アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

レビュー:大分県北西部アライグマ防除推進業務報告書 前編(捕獲編)

おおいた環境保全フォーラム.2019.大分県北西部アライグマ防除推進業務報告書のレビューです.

 

この報告書では

・事前事後モニタリング含めた捕獲(含 : 巣箱型箱罠を用いた選択的捕獲)

・生息マップ作製

・DNA解析

など,めっちゃくちゃ先進的なアライグマ対策を報告しています.

どう防除するかだけでなく,どこからどう広がっていくかまで調べています.

これは読み応えありそうなので,じっくり読みます~

アライグマ管理に興味ある兄弟たちはCheck it out!!

 

個人的には,選択的捕獲の期待・巣箱型箱罠の実地検証がめちゃくちゃ興味あります.この巣箱型箱罠は一般販売されていないので,他の罠に比べて全然使い勝手やレビューを聞く機会がないんですよね~見回りも必要ないわ,非侵襲的だわでめちゃくちゃ理想的なこの罠,捕獲能力は如何に...

 

※巣箱型箱罠について

https://satoyaman-raccoon.hatenablog.com/entry/2020/04/11/%E5%B7%A3%E7%AE%B1%E5%9E%8B%E7%AE%B1%E7%BD%A0%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6

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図1. 巣箱型箱罠と自動撮影カメラの設置例 https://hazako.files.wordpress.com/2019/04/h30raccoonreport.pdf

 

報告書原本はこちら↓

http://www9.plala.or.jp/kei_uchida/

or

https://hazako.files.wordpress.com/2019/04/h30raccoonreport.pdf

赤字は私の感想です.

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目次(前編)

1. 捕獲モニタリング調査

2. 巣箱型箱罠の設置事例

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1. 捕獲モニタリング調査

捕獲の効果を示すため,
第一段階:事前モニタリング(カメラ)
第二段階:捕獲調査(箱わなを用いた捕獲+カメラ)
第三段階:事後モニタリング(カメラ)

の3段階で捕獲+調査

高密度地域...箱罠で集中的捕獲

低密度地域...選択的捕獲(今回は巣箱型箱罠)

 

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表1. 調査地域ごとの撮影数(表なのにキャプション上につけられなかった...)

各地域

事前モニタリング:10-11月頃

捕獲調査               :11月頃

事後モニタリング:11-12月頃

を7-8 km^2に罠+カメラ10個前後しかける.設置の期間・場所などの詳細は原文に記載されています.

(日田市大山町東大山のみ1月末-2月末)

※なぜこの事業実施時期なのだろうか?捕獲効率とか生態とか考えると3-6月に捕獲すべきだと思うけども...また,撮影数が2-10とかだったら誤差とかバンバンあり得ると思う.カメラ10個前後ってどれくらい信頼できるのかな?

※事業だとうまく時期を調整できないのかもな...

※「捕獲効率とか生態とか考えると3-6月に捕獲すべきだと思う」については遅滞相管理の論文(浅田,2013)の考察を↓

https://satoyaman-raccoon.hatenablog.com/entry/2020/04/24/%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%3A%E3%80%8E%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AB%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%9E%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B

 

 

 

 

 

捕獲の結果は以下の通り.

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表2. 捕獲結果

これを先行研究による以下の式にあてはめて生息密度を推定.

本来ならもっとこの地域にあった回帰式を算出するべきであるが,今回はデータが不足しているので,先行研究を引用.

y=2.702x-0.296

なお,y=生息密度 x=100わな日での捕獲効率

cf. 千葉県生物多様性センター研究報告.2009,千葉県におけるアライグマの個体数試算

http://www.bdcchiba.jp/publication/bulletin/bulletin01/RCBC1racoon.pdf

 

加えて,5年後に捕獲数0になるために必要な捕獲圧を試算.このためには毎年生息個体の60%を捕獲する必要がある.アライグマは毎年4-5頭産むし,幼獣の死亡率も低いので,すぐ回復するのです.

※先行研究では6-8月とかの捕獲効率をもとにしている.そして,季節によって捕獲効率がすっごい変動することが各地で報告されている.そういったなかで,11月以降の捕獲効率を用いるのは適切ではない?

 

これらの結果をまとめると以下の通り.

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表3. 捕獲結果からの推定結果

北海道では捕獲効率を指標に低密度-高密度を定義しているが,それから考えると上から順に超高密度, 中密度, 中密度, 超高密度となる.

 

cf. 環境省 北海道地方環境事務所,2008,地域からアライグマを排除するための手引き

 https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/racoon_hokkaido.pdf

 

※先述のとおり,時期的な問題でこの推定結果はおそらく過小評価だろう.

※また,低密度-高密度の定義が北海道しかないのも今後のアライグマ管理の課題かもね.北大文学部が強すぎんよ...

※一方で,今回は1地域10台の罠とカメラで個体数推定と必要な捕獲努力量の設定まで行っている.推定結果は過小評価だと思うけども,莫大な費用をつぎ込まなくてもここまで推定するというのは素晴らしい.

※他の地域でも1地域10台の罠とカメラである程度今後の目標立てられるといいね

 

 

2. 巣箱型箱罠の設置事例

 

巣箱型箱罠を2018年6月-2019年3月にかけて計30個を設置した.

この巣箱型箱罠は

・餌入れ/見回りの手間がかからない

・選択的(アライグマしか獲れない)

・非侵襲的(怪我とか少ない)

という優秀な罠なのですが,捕獲能力はいかほどか...

cf. 巣箱型箱罠について

https://satoyaman-raccoon.hatenablog.com/entry/2020/04/11/%E5%B7%A3%E7%AE%B1%E5%9E%8B%E7%AE%B1%E7%BD%A0%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6

 

合計で6340わな日設置.罠と一緒にカメラも設置したそう.

捕獲数:0(調査期間外に2)

撮影数:60

......なかなかかかりませんでしたね.なぜ接近しているのにかからなかったのかについては今後調査が必要とのことです.

 

※かなりのわな日だが,捕獲0-2か...撮影数60あることかんがえると(撮影数も少ない気がするけど)ちょっと捕獲効率悪いかもしれないな.アライグマはかなり好奇心が強いので,私が前肢拘束型アライグマ捕獲器置いたときは餌なくても手を突っ込んでました.そのアライグマでさえ素通りしてしまうのは残念...

ツキノワグマのヘアトラップ調査(毛を採取する有刺鉄線とか)では松脂とか固形脂使っていた.そういった食ったらすぐなくなるタイプじゃない誘引物を最初だけ(or数週間に1回)使ってみるのもありかもしれない?

 

以上