アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

レビュー:アライグマの行動圏とその空間配置(倉島・庭瀬,1998)-前編-

倉島治,庭瀬奈穂美.1998.

北海道恵庭市帰化したアライグマの行動圏(Procyon lotor)とその空間配置.

哺乳類科学38(1):9-22

のレビューです.

1998年と古い論文だけど,読んだとき「これはすごい!!」と思った.あんまり引用はされてないようだけど,なぜだろうか...掲載誌もデータ数もいいと思うんだけどな...

小生は好きよ.

 

本編はこちら↓

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/38/1/38_1_9/_article/-char/ja

 

アライグマに発信機つけて行動圏を調べるというもの.似た研究は池田ほか(2001)があるが,こっちは以下の特徴がある.

・個体数が多い

・取得したポイントの数が多い

・個体間作用についても述べている

・ただし昼間しか測位していない(池田ほか(2001)は24h or 夜の測位)

 

今回は

前編:行動圏の季節変動などシンプルな内容

後編:行動圏の重なりなどからわかる個体間の関係について

とわけてまとめる.

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図1. 季節別の行動圏面積の変動(全個体,論文を基にブログ筆者が作成)

赤字は個人的なメモや考えたこと.

 

前編はざっくりいうと

・行動圏は冬<<夏

・ただし変動の幅や面積そのものは個体差が大きい

・低密度地域の方が行動圏面積大きいかも

という内容.行動圏面積とか夏の方が大きいっていうのは定説通りだけど,それをちゃんと示した日本語論文としてはこれが一番なんじゃないかと思う.

地域の成獣全部捕獲して調べたっていうのもすごい.個体間相互作用について述べた後半も楽しみ!!

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目次

1. 方法(前編後編共通)

2. 結果-基本データ-(前編後編共通)

3. 結果-行動圏季節変動等-

4. 考察

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1. 方法(前編後編共通)

◎調査地:北海道恵庭市 55.6 km^2
◎捕獲:1993年9-12月に捕獲
◎測位:1993年9月-1994年10月の415日間,09:30-15:00に1回測位.八木アンテナを用いる.
日中の測位なので,測位点はレスティングサイト(休息地)と呼ぶ.
◎行動圏:レスティングサイトを100m単位グリッドでプロット→最外郭法
これまでの予備観察から,レスティングサイトの空間分布はアライグマの行動圏を示すのに十分と判断

※「レスティングサイトの空間分布はアライグマの行動圏を示すのに十分と判断」とのことだが,その根拠となる予備観察っていうのが気になる.夜行性のアライグマに対して,昼の休息地の配置を行動圏とするのは過小評価しそうな気がするけど...?

 

2. 結果-基本データ-(前編後編共通)

◎捕獲
・23頭捕獲(オス:11,メス:12)
・うち成獣オス:6(M1-M6),成獣メス:7(F1-F7)に発信機装着

・捕獲期後半は発信機つけたやつ以外の成獣はかからない→全個体につけたと仮定
・M3は右前肢欠損→分析から除外
・M6は発信機故障→分析から除外

※書き方的に断定はできないけど,捕獲した23頭のうちすべての成獣に発信機つけたんだと思う.

 

◎行動圏
・有意な季節変動あり→冬期(12-3月)・夏期(4-11月)にわける

詳細は表1のとおり.

 

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表1. 調査結果(https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/38/1/38_1_9/_article/-char/ja)

3. 結果-行動圏季節変動等-

◎各個体の行動圏季節変動
夏期のほうが冬期より有意に大きい(p=0.0128)

※図1は全個体をプールした季節変動の箱ひげ図だけど,これだけみてもやっぱ夏の方が行動圏広いって感じがするね.

 

◎雌雄間の行動圏
地区別,季節別に有意差なし

※これは意外.行動圏はオスが広く,メスが狭いという印象だったし,低説もそうだと思う.これだと浅田(2013)の遅滞相管理の前提(オスの行動圏は広い→侵入初期はオスばっかり)が崩れるのではないか?

cf.浅田(2013)アライグマの遅滞相管理

https://satoyaman-raccoon.hatenablog.com/entry/2020/04/24/%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%3A%E3%80%8E%E3%83%8B%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AB%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%9E%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B

 

◎個体間の行動圏
個体差が大きい(図2)

 

◎行動圏の空間分布
アライグマの配置状況から以下の3つに地域を分ける(表2)
・牧場地区:侵入開始地点→比較的高密度か
・漁川上流域:次に侵入か→比較的中密度か
・漁川周辺以外の地区:最後に侵入か→比較的低密度か
これらは農耕地や人為的建造物の分布と量に差がある.

 

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表2. 地区別利用個体(論文をもとにブログ作者が作成)

 

雌雄別に地域別行動圏面積を見ると
「牧場地区のみ」<「牧場地区と漁川上流域」<「漁川上流域のみ」<「漁川周辺以外の地区」
となる.
→定性的ではあるが,生息密度(Sandell,1989)やの農作物・人為的建造物の分布・量の差が行動圏面積と関連していることが示唆された.

※生息密度と行動圏面積に関係があるのは面白い(当たり前かな?).でも統計的な有意差は求めなかったのかな?

※感覚的に,この地域の生息密度は多少の差こそあれ全体として「低密度」に分類される気がするがどうなんだろう?

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図2. 各個体の行動圏面積の変動(論文をもとにブログ作者が作成)

赤は夏の方が行動圏が広いことを,青は冬の方が行動圏が広いことを示す.

※行動圏の広さも季節感変動も個体差が大きいことがわかる.

※たしかにオスでいうと

牧場地区のみ(M1,M2)<牧場地区・上流(M5)<上流(M4)

メスでいうと

牧場地区のみ(F1,F2)<上流(F3,F5,F6,F7)<漁川以外(F4)

って感じがする.一方で,"地域別"と"季節別"の雌雄差は有意でないとしているのに,ここの解釈だけ雌雄分けていいのかな?とは思う.

※論文をもとに私が作成したグラフ,センスないな...って気がするけど,許して

 

4. 考察

◎行動圏面積は季節で有意差

→個体間の配置を考えると(後編),個体間相互作用っていいうよりは気温が聞いてそう.

 

◎北米では,アライグマの半冬眠(-4℃以下で活動低下)が確認されている. 

そして,本調査地でも冬期のほとんどが-4℃以下

→北海道でも半冬眠してる!?

※-4℃に全然ならない関東以南のアライグマは,行動圏面積はどう変動するのだろうか?

 

以上