武蔵野アライグマ #3調査報告②-爪痕調査(東大和市)-
~前回までのあらすじ~
武蔵野におけるアライグマの生息状況を調べようと思った.
先行研究をざっとあたると,埼玉では報告が多い一方,東京での報告は少ない.
埼玉の報告や埼玉・東京の捕獲数をみると狭山丘陵周辺に多く生息してそう.
そこで,特に報告が少ない狭山丘陵西端の東村山で爪痕調査を行った.その結果,東村山の寺社仏閣には爪痕が少ないことがわかった.
東村山市は生息報告が少なく,爪痕も少ない.これは整合性の取れた結果といえそう.
しかし,爪痕調査は地域によってはあんまり参考にならないこともあるらしい(めっちゃ生息しているのに爪痕はない事例あり).
cf. 武蔵野アライグマ #2爪痕調査東村山編
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
...ということで今回は狭山丘陵南部本丸の東大和市を攻めようか.
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目次
1. 調査概要
2. 結果
3. 考察
4. どうなる狭山公園!?
5. 今後の予定
6. 謝辞
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1. 調査概要
今回,アライグマの生息を「浅く広く」調べる手法は「爪痕調査」.
これについては後日記事を書きます.
こちらが詳しいです↓.まとめるまではこちらをご参照.
簡単に言うと,木造の寺社仏閣をめぐり,柱につく爪痕を調査するというもの.
爪痕の様子でアライグマが来ているのかどうかがわかる.
アライグマ→5本の平行な爪痕
ハクビシン→4本の平行な爪痕(ネコも?)
様々な注意点はあるけど,それは後発の記事でこちらから.(2021.4.25追記)
cf. アライグマ爪痕調査
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
この手法は狭山丘陵北部の所沢市でも行われている(堀井ほか 2013).
前回は狭山丘陵西端の東村山市で行った.
今回は狭山丘陵南西の東大和市で行った.
調査は2021年3月12日に行った.
寺社仏閣は大小さまざまあるが,今回は昭文社MAPPLE都市地図に記載されているもの計14ヵ所を対象とした.
そして,ついでに狭山公園(+1神社)で散策したのだが...!?
2. 結果
結論から言うと...アライグマ爪痕たくさんあり!!
特に狭山丘陵に近いほど多い傾向にある気がする.
こちらがとある寺院の爪痕の写真.
この寺院では住職さんがアライグマを確認しており,糞尿被害に悩まれているとのこと.これは住み着いている可能性高いですね...
こちらはかなり密についた爪痕.すんごい登っている...
3. 考察
では今回の結果と,前回の結果,所沢市の先行研究(堀井ほか 2013)と比べてみよう.
cf. 武蔵野アライグマ #2爪痕調査東村山編
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 所沢市におけるアライグマ生息状況調査(堀井ほか 2013)
https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf
所沢市の結果の凡例は以下の通り
●:現在も侵入
○:過去に侵入
▲:現在も訪問
△:過去に訪問
□:痕跡なし
色は気にせず,印の形だけ注目して比較してほしい(本調査では訪問時期については評価していない).
いずれの地域でも狭山丘陵周辺で痕跡が多い傾向が見られる.狭山丘陵西端の多摩湖縁(東村山,東大和,所沢市境の黒丸)までアライグマの魔の手が伸びていることがわかる.
一方で,北西部に少し孤立して伸びる八国山緑地では痕跡が少ない.
これは多摩湖周辺に集中していて,まだその西部には広がっていない可能性を示唆する.
東村山では爪痕が少なく,正直言って手法そのものを怪しんでいた.
里山が好きで,畑や住宅街もイケるアライグマが狭山丘陵に面する東村山にいないわけない.それなのに痕跡が少ないとは...
しかし,今回の結果から,ちゃんと生息密度が高いところは爪痕残るとはっきり分かった.
これは逆説的に東村山のアライグマの生息密度が低いことを意味する("生息密度が低い"のと"生息していない"は意味が大違いなので要注意).
次に,植生データと重ねてみよう.
植生データは環境省自然環境センターが公開してくれている.
※住宅地は白地です.
やはり落葉広葉樹林に位置する(=狭山丘陵内の)寺社仏閣に爪痕が多い傾向にあるようだ.
一方で,住宅地や畑周辺では爪痕痕跡が少ない.
これは半分当然,半分意外だった.
たしかにアライグマは里山を好むとされているので,落葉広葉樹林に痕跡が多いのは納得.しかし,畑や住宅地にも進出できるorしていると思っていた.今回の爪痕調査ではその可能性は支持できなかった.
つづいて,捕獲頭数(2018)と重ね合わせてみてみよう.
これはメッシュごとの集計である.
捕獲が多い東大和・武蔵村山・所沢のメッシュでは,当然,痕跡が多い地点が複数見られた.
ただし,捕獲が全くない東大和一部・東村山のメッシュでも痕跡が多い地点が複数見られた.
捕獲頭数は捕獲努力量(どれだけの人が罠をかけたのか?など)に大きく左右されるため,捕獲に力を入れていない東京だとあんまりあてにならなそう.
4. どうなる狭山公園!?
帰りに狭山公園をお散歩.
北部の神社ではアライグマの痕跡が見られた.
そして水路では...
アズマヒキガエルの卵塊が!!
これはヤマアカガエルの卵塊のようだ.初めて見た!!
アライグマは在来種の捕食が大きな問題になっている.特に両生類は地域個体群がほぼ壊滅することもあるという.
アズマヒキガエルの捕食事例としては例えば松田(2004)などがある.
cf. 横浜自然観察の森におけるヤマアカガエルの卵塊数(2002-2004)(松田 2004)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrghsj1999/2004/2/2004_2_123/_pdf
ヤマアカガエルの捕食事例は金田(2008)など.
cf.外来生物アライグマ(Procyon lotor)がトウキョウサンショウウオ(Hinobius tokyoensis )等に与える影響(金田 2008)
http://kanto.env.go.jp/wildlife/mat/data/m_2_1/h19_houkokusho.pdf
↑85P
この報告では捕食だけでなく,その結果卵塊数が減ったことも報告している.
その他両生類の捕食事例は兵庫県森林動物研究センターが一覧にしてくれているよ.
cf. 兵庫ワイルドライフモノグラフ12号
つまり,狭山公園において
・アライグマが生息している
・アライグマに被害を受けやすいアズマヒキガエルが産卵している
ことがわかった.
本報告を警鐘としたい.
5. 今後の予定
今後も「報告少ない地域のアライグマ生息状況の把握」を進めていこうと思う.
具体的には3点.
①継続-東・南-
→清瀬や東久留米,小平など報告少ない地域を爪痕調査で「浅く広く」.今回の調査で,狭山丘陵南部に多そうだとわかった.報告数が少ない地域はまだ安全地帯?そういうわけではない?
②継続-西-
→西はもっと多いだろうな.狭山丘陵東端よりちょっと東では友人たちと11頭のアライグマを捕獲するなど,かなりのアライグマが生息している.武蔵村山でも爪痕調査をして狭山丘陵を一周調査したいね.
生息密度が明らかに違うなら爪痕調査の結果も差が出るはず!?
③より解像度の高い調査
→餌トラップ法による在不在調査,カメラトラップ調査など.
爪痕調査はあくまで指標のひとつ.こういうのは複数個の指標が必要.
そこでより新しくて検出力が高そうな(たんなる印象)餌トラップを使いたい!!そしてついでに餌トラップの性能も評価したい!!
ただ,餌トラップ設置許可がなかなか下りない...
cf. 餌トラップ法
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
調査やってみたいって人は連絡ください笑
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(中高生以上,中高生は保護者の許可を)
raccoon.memorandum☆gmail.com(☆を@にかえてね)
6. 謝辞
調査同行してくれた後輩3名に感謝とリスペクトを.
今回は調査企画者の自分が2時間遅刻するという大粗相かましました.
本気でごめんなさい.
何か感想,考察,疑問,議論等ございましたらコメントください.
2021.3.12.執筆
2021.4.25.追記