総務省(2021)外来種対策の推進に関する政策評価 レビュー
総務省(2021)外来種対策の推進に関する政策評価 レビュー
レビューというか,元からめっちゃまとめられているので,結構抜粋になってしまうかも.
(2022/9/19閲覧)
#毎度ながら赤字斜体は筆者の意見です
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目次 ※目次は実際の報告書のそれとは異なります
1. 概要
2. 政策の整理:外来種全般
3. 政策の効果:外来種全般
4. アライグマに関する政策の評価
4.1 アライグマ政策の概要と評価
4.2 地方自治体の現状調査-環境省の生息分布調査の活用状況-
4.3 地方自治体の現状調査-市町村の対策-
4.4 外来生物法と鳥獣保護管理法を相互に活用した取組
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1. 概要
現在,外来種について様々な対策が講じられてきたが,その分析や評価はあまりされていない.
そこで総務省は現状を調査した.
その結果,
・ヒアリ対策が的確に講じられるため、現状の評価・検証
・アライグマ対策に必要な情報の提供の在り方についての検討
・アライグマ対策の実務における、適切な手段の選択を支援するための検討
が必要であるとわかった.
この政策評価ではヒアリ,アライグマ,オオキンケイギグ,セイヨウオオマルハナバチを対象としているが(本中間報告ではヒアリとアライグマ),今回はアライグマの部分のみレビューする.
評価対象とする政策は
・外来生物法
・生物多様性国家戦略 2012-2020
・外来種被害防止行動計画(なんだこれ知らんぞ,勉強します)
◎調査手法
関係省・都道府県・市町村・関係団体等を対象に各種取組の実施状況・国の各種取組の活用状況・関係機関の連携状況等について実地調査を行い,その実施状況や効果等を把握.
2. 政策の整理:外来種全般
ほぼ略.
基本的に日本の鳥獣は捕獲禁止.それが,外来生物法に基づいて,特別な捕獲(防除)が可能になる.
捕獲枠組みについて詳しくは↓
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
・行動計画・生態系被害防止外来種リストの策定
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で愛知目標の中では,侵略的外来種への対策が重要とされた.そこで,「生物多様性国家戦略2012-2020」では,愛知目標の達成に向けて,行動計画・生態系被害防止外来種リストを策定することとした.
●行動計画
目的: 国・地方公共団体・事業者等の多様な主体が連携した外来種対策総合的かつ効果的に推進し,我が国の生物多様性を保全すること
「国として実施すべき行動」
「個別の行動目標」
を定めている.
●生態系被害防止外来種リスト
429種の外来種を対策の方向性に応じて3つのカテゴリに分類
総合対策外来種:防除など総合的な対策が必要な外来種.アライグマとか.
産業管理外来種:産業・公益的役割において大事.ニジマスとか.
※『実践 野生動物管理学』でも解説されてあるよ.Must check it.
この外来種被害防止行動計画では「未定着」「侵入初期」「蔓延後」のそれぞれの段階について必要な対応とコストについて明記しているそう.
この計画をもとに総務省が作成した図がコチラ↓.
#最高では?
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
しかし,このリストに対して総務省はこう言う.
「同リストに掲載することのみでは,政府の外来種対策における当該生物種に対する基本的な考え方などが明らかにされているにとどまり,そのままでは飼養や取引などの活動に対する規制まではできないことになる。」
#たしかにね.
3. 政策の効果:外来種全般
以上をまとめると,これらの政策の目標は
外来種の導入防止・防除推進→特定外来生物などを制御・根絶することで生態系を保全すること
と言えよう.
しかし,総務省は指摘する.
実際に総合目標を掲げ,分析・評価をしている政策は奄美大島での「マングースの捕獲努力量あたりの捕獲数」のみ.
特定外来生物の防除については「適切な目標を定めて実施する」としているけど,目標や達成状況とかの情報はないじゃないか.
現状把握・今後の展望は各主体のニーズはあるだろうが,生物種ごとに対策がバラバラだから分析・評価が難しいのだろう.
4. アライグマに関する政策の評価
4.1 アライグマ政策の概要と評価
アライグマのカテゴリー
定着段階:分布拡大期~まん延期
行動計画: 優先的に防除を進めるべき外来種→国が効果的・効率的な防除手法の開発やモデル地域における防除体制の確立等を行い,成果をまとめて共有することで,各主体の防除を支援していく.
環境省の取り組みと成果
・行動計画に基づき,環境省は2018年に「平成 29 年度要注意鳥獣(クマ等)生息分布調査報告書」を公表.
#我々が無限回お世話になってるやつね
生息都道府県:35→44
生息分布5 kmメッシュは1388→3862(2.8倍)
捕獲数は右肩上がり.
農業被害額は2006年から2010年までで倍増.2010年以降は高止まり横ばい.
以上から総務省はこうまとめる.
アライグマ捕獲頭数は着実に増えており,その意味で『防除』の『除』は成果を上げているが,それによる被害の縮減にまではつながっておらず,分布の拡大を抑えることもできていない.
#…まぁそうですよね……
“『除』は成果を上げている”としてくれてはいるが,分布拡大抑えられていないので十分ではないんだろうな…(個体数推定ができない以上,捕獲数が十分かどうかはわからないものの)
なお,行動計画では,国の役割として,アライグマを含める優先的に防除を進めるべき外来種について
①防除手法の開発
②モデル地域における防除体制の確立
③マニュアルの作成等情報提供を通じて各主体の防除を「支援」すること
としている.
この役割と今回の調査をまとめると,課題は2つ
4.2 地方自治体の現状調査-環境省の生息分布調査の活用状況-
アライグマの分布情報(2018)は活用されているのか?30地方公共団体に聞いてみた
↓
活用している:1
活用していない:12
知らなかった:17
生息密度がわからないため活用が進まないのでは?という意見も
#知らない地方公共団体多いな...
#生息密度調査は結構労力がかかるが,防除にダイレクトに効くと思う.筆者的にはざっくりとした分布調査は国が,その上での生息密度調査は都道府県が担うのがちょうど良さそうに思うけど,どうだろう?
捕獲の法的枠組みには外来生物法と鳥獣保護管理法のふたつがある.
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
それぞれに基づく捕獲数は鳥獣統計としてオープンになっているが,↓のような意見もあった.
「他市町村における外来生物法に基づく捕獲頭数が分からないため、予算要求に際して、他市町村の取組と比較した説明が財政当局に対してできないので、環境省から市町村単位の情報を示してほしい」
一部の都道府県では,各市町村の捕獲頭数の情報について毎年度集約し、全市町村の情報をフィードバックしているらしい.
なお,鳥獣被害防止特措法使えば,特別交付税や補助事業による財政支援を受けることができる.
#予算要求の事情とか知らなかったから,こういう声を知れて良かった
4.3 地方自治体の現状調査-市町村の対策-
対策の詳細について,20市町村に聞いてみた.
なお,分布調査を踏まえて
侵入初期:2006年以降に分布した地域
定着・分布拡大:2006年以前に分布していた地域
と定義.
#2006年以降に分布した地域を侵入初期とするのはだいぶ情報が古い気がするが,仕方ないな…
その結果
侵入初期:9
定着・分布拡大:11
侵入初期の自治体の意見(#筆者抜粋)
・定着段階も判断できず,限定的な対策しかできていない
・市町村や都府県の境界をまたいで移動することから、市町村が単独で対策を実施しても効果は限られるため,国や都道府県が広域的な対策を主導してほしい
既に定着しているところでは,根絶は難しく,拡大阻止・被害低減が重要.
そのためには,具体的な防除の目標を設定することが大事だろう.
そこで定着・拡大期の11市町村に目標の設定状況を質問.
4市町村では,捕獲頭数の目標を設定していない.
なぜなら
・数値目標の根拠となるアライグマの生息数を把握できておらず,何頭捕獲すれば効果的なのかが判断できない
・数値目標を設定したとしても,捕獲頭数の把握だけでは目標を達成できたか否かが判断できないため,防除の取組の評価が難しい
#「何頭捕獲すれば効果的なのか」は研究者でも算出できないのでは
7市町村では,(外来生物法ではなく鳥獣保護管理法の)被害防止計画において,過去の捕獲実績をもとに捕獲頭数目標を設定
しかし,総務省はバッサリ斬る.
過去の捕獲実績をもとにしてたら生息数増減との関係は薄い.情報量として仕方ないけどね.
#総務省,鋭い…しかも,情報が少ない市町村の事情もわかってくれるの良いな.
4.4 外来生物法と鳥獣保護管理法を相互に活用した取組
アライグマが定着している地域では,捕獲圧を強化することが重要.
外来生物法の防除では狩猟免許を持たなくても捕獲できるなど,防除従事者の育成・確保が容易.
では,定着している11市町村ではどうか.
1市町村では外来生物法による防除は行っていない.「アライグマ以外の鳥獣にも対応できる被害防止計画の方が使いやすい」とのこと.
10市町村では防除の確認を受けていたが(防除の許可をとっている的な意味),実際防除として捕獲しているのは7市町村.やはり,アライグマ以外に適用できないため,有害鳥獣捕獲の方が使いやすいようだ.
総務省はこう言う.
外来生物対策としてのアライグマへの取組においては,その「優先的な防除」が実現すれば、捕獲の根拠法が何であるかを問うものではないとも考えられる.「アライグマの防除」という目的のために二つの仕組みが用意されている現状を踏まえれば,それぞれの効果,メリット・デメリットなどを整理して,評価し,二つの仕組みが相互に補い合い,防除の取組がより効果的に行われるよう,総合的な取組の方針を市町村に示すなど,実務における適切な手段の選択を支援する取組が有用であり検討すべきである
#わかる(わかる)
そして,総務省はこう続ける.
なお,このようなアプローチは,アライグマに限らず,外来生物法と鳥獣保護管理法の適用を受ける全ての外来種についての先例となり得ることを付言する.
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めちゃくちゃよい政策評価レポートだった…
最近やっと外来生物法とかわかってきて,でも問題点とかはあんまりわかってなかったから助かる.
やはり外来生物法と鳥獣保護管理法の使い分けが大事か…という感触.
個人的には,シカ・イノシシの計画の勉強をしようと思う.
シカやイノシシでは,とうとう2014年頃から個体数を減らすことができている.
こちらも改善点はあるだろうが,アライグマよりはだいぶ進んでいるといえそうだ.
そして,シカ・イノシシでも
第二種特定鳥獣管理計画:管理目的・都道府県
鳥獣被害防止計画:被害防止目的・市町村
の2種類の計画がある.
この計画の使い分けとか,都道府県・市町村の役割分担とか,アライグマに応用できないかな?
ご意見等,コメント募集します~
以上
2022.09.19