アライグマ備忘録

アライグマに関するメモです.コメントとかで議論出来ても面白いかもね.アライグマについて詳しく知りたいな~っていう人向けです.

箱罠vsエッグトラップ(Austin et al. 2004)

James Austin, Michael J. Chamberlain, Bruce D. Leopold, L. Wes Burger Jr.(2004)

An evaluation of EGG™ and wire cage traps for capturing raccoons

Wildlife Society Bulletin, 32(2):351-356

 

アライグマ捕獲で主流の箱罠

アライグマ専用として界隈では名高い(?)前肢拘束型捕獲器

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

 

このふたつがあったとき,まず最初に気になるのは

「結局どっちがよく獲れるの?」

だろう.しかし,日本での実証事例は少ない.

(野生動物保護管理事務所 2008など←後日レビューします)

 

ということで色々さがしていたら海外には比較論文があったので読んでみました.

例によって赤字は筆者の意見です.

 

↓原文

[https://bioone.org/journals/wildlife-society-bulletin/volume-32/issue-2/0091-7648(2004)32%5b351%3aAEOEAW%5d2.0.CO%3b2/An-evaluation-of-EGG-and-wire-cage-traps-for-capturing/10.2193/0091-7648(2004)32[351:AEOEAW]2.0.CO;2.short:embed:cite]

 

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目次

1. はじめに

2. 方法

3. 結果

4. 考察

5. 筆者追記と感想

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1. はじめに
・研究者は箱罠を使いがち

∵怪我が少ないし,錯誤捕獲個体を逃がしやすい


・エッグトラップはとらばさみより人道的で効率的な捕獲器として開発されたが,箱罠と比較した研究はまだない(文献による部分的な比較ならある).

※日本ではとらばさみの使用は原則違法であるけど,そもそも前肢拘束型捕獲器はとらばさみの代替で開発されたっていう前提は留意しておきたい

 

・先行研究では,箱罠にはオスがつかまりやすいとされる.
∵オスは行動圏広い・活発=より罠に出会いやすい,行動パターンの違いや個体差も


・雌雄差は研究の面から大きな問題だ

→雌雄差を減らすor考慮できる罠が必要


・錯誤捕獲や空うちの評価も大事


2. 方法
2.1. 調査地
・Black Prairie Wildlife Management Area(BPWMA),ミシシッピ
・平均年降水量150 cm(1500 mm),年平均気温17℃
・牧草地28%,穀物畑25%,保護区24%,森林20%,水辺1%,道1%,Old Field1%(耕作放棄地?)
・狩猟犬の訓練や狩猟のため,コブシロチョウの良質な生息地を目指す.
・外来草本防除や草原維持のための刈り払いなど行う.


2.2. 方法
・均等に罠を設置するために公園を55のグリッドに分ける(1セル40ha)
・1セルずつにエッグトラップとハバハート(箱罠)を1つずつ5 m以内に罠置く(痕跡が多く行きやすい場所)

 

・日の出直後に見回り,作動・非作動・捕獲
・捕獲個体は怪我確認後,塩酸ケタミンで麻酔,1晩休ませて放獣

アメリカではアライグマは在来種なので放獣させるんだね.ちょっと新鮮.

 

◎解析は3つの項目に着目: 罠タイプvs年vs要因[捕獲,捕獲個体の性比,空うち率]

まず7つの要素↓を組み込んだモデル(飽和的モデル)を構築

罠タイプ

要因[捕獲,捕獲個体の性比,空うち率]

罠タイプ×年                 (2因子相互作用)

年×要因                        (2因子相互作用)

要因×罠タイプ             (2因子相互作用)

罠タイプ×年×要因      (3因子相互作用)

※相互作用(interaction,交互作用)とは複数の因子が組み合わさって初めてあらわれる効果のこと

※なんかこの解析方法もあんまり良くないらしいけど,まだ自分には理解できなかったので今この場では言及できない...

 

やってみたら「罠タイプ×年×要因      (3因子相互作用)」は効いてなかったっぽいので以降は取り除いて解析.

捕獲にどれが影響しているかを,完全モデルvs縮小モデルで検討

 

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3. 結果

・5112トラップナイト

※罠1つ1晩で1TN(トラップナイト).
・アライグマ捕獲数173


 箱2000...39 箱2001...25 箱2002...26 (オス:メス=71:19)
 卵2000...56 卵2001...33 卵2002...27 (オス:メス=93:23)
オッポサム捕獲数299(Egg175 箱124)
ネコ4,スカンク13,イヌ3,コットンラット5(いずれも箱)

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[捕獲について]

・罠による捕獲率の差:P=0.064
・年による捕獲率の差:P<0.001
・オッズ比はエッグトラップ(前肢拘束型捕獲器)の方が1.04-1.46倍高い

[捕獲個体の性比について]

・罠による捕獲個体の性差:P=0.92
・捕獲個体の性差:P<0.001
・オッズ比はエッグトラップの方がオスで1.32倍,メスで1.21倍高い

[錯誤捕獲について]
卵:2000...4 2001...5 2002...4
箱:2000...24 2001...20 2002...7
・罠による捕獲率の差:P<0.001
・年による捕獲率の差:P=0.001
・オッズ比は箱の方が1.75-6.13倍高い

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[罠の価格について]

卵114$/ダース
箱540$/ダース

※日本でエッグトラップを購入するなら個人輸入です↓

satoyaman-raccoon.hatenablog.com

※同メカニズムのハイクトラップとかなら国内販売アリ

hyke-store.com


4. 考察
エッグトラップは従来のフットホールドトラップ(※とらばさみ)のアライグマ・オポッサム用代替案として開発された.
自傷行為の防止や人道的な罠として開発された.

 

4.1. 侵襲性[どれだけ動物を傷つけるか]

箱罠<エッグトラップ<トラバサミと言われるが,裏付ける研究報告はない

(International Association of Fish and Wildlife Agencies 2000)


・エッグトラップで捕獲した個体は目視で確認できる傷はなかった

・放獣時に器用さを失うなど大きな損傷していた個体もいなかった

※個人的には侵襲性高いと思う.目視でどれくらい確認したのかわからないけど,個人的な経験や国内の使用経験者との共通見解としては,鬱血などがみられている.

※裏付け研究がないとあるが,原理として「箱罠<エッグトラップ<トラバサミ」なのは当然な気がする.

 

4.2. 雌雄比と空うち,錯誤捕獲

・箱罠による捕獲個体はオスに偏る傾向

・エッグトラップではオスの捕獲率上昇メスの捕獲率少し上昇


空うち率 : エッグトラップ<箱罠

空うちは罠の捕獲成功率が過小評価される可能性

→エッグトラップの方が空うちのバイアスを減らすことができる


錯誤捕獲=対象動物の捕獲率低下,再訪減少

オポッサム以外 :箱罠でのみ確認

オポッサム   :箱罠・エッグトラップ両方で多い

※日本にはオポッサムがいないので,この選択性の高さはありがたい!!

ただし,日本にはニホンザルがいるので要注意


4.3. 費用対効果
購入費や捕獲選択性の観点から費用対効果は,

箱罠<エッグトラップ

ただし,エッグトラップは長期的な耐久性がないことに注意                                                             (今回の研究では3年はもったが,かなり摩耗していた)

※エッグトラップは耐久性が低い.プラスチック製なのでちょっと変な力を入れればすぐ曲がる(1年で2つ壊した...).ハイクアライグマトラップなどは金属製なので,その点も有利.


・罠の輸送の面からはエッグトラップの方がよい錯誤捕獲個体の放獣は箱罠の方がよい

※これは重要な観点.エッグトラップとかは片手で5個とか持てる.

 

4.4. 総合
罠は動物福祉捕獲効率選択性の3つの側面が重要(Hubertほか 1996)
動物福祉 :エッグトラップはトラバサミよりもよい

捕獲効率 :箱罠<エッグトラップ

選択性 :箱罠<エッグトラップ(オポッサム以外)
エッグトラップは箱罠の代替として適していることが示唆された

 

※動物福祉については疑問が残る.

 

 

5. 筆者追記と感想

 

野生動物保護管理事務所(2008)が平成19年度関東地域アライグマ調査報告書で少しだけ比較してる(後日レビューします).
そこではエッグトラップの方が捕獲効率が高いわけではなかった
ただし,捕り残し個体がいる地域にエッグトラップを集中的に設置したためCPUEが下がった可能性がある
そのためこの結果だけでは詳細な比較はできない

また,トラップシャイ個体の捕獲に有効な可能性がある.

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野生動物保護管理事務所(2008)

 

友人や先生たちと話していたのは,そもそも同じ土俵で比較するものではないかもということ.

「箱罠より前肢拘束型捕獲器!!」っていうより,使い分けが大事なのかもねってこと.

やっぱり箱罠の使用者の安全性は大きいし.

 

また,個人的には侵襲性も色々考えないといけないと思う.

まず,前肢拘束型捕獲器の侵襲性はちゃんと評価しないといけないだろう.

(未公表かなんかの報告書で言及されていたくらい)

そのうえで,どこまで侵襲性を認めるかも大事ではないか.

正直言って,捕獲して殺す以上,完全に動物福祉をかなえることはできない.

 

捕獲が全然間に合っていない以上,効率を上げるために一定の侵襲性は認める必要があると思う.もちろん体制などの向上も同時並行で.

(ex.シカなどのくくり罠も侵襲性はあるが認められている)

 

などなど.

以上.

 

2021.6.6. 執筆