【英語論文】レビュー:アライグマとタヌキの生息地利用(Okabe and Agetsuma 2007)
Habitat Use by Introduced Raccoons and Raccoon Dogs in a Deciduous Forest of Japan
Fumie Okabe and Naoki Agetsuma 2007
Journal of Mammalogy, Volume 88, Issue 4, 20 August 2007, Pages 1090–1097
日本のアライグマとタヌキの生息地利用に関する論文です.
英語論文だけど,日本人が書いた英語なのでたいへん読みやすいです.
赤字は私の見解等メモです.
しばしばアライグマの生態系への影響として「タヌキなど在来種との競合」ってあげられるけど,それに関する論文は少ない.
本論文は 自動撮影カメラでそれを明らかにしようというもの.
また,異なる空間スケール(ミクロスケールとマクロスケール)で解析しているのも興味深い.
アライグマとタヌキの競合についての論文と言えば,こちらもチェック.
これはまだ数式の解読ができていないのでレビューしてません.
cf.密度推定に基づいたタヌキに対する外来哺乳類(アライグマ・ハクビシン)の影響(栗山ほか 2018)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/23/1/23_9/_pdf/-char/ja
日本のアライグマの行動圏については以下をチェック
cf. 倉島・庭瀬,1998,北海道恵庭市に帰化したアライグマ (Procyon lotor) の行動圏とその空間配置(上:本編下:まとめ記事)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/38/1/38_1_9/_pdf
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
野幌森林公園地域におけるアライグマの行動圏(池田ほか 2001)
(上:本編,下:まとめ記事)
CiNii 論文 - 野幌森林公園地域におけるアライグマの行動圏
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 小宮将大,菅野泰弘,澤田誠吾,金森弘樹(2019)島根県におけるアライグマの生息実態Ⅱ.島根県中山間地域研究センター研究報告第15号別刷
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
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目次
1. はじめに
2. 方法
3. 結果
4. 考察
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1. はじめに
・ニッチ分割は同じ生息地で競争を減らし,共存するためのメカニズム
・しかし時間スケール的に在来種と外来種の間ではニッチ分割は発生しない
※ニッチ分割(=共存)するまえに競合排除されてしまう.これが外来種の問題.
・アライグマとタヌキは近い生態的地位を持つ
どちらも日和見主義的雑食( opportunistic omnivores)...果実や種,地上徘徊性昆虫,小型哺乳類
→しかし定量的な評価はあまりされていない
・中型肉食獣などの研究は森林タイプや特定の資源にのみ着目しがち
but生息地利用を見るなら異なる空間スケールでも見るべき
・今回はアライグマとタヌキの関係を見るために餌資源,水資源,植生,森林構造などにフォーカス
2. 方法
◎調査地
北海道(以下略)
◎カメラ調査(冬に活性下がるので,春~秋に実施)
・800m間隔で8×5の40地点にカメラ設置
・地上1.2mに下方向30°(3-5日おきに向きを変更)
・複数頭撮影されたら複数頭カウント
◎周辺環境調査(ミクロ)
・下層植生調査
維管束植物・シダ植物・矮性低木・裸地の被度(%)
低木密度を3段階評価
・立木調査
種・DBH(胸高直径)・胸高断面積
広葉樹・針葉樹の数
大径木(DBH=32cm+)の数
ぶどうなどつる植物(vine)の有無(タヌキが果実を食べている)
・甲虫調査
ピットホールトラップを8月9月に設置
8月:2ヵ所(5mおき5夜)
9月:5ヵ所(1mおき交差形3夜)
地上徘徊性甲虫のみカウント
甲虫は科ごとに集計し個体数カウント
乾燥重量を計量
◎周辺環境調査(マクロ)=景観スケール
・水からの距離測定
・7つの森林タイプに分類
Ⅰ:樹高10m以下の単層広葉樹林
Ⅱ:樹高10m以上の単層広葉樹林
Ⅲ:樹齢10年以下の疎(sparse)な森林(複層樹林から成立)
Ⅳ:樹齢10年以下の密(dense)な森林(単層樹林から成立)
Ⅴ:10年以上管理されている複層林
P:針葉樹林
O:空地(道や草原など)
・先述の8×5の40地点を中心に半径400m円
→含まれる森林タイプを解析(%)
3. 結果
◎カメラ調査
・撮影頻度はタヌキが有意に高かった
・撮影地点数は両種に有意差なし
両種とも撮影 27 ......両種とも撮影された場所で撮れ高に有意差なし
タヌキのみ撮影 8
アライグマのみ撮影 2
・アライグマは夜ばっかり活動(94.4%)
・タヌキは夜(73.5%)も昼も活動(26.5%)
◎生息地利用(ミクロ)...撮影頻度を応答変数,各環境要因を説明変数としてGLM
・GLM解析によると6つの環境要因が最適モデルに含まれた.
アライグマ,タヌキともシダの被覆と正の相関があるみたい
・木の数や幹の断面積はモデルに選択されるも有意差なし
・その他の環境要因の好みはアライグマとタヌキで異なる
アライグマ:その他植物と正の相関,矮小低木と針葉樹の数に負の相関
タヌキ :つる植物の存在と正の相関,低木密度と負の相関
・甲虫の利用可能性は選択されず
◎生息地利用(マクロ)...撮影頻度を応答変数,各環境要因を説明変数としてGLM
・アライグマの最適モデルには2つの環境要因が選択
そのうち,Ⅳ(若齢藪)と負の相関
・タヌキの最適モデルには5つの環境要因が選択
そのうちⅤ(管理森林),P(針葉樹林)と正の相関
そのうち400m以内の森林の数と負の相関
・水からの距離は選択されず
4. 考察
◎環境要因との関係
・アライグマ・タヌキともにシダと正の相関あり
→①タヌキはシダを食べるらしい
②シダは湿地好む...餌となる両生類や無脊椎動物が豊富
※これは②の方が説得力ありそう.シダそのものと因果があるんじゃなくて,餌資源を間に挟んだ疑似相関っぽいよね.
※とはいえ,どちらも水の距離と相関が出なかったのはちょっと気になる.
・アライグマとタヌキで,異なる空間スケールにおいて異なる反応を見せる
アライグマはミクロな環境要因から大きな影響を受ける
←→タヌキはマクロな環境要因から大きな影響を受ける
・アライグマとタヌキの行動圏の広さに起因?
アライグマ:生息地広い(複数のコアエリア)
タヌキ :生息地狭い(ひとつのコアエリア)
※これはどういう解釈だろう?アライグマの方が行動圏広いならマクロな環境要因から影響うけそうな気もする?
※アライグマは行動圏広いから,色んな環境(マクロなスケール)を内包していて,その中で好適な場所(ミクロなスケール)を選べるとか?
◎活動時間の違い
アライグマ:夜に行動
タヌキ :夜にも昼にも行動
→外来種と在来種の関係で,時間的にすみわけされるものがある
ex. 北米のアライグマ(北米では在来種)とオポッサム(北米では外来種)は行動圏・利用資源がかなり被っている
but活動の時間帯が異なる
・ただし,アライグマがいない地域でもタヌキは日中に行動している.
→この地域で,外来種の影響で時間的すみわけが生じているとは言えない
◎競合について
・この地域のアライグマとタヌキの個体数はほぼ同じくらい.
・今回はそれぞれのカメラごとに撮影頻度の負の相関は見られなかった
・もし競争や(局所)絶滅が起こっていたら撮影頻度とかに有意な負の相関が出るはず(Hallett et al. 1983など)
・アライグマとタヌキはほとんど出会わないし,喧嘩みたいになっても明確な序列はない(揚妻-柳原 2004)
・餌資源の競合も少ない?
※それぞれの密度にもよるけど,競合が少ないって報告は興味深い.直接の競合・序列の話をしているらしい揚妻-柳原(2004)も読んでみたいね.
愛知県におけるアライグマ野生化の過程と今後の対策のあり方について
◎まとめ
今回の研究からはアライグマとタヌキの利用環境が異なることが示唆された.
→タヌキの保全やアライグマの防除には生息地管理が重要かもしれない.
※アライグマ管理において捕獲が重視されるなかで(もちろんそれもそう),生息地管理の重要性の指摘はとても興味深いね!!
※ただし,そもそもカメラ30台くらいで統計まわしていいのかはちょっとわからない...感覚的にnが少ない気がするけど,どれくらいあれば十分なんだろう?
以上
2020.12.19執筆