浅田正彦 2013 ニホンジカとアライグマにおける低密度管理手法「遅滞相管理」の提案 哺乳類科学 53(2):243-255
のレビューです.
この論文では対象動物としてニホンジカとアライグマの2種について述べていますが,このレビューではアライグマのみ取り上げます.
赤字は私の見解等メモです.
論文はこちらから↓
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/53/2/53_243/_article/-char/ja/
今回は,アライグマの性比に着目して今個体群成長のどの段階にあるのかを調べつというもの.アライグマ管理において,個体数密度推定とかはカメラ30台とか100台とか使わないといけない.しかも個体数密度推定したとしても,「それでそれはどれくらいヤバいの?」はわからない.しかし,今回の性比に着目する手法では捕獲データから「どれくらいヤバいの?」がわかるため,今後の戦略を簡易かつ適切に定めることができる,というのがかなり魅力的に感じた.
今後の管理は,CPUEの変動と捕獲個体性比の変動から,個体群成長のトレンドを見て戦略を立案することが最も費用対効果が高いと思う.同時に,正確な情報の収集体系が求められるね.
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◎摘要
野生動物の分散過程において,低密度でなかなか増えない期間(遅滞相)を経たのちに一気に増加する期間(増加期)が来る.遅滞相はオスが多い.こういった特徴は千葉県の捕獲結果からも明らかになった.これを踏まえ,いかに遅滞相を実現・維持するかが大事になる.
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目次
1. はじめに
2. 方法
3. 結果
4. 考察
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1. はじめに
・アライグマ管理において,どれくらい目標達成できているのかわからない状態
↓
・説得力のある事業報告ができず,予算が削られがちに
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◎現状把握と適切な目標設定の手法が必要!!
ところで...今回は次の2点(アリー効果/分散の性差)が目玉
◎アリー効果...密度効果の一種.密度が高いと配偶相手見つけやすいけど,密度低いと全然見つからないよね,的な.
密度効果は一般に個体群の成長に対して抑制的に働くが,成長途中の個体群ではむしろ成長に促進的に働く.逆に個体群密度の低下によってアリー効果が失われると個体群崩壊に繋がりうる.(スクエア最新図説生物 第一学習社)
↓
外来種定着の際は,
遅滞相...定着までの期間で,中々増えない
増加相...定着後一気に増加する機関
があることがしられている
◎分散の性差...オスは遠くに,メスはコアに留まりがちなので,分布前線部はオスの割合が高いことがある.
そこで今回は...
◎分布中心部と前線部の性比(オス比)を調べることで遅滞相の有無を考察!!
※オス比でその個体群の成長段階を測るという視点は全くなかったので,ただただ平伏した
2. 方法
◎2007-2011年における千葉県のアライグマの捕獲個体を分析
・100ワナ日あたりのCPUE(捕獲努力量あたりの捕獲数,捕獲効率の指標のひとつ)をチェック
(年800ワナ日以上の捕獲を行っている市町村単位)
◎年間の設置ワナ日密度を算出
・1 km^2あたりの年間ワナ日
◎捕獲事業の分析
∵捕獲努力と密度低下,地域根絶の可能性を検討するため
3. 結果
◎CPUE(捕獲効率)
高密度地域...高い
中密度地域...中くらい
低密度地域...低い
◎設置ワナ日密度
高密度地域...低い
中密度地域...中くらい
低密度地域...高い
◎オス比
高密度地域...低い
中密度地域...中くらい
低密度地域...地域差あり
※低密度地域はCPUEが低くても捕獲圧かけ続けているから低密度で抑えられるんだな~と実感.CPUEが高いことは必ずしも褒められるべきことじゃないね.
◎CPUE(捕獲効率)とオス比の関係
CPUE 0.3以上...オス比が高い
CPUE 0.3以下...オス比半分くらい
※プロットがめっちゃ分散しているようにも見えるし,本論にはp値の議論がされていないけど,この関係は有意なのかな?
◎捕獲事業の分析
...略...
4. 考察
◎低密度地域ではオスの捕獲が多かった
↓
◎アリー効果が減少している可能性大
↓
◎こういったところは遅滞相にあるといえる
↓
◎性比がオスに偏る個体数密度を遅滞相と増加相の境界とみれる
※本論では"密度低下に伴って低下する,アリー効果(Gascoigne et al. 2009)がみられている"としているが,一般的にアリー効果は密度増加によって適応度が増す効果とされているので「失われている」と表現したほうが適切?
◎CPUEと性比の関係から,この地域(千葉)ではCPUE 0.3前後で遅滞相と増加相の境界があるといえる
・なお今回は低密度地域ほどワナ密度が高い
↓
ワナ密度効果は起因していなさそう
ワナ密度効果...ワナ密度が低いと捕獲がオスに偏りがち
※ワナとワナの間に生息しているとワナを訪問しなかったり,オスとメスで生息域の広さが違うことから起因するらしい.これまた知らんかった.
◎遅滞相からの根絶は可能かもしれないが,すぐに流入するだろう
↓
◎「遅滞相の実現と維持」を目的とした遅滞相管理が大事!!
※みんなが内心「ぶっちゃけ根絶無理だよな...」って思っているアライグマ管理に提案された遅滞相管理.池田先生も2019年あたりにNZの外来種対策の「実現可能性」についてシンポジウム何本か立てていらっしゃった(行けなかったけど).最初から理想を追うのではなく,実現できる目標を立てて計画実行しなきゃね.
◎捕獲適期(3-6月)の前(前秋)に広く浅くワナを設置せよ
↓
◎捕獲適期にはメスや幼獣の捕獲が多かった場所に集中的に戦力投入
※沢山獲れるところ,という量的評価だけではなく雌雄や齢などの質的評価も重視せよという指摘.行政や従事者の正確な情報収集能力が求められる.
以上