日本のアライグマ管理はどうあるべきか(2020.6.20更新)
アライグマの論文とか報告書読むだけじゃなくて,それを言語化してアウトプットするのも大事だな~と思ったので.
今の自分の見解です.
※随時更新します.
1. 日本のアライグマ管理の現状に思うこと
・今の日本のアライグマ対策はなかなか成功してない
∵成功例が少ないから?真似すべき事例が少ない.
cf. 大山捕獲隊(兵庫県)
cf. マングースバスターズ(ただし島嶼の事例/アライグマでなくマングース)
↓
・なんか諦めムードを感じるな...
・でも諦めていい問題ではない
↓
・少しずつでもアライグマ管理の成功例や「管理しなきゃいかんよな!!」って空気感作っていきたいね
2. まずは現状把握が大切
・その地域はアライグマどんなかんじなの?ヤバいの?まだ大丈夫な方なの?
それがわからんと作戦も立てようがありませんな.
現状把握の手法
①餌トラップ法などによる侵入有無の把握(2020.5.29追記)
②REST法や除去法を用いた個体数推定
③捕獲数やCPUE,RAIの変動を用いた個体群成長のトレンド把握
④捕獲個体の雌雄を用いた個体群成長のトレンド把握
①について,まずその地域にアライグマが侵入しているのかの確認が必要.
一番オーソドックスな確認方法は目撃情報と痕跡の調査.しかし,目撃情報は低密度では現れないし,正確性も不明.痕跡調査もコスパが悪い.
そこで,環境省近畿地方環境事務所(2008)は餌トラップ法を紹介してる.
cf. 近畿地方におけるアライグマ防除の手引き(環境省近畿地方環境事務所 2008)のレビュー
これは,筒に殻付きピーナッツを入れて設置するという方法.
すなわち,これで餌がなくなっていればアライグマが来たって証拠になる.
(アライグマ以外はほとんど筒には手を入れない/サルは入れる)
安価でコンパクト,餌もなかなか腐らないので大量に広範囲,長期間仕掛けられる.
この手法で在不在や多い少ないくらいはわかるかもしれない
(2020.5.29追記)
②について,REST法は,カメラを用いた個体数推定方法.しかし,自動撮影カメラが30台とか100台とか必要になる(高コスト).また,管理に個体数推定はそこまで必要なのかも疑問.より必要なのは,個体数増減のトレンドかもしれない(アライグマは増えてる?減ってる?).
↓そこで③と④
④は,長期モニタリングで増減を図る方法.CPUEは捕獲効率(捕獲努力量当たりの捕獲数),RAIは撮影効率(100カメラ日当たりの撮影数)のこと.
捕獲数やCPUE(捕獲効率),RAI(撮影効率)が上がったら,その地域のアライグマは増えているかもしれない,ということ.これはデータ収集すればよくて,難しいことは少ない.
ただし,捕獲数はどれくらい捕獲に力を入れるかで変わるので,一概に指標にはできない.
④は,「捕獲個体にオスが多ければその個体群はまだ小さい」という考え方.
アライグマなどは
オス...遠くまで移動する
メス...比較的動かずに繁殖する
つまり,捕獲個体でオスばっかりだったらまだその個体群は低密度ってこと(このフェイズを遅滞相と呼ぶ).このあとメスも入ってきて繁殖始めたら一気に増えてしまう(このフェイズを増加相と呼ぶ).
捕獲個体の雌雄を見分けることで,当該地域のアライグマ個体群がどういう状況なのか調べるのは有効かも.ただし,正しく捕獲者=雌雄判別できる人とは限らないのは注意.
cf. 浅田正彦 2013 ニホンジカとアライグマにおける低密度管理手法「遅滞相管理」の提案 哺乳類科学 53(2):243-255
レビュー↓
①~④を駆使して,今,その地域のアライグマはどれくらいヤバいかを把握すべき.
3. 目標設定
アライグマ管理の目標は「根絶」.
しかし,島嶼や半島ならまだしも,内陸地域は根絶しても隣接地域から流入してしまう.無理な目標を掲げると,かえって絶望感で失敗率高くなる(たぶん).
そのため,目標は「とりあえず低密度に抑えること!!」.そして,広域で低密度が達成できたら,その中心部から根絶計画を進めるのが良いのではないでしょうか!?
cf. 浅田正彦 2013 ニホンジカとアライグマにおける低密度管理手法「遅滞相管理」の提案 哺乳類科学 53(2):243-255
レビュー↓
4. 誰が捕獲すべき?
次に,誰が捕獲を担うべきかを考えるべきでしょう.
基本的には地域住民が担うべきでしょう.
大まかな理想は以下の通りかなと思います
①高密度地域は農家の有害鳥獣捕獲と協力して強い捕獲圧を!!
②一定の密度まで落としたら,管理捕獲部隊が低密度まで落とす!!
③あとは低密度の維持
①について,現在の捕獲の主体は有害鳥獣捕獲だけども,以下の観点から農家が常に主体であるべきではないと思う.
・社会基盤である生態系問題の解決を農業従事者のみに担わせるのは不当
・農業被害の観点からは被害コストが対策コストに対して小さくなればそれでいい
・市街地・都心での対策として全く機能しない(2020.5.2追記)
これは野生動物管理が有害鳥獣対策と繋がっていながら,同じではないところですね.
cf.阿部豪 2015 『日本の外来哺乳類』5アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-
レビュー↓
問題は,②の管理捕獲体制の確立ですね.
捕獲の体制には3種類
「生態系のため(外来生物法に基づく防除)」
「被害防除のため(有害鳥獣捕獲)」
「趣味のため(狩猟)」
があります(下記URL参照).今回の「管理捕獲」はこのうちの「生態系のため(外来生物法に基づく防除)」に該当.(2020.5.9追記)
大山捕獲隊は地域住民が主体的に問題意識を共有して立ち上がったが,それをどう全国で普遍的に広めていくか...大山捕獲隊活動は「生態系のため(外来生物法に基づく防除)」に分類される捕獲を展開.しかし,主力が農家さんであるのもふまえると被害防除の意識が根底にある気がしました.
被害が少なくなったとき,捕獲に対するモチベーションはどうなるんだろう?
でも,おそらく農家さん以外はもっとアライグマへの危機意識は薄いと思うし...
ちょっとここはまだ自分の考えがまとまってないです.体制の確立については今後勉強します.(2020.5.9一部追記)
cf. 兵庫県森林動物センター 2020 『兵庫県における外来哺乳類の現状と課題』4章住民主体のアライグマ捕獲隊の活動事例-大山捕獲隊の活動記録-
レビュー↓
cf. 捕獲枠組みの整理
(↓2020.4.29追記)
同時に行政の計画による後ろ盾や学識者の助言も重要になるだろう.
特に行政の計画は大きいと思う.例えば先述の大山捕獲隊の事例では,行政の計画で以下の2点を定めた.
①講習の受講によって狩猟免許を持っていないくても従事できる
②捕獲個体は引き取る(生体輸送も可)
※アライグマは特定外来生物に指定されているため,通常は生きたまま移動させることは違法
特に②が大きいだろう.止めさしは非狩猟者にとってかなりハードルが高い.
箱罠で捕獲されたアライグマの止めさし手法としては,水没による溺死/電殺/ガス殺が主である.しかし,水没による溺死は動物福祉の観点から好ましくない.電殺器は個人が揃えるには高価である.ガス殺は容器やガスの発注など,コスト・作成ともになかなか個人が負えるものではない.また,アライグマはめちゃくちゃかわいい(当社比).目の前で,自分の手で,命を奪うことは大きな心理的負担を強いることもある.この最大の難関を行政が担うシステムを構築することは従事者の参加の敷居を下げることに繋がる.
他に行政は何をすべきか?それも今勉強中なので,随時追記します.
cf. 兵庫県森林動物センター 2020 『兵庫県における外来哺乳類の現状と課題』4章住民主体のアライグマ捕獲隊の活動事例-大山捕獲隊の活動記録-
レビュー↓
(↑2020.4.29追記)
cf. 行政の防除実施計画の根拠(2020.5.2追記)
https://satoyaman-raccoon.hatenablog.com/?_ga=2.95095772.1347485298.1586785805-265929746.1580548303
cf. 篠山市アライグマ・ヌートリア防除実施計画(2020.5.2追記)
5. どうやって捕獲すべき?
では,どうやって捕獲するべきか?
※捕獲手法のまとめはたぶんいつか書きます
(以下2020.5.9追記)
まず,捕獲の許可について.原則としてネズミ・モグラ以外の哺乳類は捕獲禁止.
そのうえで,捕獲の行政枠組みは3種類
・狩猟(鳥獣保護管理法)
・許可捕獲(鳥獣保護管理法) ...この中に有害鳥獣捕獲も第二種特定鳥獣管理計画も
目的別で考えると以下の3種類
・生態系保全等のための捕獲
(アライグマ:外来生物法の防除/シカやイノシシ:第二種特定鳥獣管理計画)
・鳥獣被害対策のための捕獲(有害鳥獣捕獲)
・趣味のための捕獲(狩猟)
これについては,下記URLで詳細記載
cf. 捕獲の行政的枠組みについて
(以上2020.5.9追記)
我ら人類が持つ対アライグマ兵器は以下の通り
①箱罠
②前肢拘束型アライグマ捕獲器
③巣箱型アライグマ捕獲器
④選択的トリガー式箱罠
⑤遠隔放獣機能付箱罠
②~⑤はアライグマだけしか獲れないようにできている選択的捕獲罠です.
①は,どんな中型哺乳類でも獲れます.高密度地域だとそれでもいいのですが,ある程度になってくると錯誤捕獲(アライグマが獲りたいのにタヌキとかが獲れてしまう)が増えてしまう.そして,放獣しているとトラップハッピー個体(「餌食って捕まっても逃がしてくれるならまた食べにこよう」)となってしまう.
そのため,
・高密度地域では一般に普及している箱罠や扱いが簡単な前肢拘束型アライグマ捕獲器,選択的トリガー式箱罠で強い捕獲圧をかけ,
↓
・低密度になってきたら,箱罠はやめ,②~⑤の選択的な捕獲罠を使用
がいいのかなと思います.
①箱罠
箱の中に餌を入れ,それにつられて入ってきた動物が中央の踏み板を踏むと扉が閉まるというもの.
アライグマの餌はあんドーナツやキャラメルポップコーンが有効とされています.脂っぽいものが好きなんで,ぶっちゃけうまそうならなんでもいい?んじゃないすかね.
②前肢拘束型アライグマ捕獲器
これはアライグマの手が器用だっていう形態的特徴を生かした罠.筒状の罠の奥に餌があり,それを取ろうと手を突っ込む(アライグマくらいしか手を突っ込んだりしない)と手が固定される仕組み.
TheEggTrapCompanyのエッグトラップが有名です.その他にもHyke社のハイクアライグマトラップやタイガー社のアライグマ一番,サージミヤワキ社のアライグマ手錠式捕獲罠などがある.(他にもあったらコメントください)
エッグトラップ:https://theeggtrapcompany.com/index-3.html
ハイクアライグマトラップ:https://hyke-store.com/?pid=84677600
アライグマ一番:http://www.tiger-mfg.co.jp/trap.html
アライグマ手錠式捕獲罠:https://patents.google.com/patent/JP3160342U/ja
この形式の罠は小さく,低価格で選択性も高いので選択的捕獲器としてコスパよさそうだと思う.
ただし,錯誤捕獲に関する指摘や動物福祉の観点からの指摘もある.
Egg Trapのそれについては阿部ほか(2006)参照のこと(2020.5.24追記).
cf. 近畿地方環境事務所. 2006. 第 1 回 近畿地方アライグマ防除モデル事業調査検討会 議事次第
http://kinki.env.go.jp/wildlife/mat/data/m_2_1_1/m2_5.pdf
cf. 東京農工大学狩り部.2020.埼玉県入間市におけるアライグマ等の生息状況と捕獲に関する報告書(2019 年度)
drive.google.com/drive/folders/
cf. 阿部ほか 2006 北海道におけるアライグマ捕獲のためのEgg Trapの有効性と混獲防止効果の検証(2020.5.24追記)
https://satoyaman-raccoon.hatenablog.com/?_ga=2.95095772.1347485298.1586785805-265929746.1580548303
③巣箱型アライグマ捕獲器
樹洞を模した箱罠.これはアライグマの樹洞を好む生態を利用した罠であり,餌は必要ない.設置しておけば,まるで樹洞を利用するかのようにアライグマが入って捕獲!!となる.重さで入り口が閉まる.
どれだけ選択的かわからないけど,餌がいらないのはすごい.
入り口が閉まったら連絡が来るようにすれば,エサを入れに定期的に見回る必要がないのがとても魅力的.
かなり低密度になったときに,最も有用な罠になりそう.
大分県では実際に30個近く導入されたそう.しかし,報告書を読む限り捕獲能力はあまり高くないかな...バンバン獲るための罠ではないからそれはいいんだけど,あまり捕獲できないと低密度地域での個体数再増加を見逃すことになってしまうので,要注意.
個人的には「まだ評価するだけのデータが公表されてないからわからんなぁ」くらいですかね.(2020.5.9追記)
詳しくはこちらでも↓
cf. 巣箱型箱罠について
cf. 巣箱型箱罠の使用事例(大分県北西部アライグマ防除推報告書のレビュー)
(2020.5.9追記)
④選択的トリガー式箱罠
https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/s-0129
これは,箱罠と同じような見た目の罠.しかし,これは踏み板を踏んだら閉じるのではなく,写真右の筒に手を入れたら閉まる仕組み.前肢拘束型アライグマ捕獲器と同様,筒に手を突っ込むのはアライグマ以外ほとんどいない性質を利用したものである.
これは筆者は使ったことがなく,使ってみた人の話もあまり聞いたことがないので使い勝手はわかりません.
印象としては,
〇前肢拘束型アライグマ捕獲器に比べ,非侵襲的(動物が怪我しにくい)
△箱が小さい気がする
△トラップハッピー個体はできてしまう
使った人の感想や実証結果がご存知の方がいらっしゃれば,コメントいただければと思います.
栄工業のラクーンキューブが有名.
ラクーンキューブ:https://www.choujuhigai.com/fs/chiikan/s-0129
⑤遠隔放獣機能付箱罠
これは基本的には普通の箱罠.捕獲されると通知ととも画像が来て,それでタヌキとかアライグマ以外だったら遠隔操作で罠の扉を開けることができる.
これも見たことないのでなんともいえませんが印象としては
〇前肢拘束型アライグマ捕獲器に比べ,非侵襲的(動物が怪我しにくい)
△高コスト
△トラップハッピー個体はできてしまう
ラクーンターミネーター:https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22651086/22651086seika.pdf
※他に罠の種類があればコメントいただければと思います!!
◎ある程度の錯誤捕獲は認めるべきなのか!?(2020.6.20追記)
現状,外来生物法にもとづく防除では錯誤捕獲の場合は放獣が原則である.
そのため,侵襲性の高い選択的捕獲罠は錯誤捕獲がないと言い切れないと使用できない.
とにかく減らしたい!!って場合にはまず以下2点を重視したいところ.
・捕獲効率
・コスト
この2点が優れているのは,箱罠と前肢拘束型捕獲器.
しかし,錯誤捕獲→放獣でトラップハッピー個体が増加すると箱罠の捕獲効率はガクンと落ちることが予想される.この点から考えると,前肢拘束型捕獲器は主砲になりうる罠だと思う.
ただし!!選択的とはいえ錯誤捕獲の可能性はあり,侵襲性が高いため在来種を侵したくない外来生物防除には不向きな側面もある(侵襲性が高いので錯誤捕獲しても放獣はできない).
そこで!!私は「ある程度の錯誤捕獲も認める」という方針もアリかもしれないと考える.
たしかに在来種を捕殺するのは望ましくない.しかし,その在来生態系への影響を踏まえてもアライグマ個体数減少が必要な地域も多いだろう.
「高密度のアライグマ」と「一定の錯誤捕獲」の双方のリスクを比較・評価する必要があると思う.
ただし, 「ある程度の錯誤捕獲も認める」の場合は以下が大切になろう.
・「ある程度」ってどれくらい?
これが定まらないことにははじまらん.そのためには各選択的捕獲罠の
・捕獲効率
・選択性
をキッチリ評価する必要があろう.現在,各選択的捕獲罠の能力を評価した研究は少ない.十分なわな日や捕獲数を確保した例はもっともっと少ない.
それを踏まえて,
「捕獲効率も選択性も高いけど錯誤捕獲ゼロとはいいきれないよ」という罠を,専門業者が導入できるシステムを整えれば,全体の効率があがるのではないか!?
それと同時に,前肢拘束型捕獲器の侵襲性もあまり研究されてないと思う(英論なら出てるかも,調べます)のでそこの評価も必要になってくると思う.
6. 他の技術
他のアライグマに関する技術等としては,アライグマ探索犬というものが研究している.まだ読めてないから今後読んでレビューにメモります.
↓中井ほか,2013,アライグマ探索犬の訓練方法および活用に関する研究-探索試験の結果と探索の環境条件に関する考察-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/primate/29/0/29_128_2/_article/-char/ja/