アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

アライグマ爪痕調査について

アライグマの生息状況確認方法としての爪痕調査のまとめ

 

アライグマが生息しているか否かについての確認方法はいくつかある.寺社仏閣等におけるアライグマの爪痕調査もそのひとつである.

 

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目次

1. 爪痕調査とその利点

2. 問題点

3. その他の手法

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1. 爪痕調査とその利点

アライグマは木を登る際に爪痕を残すことがある.この調査方法は木造建築の柱に残された爪痕を確認することでアライグマの訪問を評価する手法である.

図1はアライグマの爪痕である.このように5本の爪痕が残る(幅5 cm以上という見分け方も?).

似た痕跡としてはハクビシンの爪痕があるが,こちらの爪痕は4本で幅が5 cm未満らしい(戸田ほか 2011).

 

調査法は関西野生生物研究所HPに詳しい.

cf. 関西野生生物研究所HP

www.kansaiwildlife.com

 

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図1. アライグマの爪痕(東京都東村山市)とハクビシンの爪痕(千葉県柏市).

この調査手法は以下のような利点がある.

①専門的な技術が不要である点

②広範囲でデータが取得できる(我が国では寺社仏閣は広範囲に多数存在する)

 

この手法を用いた研究や報告は複数ある.

 

江成広斗,高田真朗(2019)平成30年度絶滅危惧種保全外来種防除対策事業(外来種侵入状況調査)報告書

https://www.pref.yamagata.jp/documents/2431/h30araigumahokokusho.pdf

 

堀井達夫,北浦恵美,横山伸夫(2014)所沢市におけるアライグマ生息状況調査.トトロのふるさと基金自然環境調査報告書11.11-14

https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf

 

川道美枝子,川道武男,金田正人,加藤卓也(2010)文化財等の木造建造物へのアライグマ侵入実態.京都歴史災害研究11.31-40

https://r-dmuch.jp/wp/assets/ja/results/disaster/dl_files/11go/11_3.pdf

 

川道美枝子,川道武男,山本憲一,八尋由佳,間恭子,金田正人,加藤卓也(2013)アライグマ侵入実態とその対策.畜産の研究67(6).633-641

https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852248.pdf

 

戸田春那,岡田奈々,高田安則(2011)栃木県における痕跡による外来生物の生息確認調査.野生鳥獣研究紀要37.43-48

栃木県/平成22年度野生鳥獣研究紀要第37号

 

その他学会での報告など複数

 

2.問題点

一方で,私はこの手法にはいくつかの問題があると感じている.

①検出力が評価されていない

②評価基準が客観性に欠ける

③時間スケール評価が不十分

④寺社仏閣の規模というバイアス

⑤獣種判別の不確かさ

 

それぞれについて.

①検出力が評価されていない

1-1 どれくらいいたらどれくらいの爪痕がつくの?

 これは一番の問題だと考えている.アライグマの生息密度と爪痕の多寡の関係は明らかになっていない.では爪痕の多寡ではなく有無を評価すればいいかというとそうでもない.すなわち爪痕がないからといって,アライグマが生息していない・訪問していない証拠にはならない.したがって,爪痕調査は在不在データとしても不十分な可能性がある.たとえば,私が年数頭捕獲している地点(繁殖も確認済み)から600 mの寺社仏閣では爪痕が確認できなかった.

 

1-2 周辺環境で爪痕の残り方は変わらないの?

 山林と街では環境が大きく異なる.そのため,カバー(隠れ場所など)の相対的価値は変わるので,生息地としての寺社仏閣の価値は変動する可能性がある.これを踏まえると爪痕の残り方は地域差が生じる可能性がある.

 

②評価基準が客観性に欠ける

 多くの報告書では,爪痕を5つの評価区分に分けている.すなわち,「現在侵入している可能性がある」,「現在侵入はしていないが訪問形跡はある」,「過去侵入していた可能性がある」,「過去侵入はしていないが訪問していた形跡はある」,「痕跡なし」である.侵入しているか否かは爪痕の多寡で決まるため,評価区分は多寡と時間スケールの2つの軸によるが,いずれも調査者の主観に基づくため客観性は十分ではない可能性がある.

 

③時間スケール評価に弱い

 爪痕は一度ついたら半永久的に残る.そのため,時間スケールの評価が難しい.多くの先行研究では最近か否かの評価にとどめている.

 

④寺社仏閣の規模というバイアス

 多くの先行研究では,先述の5つの区分を用いる.しかし,寺社には小さい祠しかないところから大きな建物が複数棟あるところまである.厳密に柱1本あたりの密度を算出しない限りは,このバイアスは除けないだろう.

 

⑤獣種判別の不確かさ

 似た痕跡を持つハクビシン(またはネコ)は先述の通り爪痕の本数で判別する(戸田ほか 2011).しかし,この根拠は検証不十分である.アライグマでも4本しかついていない可能性は十分にある.また,何度もひっかいた爪痕だと何本か判別するのが難しい.

 

以上から,爪痕調査は簡易で全国で適用可能であるが,その検出力は不確実な部分も多いため結果の扱いには気を付けるべきであろう(参考程度にとどめておくとか).

 

3. その他の方法

そのほか,被害対策で多く用いられる方法としてはカメラトラップ調査や目撃情報等のアンケート調査などがあげられる.

これについては環境省近畿地方環境事務所(2008)が詳しい.

 

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表1. その他アライグマ侵入確認手法とその長短(環境省近畿地方環境事務所 2008)

cf. 環境省近畿地方環境事務所(2008)近畿地方アライグマ防除の手引き

https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/racoon_kinki.pdf

 

個人的には餌トラップ法や足跡トラップ法の検出力が気になるね.

餌トラップ法についてはこちら.

cf. 餌トラップ法について

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

 

以上

2021.4.25執筆