レビュー:『日本の外来哺乳類』5アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-(阿部,2011) 後編
『日本の外来哺乳類』5アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-(阿部,2011)のレビューの後半です.赤字は私の見解等メモです.
書籍情報↓
http://www.utp.or.jp/book/b306347.html
レビュー前編
2011年までのアライグマ対策に関して,結構細かく書かれています.
前編では,現状と日本のこれまでの対策について書かれていました.「外来生物」「有害鳥獣」という2つの側面を持つアライグマに対し,後者の側面からしか対策してこなかった日本.だから生態系への被害もあんまり研究されてないし...という状況.
後編では農家と協力した低密度管理の成功例,そしてその限界について書かれています.イノシシとかでもそうですが,有害鳥獣捕獲の目的は「被害の軽減」であって,管理捕獲とは目的が違います.そのため,捕獲しても結果が出なければもう捕獲はしないってなってしまう.アライグマの捕獲はほとんどが有害鳥獣捕獲で,狩猟や管理捕獲は少ないはず(要出典)ですが,その体制でいいのか?というクリティカルな指摘がかまされています.しかし,「こうすればいいよ!!」までは書かれていないのがちょっと残念.
個人的にはある密度までは有害鳥獣捕獲と一緒に頑張って,低密度管理は別の部隊が引き継ぐって言うのが現実的かな~と.兵庫大山捕獲隊の報告(http://www.wmi-hyogo.jp/publication/monograph.html)読むのが楽しみ~
また,「ある密度までは有害鳥獣捕獲と一緒に頑張」るためには短期間で結果を出して対策意欲を高いまま維持する必要があるので,最初に失敗できないっていうのは難しいなーと思いました.
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◎摘要
・2011年現在のアライグマ防除事業の大半は「被害防除」→それじゃ限界がある
・生息数増加の抑止力,分布拡大の抑止力としては不十分
※野生動物管理は一般論として「被害防除」「個体数管理」「生息地管理」の3つの視点が重要だとされているが,アライグマはそのうち「被害防除」しかなされていなそう.どこでも住めそうなアライグマに「生息地管理」はできるのか...??
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目次
1. 侵入経緯(前編)
2. 被害概要(前編)
3. 日本の対策(前編)
4. 北海道での対策
5. 農家による早期捕獲体制の構築
6. 農家による対策の限界
7. 日本の対策の今後
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4. 北海道での対策
・北海道は農業被害対策だけでなく客観的データも蓄積されてる
※やっぱ北海道すげぇなぁ,アライグマ管理といえば安定の北海道だもんね
◎1999『北海道アライグマ緊急対策事業』(外来生物対策として,日本初)
......捕獲方法,生息数推定方法,捕獲効率算出方法 etc.
↓
◎2003『北海道アライグマ対策基本方針』
基本指針
①農業等被害の防止
②健康被害の防止
※1999年から外来生物として対策されていたとは!!早いなぁ
◎『平成15年度アライグマ対策行動計画』にて野外からの完全排除を達成するためのアクションプランも示される
※内容とその結果を要確認
↓以下が示された
・捕獲頭数と生息密度は比例
・幼獣が独立する前(~7月)の捕獲が大事(=早期捕獲)
↓結果として...
・根絶にはもっと捕獲しないといけないことが分かった
→努力量UP!!→しかし捕獲頭数目標が50%くらいしか達成できない
①生息密度が下がったから
②早期捕獲をしたから
③捕獲従事者の主力が農家だから
②について...
早期捕獲すると夏に生き延びている個体は少なくなる→捕獲数として計上されにくい
(つまりこれまでの2倍の捕獲数にかかる労力は2倍以上になる)
③について...
農家は被害が多い7-9月に罠を仕掛けるが,この時期は親子一緒に行動+季節的に捕獲効率下がる.つまり主戦力を効果が薄い時期に投入したということ.
※②と③って言っていることが反対な気がするけど,矛盾はしない?
②...「効果はあるが,捕獲数という数字には計上されない」
③...「効果は薄いが,捕獲数という数字には計上される」
ってことじゃないのかな?
※③の「親子一緒に行動して畑によく出没する季節」ってむしろ沢山獲れるから早期捕獲の次に効率がいい季節じゃないのかな?読み込みが必要.
※捕獲従事者と根本的な目的が違うと,手法も変わってきて,めざす結果も若干ズレるというのはシカでもありますね
「生態系保全が目指す個体数」vs「狩猟者が目指す個体数」(管理捕獲-狩猟者)
「生態系保全として理想の季節」vs「ジビエとしての理想の季節」(管理捕獲-ジビエ)
管理捕獲や生態系保全界隈じゃ戦力が圧倒的に足りないので,この差をどうするかっていうのはアライグマだけじゃなくてシカやイノシシ,ひいては生態系保全分野の多くで必要な議論ですね.
5. 農家による早期捕獲体制の構築-江別市-
◎江別市概要
・アオサギのコロニーがアライグマにやられた
・1999-2011現在,継続的定量的な調査が行われた唯一の地域
・低密度化(2頭/km^2)してはいるが,もっと低密度にせねば
.阿部さんら「アライグマ研究グループ」設立
※おもしろそう
◎初年度
・罠設置・見回り...農家
捕獲個体の処理...アライグマ研究グループ
費用等負担...行政
後方支援...JA
・↑の体制でやってみたら,農家の協力が得づらかった(設置してくれるが見回りまではしてくれない)
=トップダウン型だと協力を得づらい→結果が出ないので不信感にも繋がる
・「目撃」→「捕獲」のためには連絡体制重要
・捕獲現場とか見に来た人とかに色々説明→関心UP
◎2年目以降の早期捕獲の効果(2年目以降うまくいった)
・捕獲数56→93
・成獣幼獣比が変わった!!←ココ重要!!
...ex. 7月以前の捕獲数はあまり変わらなかったが,成獣は3.5倍
→胎子や胎盤痕とかを考慮すると2倍の捕獲効果が見込まれる
↓その結果
・農業被害額が半減
↓からの...
・対策意欲向上!!
※早期の成獣の捕獲が想像以上に大切みたい.しかし,「7月以前の捕獲数はあまり変わらなかったが,成獣は3.5倍」ってのがひっかかる.
「全体として捕獲数変わらないけど,早期捕獲が増えた」=「成獣比があがった」ならわかるんだけど...
成獣幼獣の選択的捕獲ってわけでもないだろうし,そこが気になるところだな
※アライグマってカメラとかにも家族ごと映ったりするので,「家族ごと捕獲する大きめの罠があったらいいなー」って思っていたんだけど,
むしろ「産ませるまえに獲る」「独立する前に獲る」っていうのが大事なんだね
6. 農家による対策の限界
◎最後の一手は打てない!!
・農家の被害対策としては常に「捕獲にかかるコスト」vs「被害のコスト」
↓
捕獲のコストが高すぎたり,被害が十分に減ってきたらアライグマ対策は終了する
※いい悪いではなく,その通りだな...誰が担うべきなのか,だれが金をどこから出すべきなのか...
7. 日本の対策の今後
◎「専従できる人材の確保」や「広域の連携」が大事になってくる
→特に農業被害が少ない地域!!
◎限られた資源を効率的に稼働させる体制を!!
※それをどうやって作るか,その事例とかはないのかな!?探してみよう
◎今回の事例では一連の対策が在来生態系へ与える影響に関してはわかってない?
→モニタリングが必要
以上