レビュー:Egg Trapの有効性と混獲防止効果の検証(阿部ほか,2006)
北海道におけるアライグマ捕獲のためのEgg Trapの有効性と混獲防止効果の検証
阿部ほか 2006
哺乳類科学46(2):169-175
のレビューです.
個人的に前肢拘束型アライグマ捕獲器の有効性には興味があるので,その先駆けたる本論文はとても読んでいて楽しかったですねー
↓本編
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/2/46_2_169/_article/-char/ja/
↓前肢拘束型アライグマ捕獲器について
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1. エッグトラップとは
2. 方法
3. 結果と考察
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1. エッグトラップとは
一般的にアライグマ捕獲は箱罠で行われることが多いが,タヌキなどばっかりがかかってしまうことも多い.
Egg Trapはこれ対策の罠.アライグマの「手が器用」だっていう形態的特徴を生かした罠.筒状の罠の奥に餌があり,それを取ろうと手を突っ込む(アライグマくらいしか手を突っ込んだりしない)と手が固定される仕組み.
北海道アライグマ防除指針は利点として以下をあげている(エッグトラップ).
①アライグマ以外の動物の混獲を防止
② 小動物による餌の持ち逃げや誤作動率を軽減
③ 箱ワナに対するトラップシャイ(警戒心の強い)個体の捕獲
④ 力の強い個体によるワナの破壊や逃亡の阻止
⑤ ワナの購入・運搬・管理に係るコストの削減
⑥ 設置環境の選択性が高い→水辺や湿地などにも設置が可能
まさにそのとおりなので私から追加することはないです.あとは安いくらい?5000円はしない.箱罠は5000-8000円とかだもんな.
詳細は以下(↑はこのページの引用)
本論文ではEgg Trapの構造も詳しく書かれている.
2. 方法
北海道の森林公園内6地点で1-7個のべ42個を設置
200TN(TN=トラップナイト)の捕獲圧
その際,設置方法をa-dの4種類にわける
a枝などからつるす
b支えに沿わせてつるす
c地面に打ち込んだ鉄杭からつりさげる
d地面に転がす
3. 結果と考察
2頭捕獲.でかかった.
その他捕獲効率等詳細は以下の通り.
考察の論点は以下の通り.
①錯誤捕獲なし→錯誤捕獲の可能性があるのはニホンザルのみ
②餌消失率から考えると,最適設置法はcだろう
③捕獲効率は今回の結果だけでは比較できない
④箱罠トラップシャイに効くが,Egg Trapシャイ個体生まないようにせねば
⑤動物福祉的には望ましい
⑥スネアで保定するならEgg Trapを地中に埋める手法も
①錯誤捕獲なし→錯誤捕獲の可能性があるのはニホンザルのみ
今回は200TNという短い期間であったが,どこまで評価していいものか...
・トリガーを手前に引くと作動する
・それができるのはアライグマ,サル,クマ,リスのみ
・大きさ的に気を付けるべきはサルのみ
としている.
しかし,飼育下での実験ではネコ,タヌキ,キツネの錯誤捕獲の可能性の示唆している(ただし地面に置かなければまぁ大丈夫).
cf. 近畿地方環境事務所. 2006. 第 1 回 近畿地方アライグマ防除モデル事業調査検討会 議事次第
http://kinki.env.go.jp/wildlife/mat/data/m_2_1_1/m2_5.pdf
加えて,同型のハイクアライグマトラップではテンやタヌキ,アカネズミなどが捕獲されている.
後者はメーカーや細かい構造が違うので,それが効いているかもしれない.
ともあれ,どこまで言い切っていいのか,200TNでは何とも言えない.
②餌消失率から考えると,最適設置法はcだろう
表1をみると,TNが全然違うのですが,それは比べていいのかな?
とはいえ,地面からの高さが高いほど餌が消失しにくいのは理にかなっている.
一方で捕獲効率にも影響が出るのでは?
もっとデータが必要だと思う.
③捕獲効率は今回の結果だけでは比較できない
それはそう.表1によると,箱の捕獲努力量はEgg Trapの約30倍だし,導入初期なのでアライグマが興味津々だった説もある.
実際,私がカメラ調査したときは罠に餌がはいってないのに興味津々に手を突っ込んでいる個体がいたので.
なお,北海道アライグマ防除技術指針ではEgg Trapは箱罠に比べて捕獲効率1/4としている.
私がハイクアライグマトラップを使用した感覚では,そんなに変らない印象がある.
ただ前者のサンプル数も少ないし,後者はサンプル数もデータの質もメーカーもガバガバなので感想にすぎない...
あと,捕獲効率の差とかは生息密度とかも関係してくるのかな?
cf. 北海道アライグマ防除技術指針
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/grp/01/araigumasisinn.pdf
④箱罠トラップシャイに効くが,Egg Trapシャイ個体生まないようにせねば
⑤動物福祉的には望ましい
保定部位が肉球や脂肪に覆われた掌骨周辺になるように設計,など配慮されているらしい.スプリング出力も最大出力の15%に抑えているという.
今回の捕獲個体も鬱血や腫脹に留まるらしい.
これもハイクアライグマトラップと比べることはできないけど,私もアライグマは骨折しているのを見たことがないからある程度はOKなのかもしれない.ただ,タヌキやテンなどはアライグマより物理的に弱そうだから,錯誤捕獲の場合どうなんだろうとは思う.
正直この論点に関しては懐疑的ですが,これに関しては海外の論文が出ているそうなのでチェックしないとねー
cf. Proulxほか1993
file:///C:/Users/watah/Downloads/57-1996-trapscaptureraccoons.pdf
cf. Hubertほか1996
⑥スネアで保定するならEgg Trapを地中に埋める手法も
罠に前肢拘束されたアライグマをどうやって捕まえるかだが,箱に入れる手法と保定用スネアを用いる方法がある.後者の場合は罠を地中に入れるといいらしい.なるほどね.
ただ,先述の通りこれでは錯誤捕獲の可能性あがりますね.
cf. 箱に入れる手法については↓
Egg™ Trapで捕獲されたアライグマを回収するための誘導型捕獲箱の開発
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/51/2/51_2_257/_article/-char/ja/
以上