原産国でのアライグマ食性(Kaufman 1982)
[英論レビュー]
Kaufman(1982)Raccoon and Allies.
"Wild Mammals of North America"(Champman and Feldhamer)
やっぱアライグマのこと勉強するなら,原産国の豊富な知見にも触れておかなくては.ということで,北米のアライグマについて洋書を読んでみた.
北米の野生動物について書いた「Wild Mammals of North America」のアライグマの章です.(2003年に改訂版出てたけど,間違って1982年版を読んでしまった...)
友人と輪読したので,本備忘録では自分の担当ページ「食性」について.日本の研究結果とも比べてみよう.
赤字は自分の補足です.
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目次
1. 餌資源ごとの傾向
1.1. 植物性餌資源
1.2. 動物性餌資源
2. 季節ごとの傾向
2.1. 春
2.2. 夏
2.3. 秋
2.4. 冬
2.5. 通年
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食性の研究を統括すると,2つの報告に大別される.すなわち,
・「アライグマは日和見主義的雑食である」
=その場にあるものを食う,選好性は低い,地域差や季節変動が大きい.
・「ほとんどの生息地では,アライグマの食物において植物は動物よりも重要である」
※日本では(or現在では)日和見主義的雑食という見方が強いよね.
1. 餌資源ごとの傾向
1.1. 植物性餌資源
・多肉果
ノブドウ(Vitis spp.),チェリー(Prunus spp.),リンゴ(Malus spp.),カキ(Diospyros spp.),ベリー全種
・堅果
・その他(草本の種,芽,菌類,芝などのその他草本)などを利用
1.2. 動物性餌資源
※ザリガニは日本でもかなり広まってる.これはどっちも対処する必要があるね.
・昆虫類(コオロギ類,甲虫,毛虫,膜翅類)
・その他(カニ,エビ,カキ,ムラサキイガイ,棘皮動物,海洋環形動物,カタツムリ,ナメクジ,ミミズ)
・げっ歯類
・ウサギ
・鳥類...スズメとか少し,怪我した水鳥など
たまに鳥が自分用に取った獲物をアライグマに落としてしまう(落としたのをアライグマが食う?)場合も.コミミズクとか.
鳥の卵を食う例,ノスリの巣(樹上15m)を強奪する事例も.
※日本では北海道でアオサギの巣を襲った報告がある.それでアオサギが営巣放棄してしまったとか.
cf. 【まとめ】アライグマのアオサギコロニーに対する影響
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
・爬虫類 両生類
あまり食べない.カメ(特に卵)は地域によっては食べることも.ヘビは少しは食う.
※日本で言うと大分での奮闘が有名かも?
cf. おおいた環境保全フォーラム
http://www9.plala.or.jp/kei_uchida/
ここはウミガメのための環境保全とアライグマ防除を両方やっているアツそうな団体!!
噂によると大分市は神奈川県三浦半島,兵庫県丹波篠山市と並んでアライグマ防除が進んでいる地域らしい.報告書についてはこちら.
cf.おおいた環境保全フォーラム.2019.大分県北西部アライグマ防除推進業務報告書
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 大分で活動されている方のブログ
カエル,サンショウウオを食う例は少ない.
※日本の報告とはかなり違うね.日本ではカエルやサンショウウオへの影響がかなり大きいとされている.レビューとしてはこの報告書がいいのかな?
・魚類
魚は少数だが頻繁に捕食する.また,水辺が乾いて捕りやすくなるときは一時的に重要な餌資源となる
・死肉やごみなども
2. 季節ごとの変動
2.1. 春
動物質>植物質(1年で動物質餌資源利用の方が多いのは春だけ)ザリガニ,昆虫,小さい脊椎動物堅果類は他の餌資源が利用可能になる前の春先では重要な餌資源となる.
※アイオワの一部地域では春の食性のほとんどを穀物が占める(Giles 1940;Cabalka et al. 1953)
※これは島根の先行研究でも似た傾向がみられているね.
cf. 小宮ほか(2019)島根県におけるアライグマの生息実態Ⅱ.島根県中山間地域研究センター研究報告15
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
図.島根で利用された餌資源の季節変動(小宮ほか 2018)
2.2. 夏
主に果実を採食一部の地域ではトウモロコシが重要な餌資源である.動物質餌資源で最も重要なのはザリガニ,次いで昆虫,小さい脊椎動物.
※ミシガンの一地域で夏の食性の59%がザリガニ(Dearborn 1932)
※ワシントン海岸ではほとんど海洋性無脊椎動物(Tyson 1950)
※ウィルコンシンの湿地ではマスクラットとザリガニ(Dorney 1954)
2.3. 秋
植物(特に果実と堅果)>動物質餌資源
※湿地において引き続きザリガニや魚などの動物質餌資源が重要という報告も(Dorney 1954)
※1000-2000の怪我をしたガチョウが食性のほとんどを占めていると報告も(Yeager and Elder 1945).
※これも島根と同様の傾向
2.4. 冬
堅果類が最も重要な餌資源.+小さいトウモロコシや残った果実で補っている
無脊椎動物や小さい脊椎動物の多様性もまた冬に重要.怪我した水鳥や捕らえられたマスクラットも,特に冬の湿地では捕食する.
2.5. 通年
ほとんどの研究が植物質餌資源の方が動物質餌資源より重要であると報告している.
いくつか反対意見も(Dorney 1954,Grinnell et al.1937)
ということで,原産国のアライグマの食性でした!!
おおむね傾向は日本同様
・基本的に植物質の方が多い
・ただし春には動物質が多い
また,日本でも確認されている樹上の鳥の巣襲撃やカメの卵捕食といった事例は原産国でも見られているのが興味深い.
一方で,カエルやサンショウウオはあっちではほとんど食べられていないそう.
これは興味深いね.日本と北米の差?それとも文献が古いから?
興味深い!!
2021.2.23執筆