【まとめ】アライグマのアオサギコロニーに対する影響
アライグマが生態系に与える影響として,アオサギへの影響が有名である.これは,アライグマがアオサギのコロニーを襲撃,親鳥は営巣放棄するというもの(池田,1999b).しかし,知人と話していて,この影響に関してはもっとちゃんとした調査が必要だと感じた.
結論をいうと,私の考えは
・池田(1999a,1999b)は生態系への被害を立証する論文としてはデータ不十分ではないか?
・でも,アオサギへの被害があるのは確実(卵捕食もほぼ確であるでしょうね)
である.
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目次
1. アオサギへの影響を示した3本の論文
1.1. 池田透(1999a)野幌森林公園におけるアライグマ問題について
1.2. 門崎允昭 李宗鴻(1999)野幌森林公園でのアライグマによるアオサギ駆逐
1.3. 池田透(1999b)野幌森林公園におけるアライグマ問題について
1.4. 個人的なまとめ
2. 論文以外の報告
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1. アオサギへの影響を示した3本の論文
アライグマのアオサギへの影響を示した論文は以下の3本ある(もっとあるかもしれないけど見つからなかった).いずれもJ-stageとかにはないので,図書館で複写してもらったりするといいでしょう(2020.8.20.現在).
池田透(1999a)野幌森林公園におけるアライグマ問題について.森林保護;269:2-3
門崎允昭 李宗鴻(1999)野幌森林公園でのアライグマによるアオサギ駆逐.森林保護;271:23-24
池田透(1999b)野幌森林公園におけるアライグマ問題について.森林保護;272:28-29
以後の論文で引用されているのは池田(1999b)がほとんどかな.
①まず最初に池田(1999a)が最初にアライグマのアオサギコロニーへの影響を示して,
②門崎・李(1999)がデータとともに痕跡の解釈を批判,
③池田(1999b)が先行研究とともに反論
というかんじで一連の流れになっている.
1.1. 池田透(1999a)野幌森林公園におけるアライグマ問題について
アライグマの影響でアオサギがコロニーを放棄する事態を報告したのは池田(1999)である.この論文は,アライグマの生態系への影響を示したものとしてたびたび引用されているように思える.
一方で,この論文で示したアオサギに関する記述は極めて少ない.
「野幌森林公園では,営巣中のアオサギがアライグマによって卵を食べられ,営巣地を放棄するという事態が生じた.」の一文のみである.
アライグマによる卵の捕食を目視されたのか,痕跡による断定なのかについては何も書かれていない.
1.2. 門崎允昭 李宗鴻(1999)野幌森林公園でのアライグマによるアオサギ駆逐
これにたいして門崎ほか(1999)は,調査結果とともに池田(1999)とはちょっと別の見解を示している.
門崎ほか(1999)によると,アオサギの営巣状況は以下の通り.
1994 64巣
1995 42巣
1996 0巣(営巣どころか1羽もいない)
1997 駆逐事件(後述)
一方で,アライグマの分布については以下の通り.
1992 初確認
1995 公園ほぼ全域に分布
ここで,1997駆逐事件について,門崎さんたちの目視調査の結果が示されている.
1997年
4/11 数百コロニーにいた
4/30 営巣個体0+飛んでるの数羽(普通渡去するのは8月)
5/1 営巣個体0+飛んでいるの0
営巣木を確認
→ある1本にアライグマの新鮮な爪痕 but 8mより上にはついていない
+たしかに卵の殻が散乱していたが新鮮じゃない
これらから門崎ほか(1999)は
「アオサギが営巣を放棄したのはアライグマが営巣木に登ったことが原因」
とみるのが妥当だろうとしている.
池田さんが確認したのが6/6らしいので,「捕食したところを見たのか?」と疑問視しているかんじ.
とはいえ,どうやら池田さんの説の詳細は北海道に提出した報告書『野幌森林公園アオサギ営巣地におけるアライグマの影響について』に書いてあるらしいので,諸々わからん.
1.3. 池田透(1999b)野幌森林公園におけるアライグマ問題について
この門崎さんらの批判に対して,反論した論文が池田(1999b)である.
門崎・李(1999)は「卵が捕食された証拠がない」と指摘したが,池田(1999b)では海外の先行研究から「たしかに卵が捕食された直接的な証拠はない」としたうえで,生態や海外事例からみるに卵が捕食されたと推測することは妥当だとしている.
池田(1999b)では,食卵の文献として以下をあげている.
Greenwood,R.J.(1981)Foods of prairie raccoons during the waterfowl nesting season.J.Wildl.Manage.;45:754-760
Hartman,L.H.,A.J.Gaston and D.S.Eastman. 1997.Raccoon predation on ancient murrelets on East Limestone, British Columbia.J.Wildl.Manage.;61:377-388
Jobin,B. and J.Picman(1997).Factors Affecting Predation on Artificial Nests in Marshes.J.Wildl.Manage.;61:791-800
Urban,D.(1970).Raccoon Populations, Movement Patterns, and Predation on a Managed Waterfowl Marsh.J.Wildl.Manage.;34:372-382
Whitney,L.F. and A.B.Underwood(1952)The Raccoon. Practical Science Publishing Company.Orange, 177pp
すなわち,まとめると以下のようになる
・直接的な証拠はない(門崎さんらの指摘)
but
・生態的に卵を捕食することは十分あり得る(十分な文献)
・そして(新しくないにしろ)卵の殻が散乱していた(池田さん,門崎さん双方確認)
so
・「アライグマが営巣木に積極的にアプローチした過程で卵を捕食した」という推測に無理はない
1.4. 個人的なまとめ
正直,どの論文も定量的なデータがほとんど提示されていないため,現場を見てない我々にはどっちが正しいかわからない.
しかし,一番本質的な「アライグマがアオサギのコロニー放棄の原因である」という部分は共有している.となれば,「卵の捕食が原因か?木登りそのものが原因で卵の捕食はしてないか?」という部分は生態系への影響を考えるうえでそこまで重要ではないのではないかと思う.門崎・李(1999)はアライグマの定着とアオサギのコロニー放棄の経緯が詳細に記されているので,アオサギへの影響を引用するときは門崎・李(1999)と池田(1999b)の両方使ったほうがいいのかなとも思う.
そのうえで,卵の捕食については,池田(1999b)のとおり十分あり得るだろうと思う.当時の野幌森林公園であったかどうかは知らんが,後述の写真なども見るに食われているだろうなとは思う.
一方で,門崎・李(1999)による,立証できていない事象を論文で断言調で扱った点への批判は妥当だとも思う.
この一連の論文で池田(1999a,1999b)と門崎・李(1999)では「おわりに」でのアライグマ対策への方向性の違いも見て取れる.
すなわち,(これ以上外来種を増やさないのは前提として共有しつつ)
池田(1999a,1999b) : 生態系の攪乱の恐れがあるので排除すべき
門崎・李(1999) : 犬の放し飼いなどで距離を取りつつ共生すべき
としている.
2020年現在では,アライグマ対策は捕獲排除が定説であるし,ペットの放し飼いも不適切とされている.1999年当時,まだアライグマ対策の方針がたっていなかった様子や現在と価値観が大きく違う様子などが見て取れるのが面白い.
また,池田さんが現在外来種対策の専門家である一方で,門崎さんは熊森協会幹部であるという,思想と立場の違いもはっきり見れるのも興味深い.
2. 論文以外の報告
論文以外でも,アライグマ→アオサギコロニーへのアタックの様子は記録されている.
掲示板(?)『アオサギを議論するページ』ではアオサギの巣にドッカリ座り込んだ瞬間が激写されている!!こりゃ卵も捕食されるよなぁ
https://www.grey-heron.net/forum/12-raccoon/
以上.