捕獲「野生動物管理のための狩猟学」

https://www.amazon.co.jp/%E9%87%8E%E7%94%9F%E5%8B%95%E7%89%A9%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E7%8B%A9%E7%8C%9F%E5%AD%A6-%E6%A2%B6-%E5%85%89%E4%B8%80/dp/4254450281

cf. 山中(2014)ケモノたちの大逆襲の時代の選択肢

https://acaddb.com/articles/articles/17969531

 

現状(論文が出た2015年時点)では鳥獣捕獲は狩猟者が一手に担っている.

有害鳥獣捕獲に狩猟免許は必ずしも必要ではないが,実質的には狩猟免許所持者で地域の猟友会所属の狩猟者が担っていることが多い

 

地域の鳥獣害対策を地域の猟友会が担うことについて,筆者(高橋 2015)が以下の通り指摘する.

(実質的な)縄張りとして排他的に狩猟を認めるための義務

※法律上は鳥獣は誰の物でもない無主物だが,慣習的に地域のものと考えられている場合もある(田口 2014)

cf. 田口(2014)マタギの狩猟とカミの世 界.「日本のコモンズ思想」

www.iwanami.co.jp

 

もちろん慣習的な深い考察以外にもTwitterとかでも指摘されている以下も明示している.

・独占的・特権的に猟ができるのはうまみがあるかも

・一方で地域の声にこたえるために夏山で捕獲するのは大変

・報奨金が潤沢なら参入したいかも

 

 

安全管理体制や技能・知識が一定基準を満たしている「認定事業者」制度が導入された.

弱体化しつつある地域の猟友会変わって専門業者の育成を目指す.

ただし猟友会と軋轢はありそう.

この考察されたときはまだ改正直後だったので,現実問題どうなのかはわからん.認定事業者が入っているのは国立公園とかだからあんまり軋轢はない?詳しい方コメントください!!

 

海外では

・専門教育を受けた専門家が行うべき

・狩猟権行使者に個体数調整の義務

の両方の考え方がある.日本にあてはめると,「地元狩猟者の手におえないものを補助する」(hired gun)が現実的かも.

なぜなら

・専門家:予算的にも厳しいし,技術も不安定.

・地元狩猟者:農林水産業や狩猟資源など経済外の動機もある.

 

 

5. 「猟具」について

夜間発砲や街中での麻酔について.

個人的に興味が薄いので,レビューはパス.

 

6. 「狩猟の場」について

鳥獣法では改正前後を通して狩猟の場については言及されていない.

著者は土地所有権と狩猟の場の問題は遅かれ早かれ議論する必要があるとしている(高橋 2014).

cf. 高橋(2014)鳥獣法の根本は変わるのか

ci.nii.ac.jp

 

現状は,柵とかに囲まれていない土地で狩猟する場合,特に土地所有者の許可は必要ではない.

※これは「柵とかに囲まれている土地では許可が必要」との法文の反対解釈であり,「所有者から許可とらずに狩猟していい」と明記されているわけではない.

 

日本では入林に許可が必要という観念は乏しい.一方で,地域の慣習にされるので,乱場とはいえ実際は誰でも自由に狩猟できるわけではない.

 

では土地所有者が入猟を拒絶した場合どうなる?

外来生物法では行政の職員が防除のために市有地に入ることができる(第13条,第18条第4項).鳥獣法は,私人を対象にしているからか,こういった規定はない.

迂闊に土地所有権について規定を作って管理に足枷を作ってはいかんが,慣習が通用しなくなることによって狩猟を忌避する土地所有者が増えても困る…

今後議論する必要があるだろう.

 

以上

2022.2.4 執筆