新たに論文(報告)が公開されました!!
渡邉・吉原・石山・梅崎・西川・風間(2024)狭山丘陵におけるニホンジカの生息記録(2019-2023年).哺乳類科学62(2):185-193.
アライグマばかり主張しているさとやまん(筆者)ですが、今回はニホンジカの生息状況に関する論文を投稿しました。
査読付論文やっと2本目ということで、感慨深い...
そして初の共著者を迎えての論文!!色々な関係者の皆様と力を合わせて投稿したよ。
さとやまん(筆者)は現在、中大型哺乳類を対象として、下記のスタンスを目指しています
①環境保全に役立つ調査・研究
②地域資料や将来の基礎資料となる現状把握
今回の論文は②に該当するものとなります。
1. 概要
今回は、地元・狭山丘陵でのシカの報告となります。
狭山丘陵は東京都と埼玉県の境に位置する丘陵。
地形的にも土地利用的にも脊梁山脈からは隔離されています。
大型哺乳類(クマ、シカ、イノシシ、カモシカ、サル)は生息しておらず、下層植生は繁茂、豊かな鳥類相が成立している地域です。
狭山丘陵における哺乳類相については、重昆(2011)で文献調査としてまとめられています。
cf. 重昆(2011)狭山丘陵の哺乳類
https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho8_ho2.pdf
今回は、なんとこの地域でシカが見つかった!!ということで論文にまとめました。
結論をいうと、「どうやらフラッと入ってきて、半年間くらいいたけど、今はいなくなった」って感じらしい。
今回の筆頭著者・共著者は3チーム6名
渡邉・石山・梅崎:丘陵北西部のカメラ調査
吉原:狭山丘陵全域のヒアリング
風間・西川:丘陵北東部のカメラ調査
元々独立して活動していた3チームがそれぞれでこれまで生息が確認されていなかったシカの情報を得て調査→みんなでまとめて報告しよう!!となりました.
2. 狭山丘陵とシカ
先述の通り,狭山丘陵は大型哺乳類(クマ、シカ、イノシシ、カモシカ、サル)は生息しておらず、下層植生は繁茂、豊かな鳥類相が成立している地域.シカの採食圧にさらされていないということで,植生保全やそのに付随する鳥類保全には重要な地域となります.また,周辺は市街地で囲まれており,大型哺乳類の生息していると市街地出没など軋轢が生じやすくなってしまうという特性もあります.
そんななか,私たちが設置している自動撮影カメラにシカが撮影されます(2022/07/03).一同驚愕,警戒心が高まりますが,撮影頻度は高くない.
そして時期を同じくして,目撃情報が各地で相次ぎました.
そこで,別地域で調査されていた吉原さんや風間先生に連絡を取ったり,関係各所にヒアリングを行ったりして情報を収集しました.
目撃情報をまとめるとこんな感じ.
6月末にポッと入って,連続して出没,なぜか8月に目撃情報が絶えて,10月頃に再び目撃ラッシュって感じです.
地図に落としてみると...
西側(脊梁山脈に近い)に目撃情報が集中しているね.興味深いのが,7/3~7/4の移動.北西の入間市で7/3に撮影されたと思ったら,次の日には5 kmほど離れた南東の東村山市で撮影されています.そして,東村山市の緑地は比較的小さく,市街地すぐ近くなので,そのまま市街地出没にならなくて本当によかったなぁと.
次に気になるのが,1頭なのか複数いるのかということ.そこで,我々が直接撮影した動画に加えて,色々な方が撮った写真をご提供いただきました.
同時に別場所で出現か同時撮影でもされない限り断定はできないけど,個体の特徴をみる限り同じ子っぽい?若齢オス1頭が移入したっぽいですな.
3. その後とこれから
結局その後もカメラトラップ調査を続けているけど,2024年1月現在で目撃情報も撮影情報も得られていない.もう1年以上情報がないことを考えると,もういないのでしょう.帰っていったのか死亡したのかはわからない.
ただ,油断はできないね.また入ってくる危険はあるでしょう.2018年には立川市の住宅街に若齢オス個体が出没して騒動になってましたが,これも一度狭山丘陵を経由して立川に出没したっぽい.今回は大事にならなかったけど,市街地出没の危険性も十分にあったわけです.
ただし,留意したいのはニホンジカは在来種でそもそも昔は狭山丘陵に生息していたということ.明確な情報はありませんが,少なくとも江戸時代には生息していたという記録があります.
cf. 古林・筱田 (2001)江戸近郊におけるニホンジカの生息状況
・在来種で昔は生息していた
・現在は定着していない,そのためシカが好む植物などが残っているかも
・市街地が近く,人間との軋轢が生じやすい
これらの情報を踏まえて,もし再び狭山丘陵にシカが入ってきたらどうするのか,あらかじめ考えておく必要がありそうですね.
私は今後もカメラトラップ調査を継続して,微力ながらモニタリングしていきますぞ!!
以上.
2024.08.16執筆