アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

NHK サイエンスZERO 「“害獣”イノシシ研究最前線 科学の力で共生の道を」

NHK サイエンスZERO

「“害獣”イノシシ研究最前線 科学の力で共生の道を」

2020.12.13放送

のレビューです.

 

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基本的にアライグマの情報をまとめている弊ブログですが,今回はイノシシについて.実は中の人の専門(というほどでもないが)はイノシシだったりします.

www.nhk.jp

 

監修として,江口祐輔先生(麻布大学)と横山真弓先生(兵庫県立大学).

これは間違いないですね!!界隈の大御所です!!

そして実際,豊富な映像や具体的数値を明示していて最高の番組でした.

(こじるりもかわいいね)

 

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喉から手が出るほど羨ましい動画も沢山

 

赤字は補足や感想です.

今回は中の人の専門に近いので,補足情報多めです.

論文とかの引用も多いので是非見てみてね.

 

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 目次

1. 現状

2. 科学的アプローチ

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1. 現状

・イノシシは近年急増している.

※これは語弊のある表現.近年(2017頃~)はシカ・イノシシともに減少に転じている.ここでは1989年とかとの比較の話っぽいから間違ってはいないが...

 

・年間被害額は約50億円

 

・一般的な認識では,イノシシは俊足なイメージだが実際は...

   ○機動力が高い(俊足かつ機敏)

   ○跳躍力が高い

   ○遊泳力が高い

   ○学習能力が高い

 

・鼻が特徴.餌を探すして,掘り起こす.

 

・多産多死型.

   1度の出産で4-5頭を生む(シカやクマは1-2頭)

   1年目でその約半数が死ぬ

 

・近年人里への出没が相次ぐが,本来は憶病な動物.

     ↓ではなぜ出没する?

   ・人の山林利用減少(バッファーゾーン縮小)

   ・田畑の放置残渣が餌となる

 

2. 科学的アプローチ

◎自動撮影カメラによる個体数推定

→30頭/km^2の地域も!!(10頭/km^2で高密度とされる)

※番組ではREST法で解析している様子が(もちろんREST法自体は説明されていないが).これはランダムにカメラを設置し,カメラ前の特定範囲(正三角形の区域)に滞在する時間を計測・解析する手法.普通はけものみちとかヌタ場とかに設置したいし,画面に映ったもの全て解析したくなるけど,この手法では設置場所・向きは完全ランダムで画面端とかのイノシシはカウントしない.

cf. 兵庫森林動物センターシンポジウム レジュメ

https://www.hitohaku.jp/shizenken/news/suishin4-1704.pdf

 

◎成獣・幼獣の判定

・個体数減少には成獣の捕獲が重要(ウリ坊をとっても大して意味がない)

 

・本来は農作物なんかより栄養価の低いものを食べている(粗食)※

・餌資源によっては幼獣でもかなり大きくなることが判明

・現場では「大きい成獣を沢山獲っているのに被害が減らない!!」となっていても,実際は大きい幼獣を獲っているだけの場合がある.

※基本的にミミズや根を食べているとされる.胃内容解析によるとメインは根茎類で,植物食に偏った雑食と言える.また,食べているものは季節変動する.ただし,胃内容解析は消化しやすい餌資源を過小評価するけいこうにある.

cf. 島根県石見地方におけるイノシシ(Sus scrofa)の食性(小寺ほか 2013)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/53/2/53_279/_pdf

 

 

・永久歯や乳歯を見ることで齢査定することが重要

※こちらも兵庫森林動物センター・兵庫県立大学のモノグラフで報告された研究.原著を見ると,「個体差・地域差が大きいので目安にしかならない」とある.でも,齢査定ではなく成獣・幼獣の2択なら十分なのかな?
cf. 兵庫ワイルドライフモノグラフvol.6

兵庫県におけるニホンイノシシの管理の現状と課題

http://www.wmi-hyogo.jp/publication/pdf/mono06/chapter_5.pdf

※成獣・幼獣がわかったところで,成獣がとれていないと仕方がない.たしかに捕獲作業の正しい評価として欠かせないけど,どうやったら成獣が獲れるのかも知りたいね.

 

◎生態をふまえた適切な防除

・電気柵電線を20cm間隔で→ちゃんと鼻先が触れるように

※これは有名だよね

野生鳥獣防止マニュアル(農林水産省 2014)

https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_manual/h26_03/pdf/data0_6.pdf

 

・藪払いも重要

※一般に「生息地管理」って呼ばれるやつですね.野生動物管理では以下の3点の対策を複合的・同時並行的にすすめることと言われています.

  • 被害防除 : 柵や追い払いなど(ロケット花火やBB弾で狙うと慣れにくい)
  • 個体数管理 : いわゆる捕獲・駆除
  • 生息地管理 : 藪など隠れやすい環境を変えることで人里に近づきにくく

 

◎森林生態系における役割

・イノシシは森林生態系における攪乱の役割を担う.

・泥浴びをするヌタ場はあらゆる動物が利用する水場となる.

 

※攪乱とは生態系の破壊のこと.台風や洪水,山火事,動物の採食などなど.これは悪いことではない.こういった破壊によって生態系は常に変動しているし,こういった破壊がないと生息できない生き物もいる.

 

cf.神奈川県東丹沢地域における中大型哺乳類のヌタ場利用(佐野ほか 2019)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/59/1/59_37/_pdf

 

 

streamable.com

※これは筆者が撮影したシカのヌタうち動画.ここはイノシシとシカの双方がヌタ場として利用している.このほか,アナグマやタヌキ,鳥類など複数種の頻繁な訪問が確認されている.

 

※イノシシの攪乱作用としては,ヌタうちだけでなく採餌時の掘り起こしにも注目.イノシシは餌をとるために土を掘り起こす.これは以下の2点が特徴.

 ・物理的攪乱...表面を掘り起こすことで植生を破壊

 ・環境選好性...一様に攪乱するのではなく,選択的に攪乱する

cf.Wild boar rooting intensity determines shifts in understoreycomposition and functional traits(Burrascano et al. 2014)

https://link.springer.com/article/10.1556/168.2015.16.2.12

海外では掘り起こしの影響として,

 ・植生の変化→構成種や多様性など

 ・土壌成分の変化

 ・バイオマス量の変化

などが報告されている.しかし,日本では一切研究されていない!!

 

※じゃあどんなところに掘り起こし痕跡があるの?って研究は3件ほど.一番主要なのはこれかな↓

cf. 島根県石見地方におけるニホンイノシシの環境選択(小寺ほか 2001)

島根県石見地方におけるニホンイノシシの環境選択

 

以上,番組の内容と補足説明でした.

野生動物を取り上げる番組は害獣としての側面ばかり注目する一方でサイエンスzeroは科学的アプローチや生態系における役割を明示していて,とてもよかったです!!

 

cf. TBS 噂の東京マガジン~アライグマが!ハクビシンが!激増する都会の野生動物に異変!?~

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

以上

2020.12.20執筆