日本のアライグマの実態-捕獲数の傾向のまとめ-
日本のアライグマの実態-捕獲数の傾向のまとめ-
アライグマってどこにどれくらいいるの?毎年どれくらい増えているの?
これは全国民が気になるところだと思う.
たとえばシカだったら,
・2019年で個体数は約189万頭と推定(2021.3時点)
・2014年ごろにピークで現在は減少傾向,しかし1990年代よりははるかに多い
・生息域は東北や北陸を中心に拡大傾向
・農作物被害額は約53億円で,野生動物による被害約1/3
などなど,基本的な状況を統括できるが,アライグマの生息状況とかあんまりまとまっているの見たことないな,と思うわけです.
Cf. 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について(令和2年度)
環境省(https://www.env.go.jp/press/109239.html, 2021年8月15日確認)
でも,アライグマってなんか増えているとは聞くが,どの地域に多いのかとか,具体的にどれくらい増えているのかとか,あまり詳細情報見たことない気がする…
ということで,今回は日本全国の規模でざっくりアライグマの動向をまとめてみた.
1. 個体数
まず真っ先に知りたくなるのは個体数ではないか(少なくとも自分は,まず最初に何頭いるか知りたくなる).
実はこれ,全然わかっていない,
シカやイノシシは推定生息数がおおむね分かっている.
シカ:2019年で推定個体数は約189万頭,2014年ごろにピークで現在は減少傾向
イノシシ:2019年で推定個体数は約80万頭,2014年ごろにピークで現在は減少傾向
これらの情報がわかるのは,この2種は研究が進んでいて,データもたくさん蓄積されているから.
野生動物の個体数の推定は複数種類のデータを踏まえて考える.
たとえば,シカだと
・捕獲効率
・カメラに映った頭数
・糞の数
・目撃情報
などなど…
しかし,アライグマはこういうデータがかなり少ない.
集められていないっていうのもあるし,そもそも集めるのが難しいっていうのもある.
捕獲数はデータとして集めているものの,捕獲効率まで算出していない都道府県が多い.
(捕獲効率を算出するためにはわなを何日かけたか知る必要があるが,この情報をそもそもちゃんと集計していないところが多いんです).
そして,アライグマは痕跡が見つけにくい.
シカに比べて糞は見つけにくいし,イノシシのような掘り起こしの痕跡が見つかるわけでもない.
また,自動撮影カメラによる推定方法も確立していない(気に登ることを考慮するとより複雑になってしまう…).
また,捕獲個体にタグをつけて,再度捕獲する標識再捕獲法(高校生物参照)もあるけど,侵略的外来種を再放逐することは不適切…
そのため,「アライグマって何頭いるの?」の問いの答えはズバリ…
全っ然わからん!!
とはいえ,個体数推定方法の研究はある.
そのひとつが除去法だ.
cf.浅田(2014)とそのまとめ記事
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
これは,捕獲効率の変動から個体数を推定する.
どんどん捕獲して減らしていくにしたがって,だんだん捕獲しづらくなっていく.
その捕獲がどれくらいむずかしくなっていくかというデータから生息数を推定することができる.
ただ,先述の通り捕獲効率まで算出していない都道府県が多いなど,2014年の論文以降いまだ実用化はされていなそうだ…
2. 捕獲数
生息個体数も捕獲効率もわからないとなれば,あとは捕獲数を見るしかない.
ググってみると,都道府県単位でまとめたグラフはあるものの,全国規模でまとめたものはない.
一方で,鳥獣の捕獲数などは環境省が1998年度以降毎年公開している.
Cf. 鳥獣関係統計
環境省(https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs2.html, 2021年8月15日確認)
そこで今回,この統計資料20年分を頑張ってまとめたので見てほしい!!
今回のまとめた対象は狩猟,有害鳥獣捕獲,外来生物防除の3種類(有害鳥獣捕獲は都道府県ver.と環境省ver.があるので厳密には4種類).
学術捕獲などは対象外としました.
……このようになりました.
まずは地方別で捕獲数をまとめてみた.
(※沖縄県は捕獲数0)
全体として,捕獲数はかなり増加傾向で,2017年度には55,000頭を越しているね.
地域で見ると,北海道,関東,近畿が大きなシェアを誇る.
しかも,北海道,関東は特に増加傾向にある.
近畿や九州,中部も,北海道や関東ほどじゃないにしろ増加傾向にあるね.
最近は東北もだんだん増えているみたいだ.
一方で,北陸,中国,四国はほとんど増えていない.
もちろん地方ごとに面積が異なるので,安易に比較することはできないけど,おおまかな傾向は掴めた気がする.
北海道や関東は1年で15,000頭もとっているのに減っていないみたいだ…
続いて,捕獲区分ごとの捕獲数.
アライグマを捕獲するには許可が必要なのだが,その許可にはいくつか種類がある.
詳しくはこちらのまとめを↓
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
このグラフを見ると…
捕獲圧の主力は外来生物法にもとづく防除だとわかる(約70%).
ついで有害鳥獣捕獲(約28%).
そして,外来生物防除と有害鳥獣捕獲の双方が明確な増加傾向にあるね.
有害鳥獣捕獲は農業被害防止が目的だから,生態系被害の防止・軽減なども踏まえると限界があるんだよね…
cf. アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
そして,狩猟はいずれの年もシェアが小さく2%弱.
たまに「外来種対策として狩猟鳥獣にしよう!!」という言説もあるけど,狩猟が捕獲圧としてどの程度なのかは考えなくてはいけないね.
もちろん,狩猟の捕獲圧はその獣種の人気も影響するし,2%弱とはいえ年900頭以上捕獲されているので一定の効果はあると思うけど.
今回は捕獲数のまとめでした.
ただし,捕獲数という指標は必ずしも生息数を忠実に反映しているとは限らない.
生息数は変わらない(or減った)けど,めっちゃがんばったから捕獲数が増えたという可能性もある.
だからこそ,どれだけ頑張ってどれだけ捕獲されたかが大事.
また,捕獲の目標を立てるには,1度減らすことが大事.
減少傾向に転じてはじめて目標値の適切さが担保される.らしい.
以上まとめると,
・捕獲数めっちゃ増えてる!!
→もっともっと捕獲しなくては!!
・捕獲数だけでなくどれだけ頑張ったか(捕獲努力量)も集計して!!
ですかね.
以上.
2021.8.15執筆