【レビュー】『実践 野生動物管理学』(該当部分)
【レビュー】『実践 野生動物管理学』(該当部分)
野生動物管理(Wildlife management)の新作教科書『実践 野生動物管理学』を買いました!!
野生動物の本は色々あるけど,生態系保全や被害防除など管理についてまとめた教科書的な本ってなかなかない(めっちゃ高くて分厚いのはあるけど…).
そこで満を持して登場したのがこの本.
今年(2021年)の9月に発売された『実践 野生動物管理学』.
この本は鷲谷先生(里山とかで有名ですね)や梶先生(シカの超大御所)といった大御所メンツによって編纂された入門書.
数年前までは『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』がかなり網羅的かつ専門的でめっちゃよかったんだけど,いまや絶版.それに代わる教科書として本書が台頭したのかな.
cf. 『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』
絶版だからめっちゃ高くなっている…当初は3000-4000円でした.
ということで,今日は発売ソッコーで購入した『実践 野生動物管理学』の全体を通した感想と,旧教科書『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較,イノシシとアライグマ(外来哺乳類)の部分のレビューなどをまとめます.
なお,執筆時(2021.10.02)は発売直後のため,Amazonやセブンネットショッピングでは在庫がありませんでした.
自分は↓から購入したよ!!
実践野生動物管理学の通販/鷲谷 いづみ/梶 光一 - 紙の本:honto本の通販ストア
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目次
1. 全体を通した感想
2. 旧教科書『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較
3. レビュー:アライグマとイノシシ
-3.1. 10章 外来哺乳類の管理
-3.2. 5章 野生動物の基本生態と社会的課題-イノシシ-
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1. 全体を通した感想
・第一印象
第一印象としては…
「かなり広く網羅的にまとめられている!!」
「野生動物管理とは」からはじまり,「動物の生態」,「法整備」,「人材育成」などが続く.しかも,「感染症対策」や「個体数推定」など大事でありながらあまりしっかりは語られない(気がする?)内容までカバーしている.
・初学者向け
大学1年生や初めて学ぶ方を対象にしているのか,練習問題などがいっぱい載っている!!
たとえば,「○基の罠を△日設置して◇頭捕獲した時のCPUEを求めなさい」「なぜ近年シカが増加したのか説明しなさい」など.難しくはないけど,絶対押さえておきたい知識の確認ができるね.
・その分内容はちょっと簡単?
幅広い内容をカバーした一方で,内容は深くは突っ込んでいない印象.
これは後述のレビューにて触れるけども.
だから,既に学が進んでいる人には物足りないかもしれない.
一方で,偏食な自分としては得意獣種以外にかなり疎いので,必要最低限の知識をお得パックとして学べるのは大変ありがたい.
・さすが「実録」
「実録」と銘打っているだけあり,最新知見・具体的なデータが豊富.
今回の著者の半分以上が兵庫県立大学の先生方(個人的には,野生動物管理の聖地だと思っています笑).
cf. 兵庫県立大学・兵庫森林動物センター
そして,こういったデータの詳細は13巻にもわたる兵庫ワイルドライフモノグラフにまとめられていて,本書でも多数引用されている.
使い方としては『実録 野生動物管理』で流れをつかみつつ,興味持った内容を兵庫ワイルドライフモノグラフで詳細データ・考察で知識を深めるのいうのがいいかもね.
cf.兵庫ワイルドライフモノグラフ
2. 旧教科書『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較
今は単行本絶版となってしまった我がバイブル『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較をします.
『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』は2015年に野生度物管理に関して読みやすくまとめられた本で,管理の概念から大型獣の生態・軋轢まで網羅している本.
以下が比較表.
似た内容を同じ色でくくってみたよ(独断).
先述の通り,やはり『実践 野生動物管理』の方が広い内容をカバーしている(ピンクが『実践 野生動物管理』にのみ載っている内容).
シカ・イノシシ・クマに限らず,サルやアライグマなどまで言及しているし,感染症や個体数推定,資源管理も言及している.
一方で,『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』は「管理システム」と銘打っているだけあって海外とのシステムの比較が丁寧になされている.
3. レビュー:アライグマとイノシシ
本書は無料公開されている論文ではないので,ごく一部のざっくりとしたレビューにとどめます.
3.1. 10章 外来哺乳類の管理
本章ではアライグマなどの各種の説明は軽く済ませ,外来哺乳類(外来種)の定義や外来生物法などを丁寧に解説している.
外来種の定義から入り,外来種のカテゴリ(総合対策外来種,産業管理外来種,定着予防外来種),外来生物法,外来種の影響,外来種予防三原則,住民による管理体制など基本的な知識を丁寧に解説している.外来生物防除と有害鳥獣捕獲の違いとかも解説あり!!
その後,ヌートリア,アライグマ,ハクビシンの生態などをそれぞれ1ページ強でまとめている.アライグマ好きとしてはちょっと物足りないけど,本の趣旨的に仕方ないね…
あと,マングースの成功例についても学びたかった気はする(自分で学びます)
cf. 生態系被害防止外来種リスト
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/gairai_panf_a4.pdf
cf. 外来生物防除と有害鳥獣捕獲,狩猟の違い
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
3.2. 5章 野生動物の基本生態と社会的課題1-ニホンジカ・イノシシ(イノシシのみレビュー)
イノシシはアライグマとくらべて人身被害があったり,被害額が高かったりするため,かなり丁寧に書かれている.また,特に著者の先生方は兵庫でかなりのデータを集めているので,日本のデータに基づいた内容になっている.地域差が大きい&日本での研究が進んでいないイノシシで,日本の情報が得られるのは嬉しいね.
また,最新の情報も取り入れられている.
たとえば豚熱.2018年から広まったこの感染症は業界ではかなり問題となっているが,教科書に反映されるには時差が生じる.とうとう書籍の教科書でも触れられるようになったね.
また,2019年とかから顕著になった都市部への突発的出没なども触れられている.
自分が個人的に一番アツかったのは,初期死亡率の記述.従来は,イノシシは多産多死型の繫殖戦略を取り,4~5頭の幼獣のうち半数は死ぬといわれていた.しかし,どうやら初期死亡率はそんなに高くないようだ.
おそらく多産多死型ということに変わりはないのだろうが,もっと生存率が高いとなると個体数回復も容易かもしれないね.
個人的にちょっと欲しかったのはイノシシの生態系への影響.
イノシシは採餌時に掘り起こすなど環境形成作用が強く,生態系エンジニアとしての役割もある(海外では研究例がある).一方で,日本ではほとんど研究されていない.
野生動物管理は生態系保全の側面も強いのだから,ちょっと触れてほしかったな.
(『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』では軽く触れられている).
まとめると...
◎かなり広範囲の内容をカバー
◎そのかわり内容はちょっと簡単かも
◎初学者を対象にしており,練習問題や対策のアドバイスも豊富
◎兵庫の事例がかなり多い→兵庫ワイルドライフモノグラフ片手に読むと理解深まる
以上です.
2021.10.02 執筆