【レビュー】島根のアライグマ生息実態-生態,専用罠,GPS,探索犬-
小宮将大,菅野泰弘,澤田誠吾,金森弘樹(2019)島根県におけるアライグマの生息実態Ⅱ.島根県中山間地域研究センター研究報告第15号別刷
のレビューです.
本編はこちらから↓
cf. 小宮将大,菅野泰弘,澤田誠吾,金森弘樹(2019)島根県におけるアライグマの生息実態Ⅱ.島根県中山間地域研究センター研究報告第15号別刷
これは生態研究から,罠の開発,GPS追跡による行動圏・生息環境調査,アライグマ探索犬といった,アライグマ界隈激アツトピック全部乗せ論文でっす!!
これはアツい!!もっと広く公表してくれ!!
アライグマ探索犬は2010-12年くらいに研究されているが,(たぶん)論文化されていない?(学会発表要旨はある)
だからこの報告は大変ありがたいね.
cf. 学会での発表要旨
アライグマ探索犬の訓練方法および活用に関する研究-探索試験の結果と探索の環境条件に関する考察-
いつも通り赤字は個人的感想です.
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目次
1. 生息調査
2. アライグマ専用捕獲器の開発
3. GPS追跡調査
4. アライグマ探索犬
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1. 生息調査
◎手法
捕獲データと捕獲個体を用いて以下を解析.
・全体的な捕獲傾向
・年齢査定520頭
・胃内容255頭
・妊娠率88頭
・ミトコンドリアDNA6頭
※ミトコンドリアDNAはあんまり興味ないので省略
◎結果と考察
・全体的な捕獲傾向
捕獲数は2014-15年度は200頭以上,2016年度減少傾向
益田市が捕獲数の82%
益田市での捕獲効率(CPUE)
2014年度:上昇
2015年度:上昇
2016年度:やや低下
2017年度:大きく低下
北海道と比較して2014-16で中密度,2017で低密度
2013-外来生物法による捕獲を開始したから?
※益田市,減少させたんか!!すごい!!アライグマ防除の数少ない成功事例では!?
※益田市,2015年度からCPUEが減少している.2015年から個体数が減少に転じたと考えると,そして50%以上の捕獲で個体数減少する(兵庫のデータ)ことを踏まえると,ここらへんの個体群は約320頭くらいなのかな?
※こうみると,捕獲防除で大事なのは個体数推定ではなくてCPUEなどの変動なんだなって改めて実感します.
・年齢査定
図3のとおり
※個体群の齢構成から,その個体群のトレンド(増えている?減っている?飽和している?)がわかりそうだね.そこはまだ勉強不足なので...
・胃内容
動物質:サワガニ・ヤゴ・カエル
植物質:ブドウ・トウモロコシ・カキ
春:動物質(カエル・ヤゴ・サワガニ)/植物質(ブドウ・トウモロコシ)
夏:動物↓,果実↑
秋:液果↑
冬:動物↑(サンプル少)
※春先から初夏にかけて動物質の採食が多いことがわかる.
※思ったより哺乳類の採食が多いな.詳細は書かれていないけど,これは生態系の動物相への影響も大きそうだぞ
・妊娠率
平均妊娠率
1歳 58%
2歳以上 82%
平均産仔数
1歳 4.04±0.50頭
2歳以上 4.60±0.12頭
※妊娠率80%以上で5頭近く生まれたら,そりゃ激増するわな...しかもイノシシと違って(イノシシも多産),幼獣の致死率低いらしいぞ.
2. アライグマ専用捕獲器の開発
◎手法
アライグマ専用捕獲器を2種類開発.
箱罠のトリガーを工夫.
縦型(縦長,トリガー上部)と引き型(横長,トリガー奥)
※たぶん縦長はラクーンキューブに,引き型は混獲防止トリガー付きアライグマ捕獲罠に近いと思う.しかし,そのどちらもあまり有効だって話は聞かないし,今回もあまりうまくいっていない印象...
cf. ラクーンキューブ
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 山崎ほか(2011)在来種の混獲防止トリガー付きアライグマ捕獲罠の有効性について.
茨城県自然博物館研究報告(14): 27-31
https://www.nat.museum.ibk.ed.jp/pdf/publications/2/3/kenkyu14_03.pdf
◎結果
縦型は捕獲0
引き型は捕獲1
しかし従来の踏み板式より捕獲効率は悪い
3. GPS追跡調査
◎手法
アライグマ5頭(オス2メス3)に首輪型GPS発信器装着
追跡期間は19-53日
測位間隔は30分
◎結果
表2の通り
水辺の選好性が強い
休息に空き家等を使う
※オスとメスで行動圏面積はっきり差が出ているね.
※GPS追跡といえば↓の論文(さとやまん調べ).古い論文だけど,これによると夏のオスでも1.5-5.1 km^2となっていてだいぶ差がある.90%カーネルだからかな?↓の論文はカーネルで行動圏推定はしていないから...
※↓の論文では「オスは広くオス同士排他的,オス行動圏は複数のメス行動圏を含む」とある(後編で書く予定).今回のオスとメスの広さや配置の違いは,↓を支持しているかもね.
※北米や北海道など寒い地域のアライグマは行動圏面積が季節で大きく変化していることが知られている.この調査でもそこ突っ込んでほしかったところはあるなー.パッと見て季節変化より性差の方が大きそうだけども...
cf. アライグマのGPS追跡の論文レビュー
レビュー:アライグマの行動圏とその空間配置(倉島・庭瀬,1998)-前編- - アライグマ備忘録
※この論文では,個体ごとの生息地選択については述べる一方,全体としての生息地選択についてはあまり述べられていなかった.そして,パッと見,全体で共通する特徴はあんまり見られない.やはり個体差が大きそうだ...
※広葉樹林は休息しがち?
※考察では水辺が好きって言ってたけど,このデータからそれは言えるんか??
4. アライグマ探索犬
◎手法
アライグマ探索犬として紀州犬1頭導入
・服従行動6ヶ月
・アライグマ臭気判別.臭気追跡10ヶ月
・臭気判別:アライグマの臭い,タヌキの臭い,なにもなし を判別
・臭気追跡:臭気をつけたルートを設定しトレース練習
↓
2018.4.1.-2018.10.30
・探索犬導入区 :探索犬に獣道発見させる→箱罠
vs
・探索犬非導入区:従来通り普通にかける
◎結果
探索犬導入区 :1.55 頭/100 日・台
探索犬非導入区:1.44 頭/100 日・台
あまり変わらない
1頭の導入に約100万円かかる,専門家が必要 などの課題
※結果が出なかったのは残念
※でも,アライグマ探索犬の真価は,アライグマ低密度地域で発揮されるはず.アライグマが低密度になって箱罠で錯誤捕獲ばっかり,捕獲従事者のモチベ低下した地域でこそその専門性が輝くんだと思う.この報告では,調査地の情報が一切なかった.低密度地域でやったのかな?そこは結構大事になってくるんじゃないか??
以上