【レビュー】浅田(2014)階層ベイズモデルを使った除去法によるアライグマ(Procyon lotor)の個体数推定
浅田正彦(2014)
階層ベイズモデルを使った除去法によるアライグマ(Procyon lotor)の個体数推定
哺乳類科学54(2):207-218
↓原文
本論文は,大きく分けて2つの内容からなる.
①統計的な個体数推定方法
②千葉での個体数推定からわかったこと
①については論文理解するのに一定の知識が必要になると思う(去年の自分には理解できなかったので...).
たとえば,GLMM(一般線形混合モデル)とかMCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)とか階層ベイズモデルとか.
この一定知識から書くと本になっちゃうし,なにより筆者自身かろうじてわかる気がする程度の知識なので今回はあんまり触れません.
したがって,①自体軽く流します.
あ,でも.オススメ教材を置いておきます.
一緒に頑張りましょう.
②は個体数推定と生態のすりあわせとその考察なので,事前知識なくてもわかりやすい.本ページでは②に重点を当ててレビュります.
実際読む際も,もし統計勉強されているなら前から読んだほうがいいと思うけど,もし統計全然わからないならガッツリとばして「結果」から読むのも手だと思います~
せっかちさんのためにずばり要点だけいうと
「めっちゃ捕獲しても,すぐにオスがどんどん外から入ってくる」
「個体数が多い地域では本気出しても根絶は無理,まず広範囲である程度減らす.話はそれから」
ったかんじ
なお,今回の内容は遅滞相管理の知識があるとかなり面白いです.
知らない方は↓を一緒に読むのがオススメです.
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
※遅滞相
アライグマ(ほとんどの動物)の定着過程では,まず行動圏が広いオスが先に入ってくる.この状態ではなかなか増えない.この状態が遅滞相.
このあと,メスが定着して爆発的に増える.
以下目次です.
赤字は自分の意見です.
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目次
①統計的な個体数推定方法
②千葉での個体数推定からわかったこと:結果
③千葉での個体数推定からわかったこと:考察
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①統計的な個体数推定方法
先述の通り,ガチガチ統計トークはこのスペースじゃ無理だし,筆者も無理なので,オススメの教材おいておきます.これ,難しそうですが,本気出せばたぶん理解できます.
結構がっつり数学の話だと思いますが,ここ理解できなくても全然問題ないです.
その場合は②から読んでもらっても大丈夫です.
また,結局資料の本にイチから書いています.動画わからんくても本をイチから読むとたぶんわかります.
資料1:そもそもベイズ推定とは?
大人気Youtuberのヨビノリたくみ先生の動画です.
この動画の例題では
事後確率:陽性と診断された確率
から
事前確率:本当に陽性である確率(直接わからない→統計を使う)
を求めていた.
野生動物業界の個体数推定では
事後分布:捕獲効率とか糞粒密度,目撃効率などなど各種情報
から
事前分布:個体数(直接わからない→統計を使う)
を求めるかんじです.
本当だったら「個体数」(原因)あっての「捕獲効率とか糞粒密度,目撃効率などなど各種情報」(結果)なんだけど,直接はわからないから結果から原因を推定するってイメージ.
(ここでの確率と分布のニュアンスは同じとしていい.はず.)
資料2:階層ベイズモデルのイメージ
cf. 資料2.5 「え?最尤推定の説明から全然わからん??」って人向け
資料3:階層ベイズの本の作者による講義動画
久保先生は資料4↓の作者の先生.
このみんながオススメする本を授業っぽく教えてくれる.
やっぱ文字だけよりわかりやすいね.
資料4:階層ベイズで僕が色んな人からオススメされた本
データ解析のための統計モデリング入門――一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC (確率と情報の科学) | 久保 拓弥 |本 | 通販 | Amazon
僕も統計クソ苦手だけど,得意な人曰くこの本がいいらしいよ
たしかに練習問題からしっかり書いてくれているから,本気で学びたい人はこの本がいいのかも.
自分は最終章で1度挫折して,資料3の動画読んで再挑戦→読破(でも理解できてないかも)みたいな感じです.難しかった...(隙自語)
ここまで理解出来たら,この論文読んでみたらわかるかもです.
なお自分は修士1年でやっとちょっとわかったかもって感じです.
②千葉での個体数推定からわかったこと:結果
・めっちゃ捕獲しました
2012/6/22-2013/3/23で
35.1 km^2の範囲に約300 m間隔の面的に連続した100台の箱罠(=2.9 台/km^2)
捕獲数(計137)
オス成獣:53
メス成獣:29
幼獣 :55
・CPUE(捕獲効率)の変化
CPUEは初日~20日目と20日目以降で比較
メス成獣と幼獣は捕獲を続けるうちにCPUEが下がった
メス成獣:0.6→0.06
幼獣 :1.2→0.12
オス成獣はCPUE下がらない
※普通に考えると,捕獲しまくったらオスもメスも幼獣も効率下がるはずなのに...
・捕獲前後の性比を成獣・幼獣それぞれで比較.
成獣
前半はオス:メスに違いなし
後半はオスが有意に多く捕獲された
幼獣
前後半通してオス:メスに違いなし
・MCMC法による初期個体数の推定
メス成獣:収束
幼獣 :収束
オス成獣:収束せず
※めっちゃ雑に言うと,メス成獣と幼獣では推定成功,オス成獣は推定成功とはいえないかも.そうなった理由は生態に関係している?っていう考察が続きます
※MCMC法について知りたい方は資料3の久保先生の動画をご覧ください
推定の結果,
捕獲開始前の推定密度
オス成獣:2.54 頭/km2
メス成獣:2.93 頭/km2
幼獣 :3.70 頭/km2
↓
3か月後の推定密度
オス成獣:3.48 頭/km2
メス成獣:0.80 頭/km2
幼獣 :0.74 頭/km2
※いや,オス増えとるやないかい!!でもオスもかなり獲っているはず.
③千葉での個体数推定からわかったこと:考察
・この地域は遅滞相に以降したのでは
メス成獣・幼獣:7割以上除去
オス成獣:むしろ増加傾向
オス:メス=1:1.15
オス:メス=1:0.23
CPUE0.2以下
オスの割合が多い
※遅滞相
アライグマ(ほとんどの動物)の定着過程では,まず行動圏が広いオスが先に入ってくる.この状態ではなかなか増えない.この状態が遅滞相.
このあと,メスが定着して爆発的に増える.
・今回の結果から
CPUE=0.2のとき,3.12 頭/km^2に相当することがわかった.
強い捕獲圧をかけると...
・メス成獣の排除によって遅滞相に移行することがわかった
したがって
地域的な根絶はすぐには難しい
メス成獣を減らして遅滞相管理に移行すべし
・オスはメスより低密度
∵オス優位の一夫多妻or乱婚型→ほかのオスを排除
捕獲前推定個体数 :89
捕獲数 :53
but全然減らない!!むしろ増える!!CPUE減らない!!
101日目推定個体数:122
理由
①他地域からの移入
②4kg以上を成獣とした(元幼獣が成長知って成獣扱いになったので増えて見えた)
メスは減っていて,オスは増えていることから①が大きそう
(もし②がメインならメスも増えるはず)
定住していたオスが捕獲されたことで,弱いオスが定着・移入したと思われる.
・オスの個体数のMCMCサンプリングは十分に収束しなかった
≒あまり推定に成功したとは言えなかった
→仮定(他地域からの移入がない)が誤っているため推定がうまくいかなかったのでは?
→他地域からの移入があった!?
北海道
春に捕獲しまくっても,春-秋で捕獲しないと来年春には個体数復活
・海外の事例を見ると,根絶の鍵は
△増加率が低いこと
◎分散能力が低いこと
↓
分散能力が低いメスは減る
分散能力が高いオスはなかなか減らない
・本研究では,一気に捕獲すると遅滞相まで持っていくことは可能だとわかった
・しかし,オスの移入によって根絶はキツイことがわかった
・これは隣接地域が高密度だからかも
↓
最初から根絶を目指すのではなく
まず,広範囲の遅滞相を形成
その後に広範囲の地域丸ごと根絶
※「外から入ってくるのなんて知ってるわ」って?
自分は「一時的にほぼ根絶」→「ちょっとしたら外から入ってくる」
と思っていた.でも,実際は
「オスは減った瞬間に移入してくる」
とのこと.
だから,「1ヵ所根絶して,その範囲を広げていく」作戦は難しいんだね...
以上
2021.6.18執筆