【レビュー】『実践 野生動物管理学』(該当部分)
【レビュー】『実践 野生動物管理学』(該当部分)
野生動物管理(Wildlife management)の新作教科書『実践 野生動物管理学』を買いました!!
野生動物の本は色々あるけど,生態系保全や被害防除など管理についてまとめた教科書的な本ってなかなかない(めっちゃ高くて分厚いのはあるけど…).
そこで満を持して登場したのがこの本.
今年(2021年)の9月に発売された『実践 野生動物管理学』.
この本は鷲谷先生(里山とかで有名ですね)や梶先生(シカの超大御所)といった大御所メンツによって編纂された入門書.
数年前までは『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』がかなり網羅的かつ専門的でめっちゃよかったんだけど,いまや絶版.それに代わる教科書として本書が台頭したのかな.
cf. 『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』
絶版だからめっちゃ高くなっている…当初は3000-4000円でした.
ということで,今日は発売ソッコーで購入した『実践 野生動物管理学』の全体を通した感想と,旧教科書『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較,イノシシとアライグマ(外来哺乳類)の部分のレビューなどをまとめます.
なお,執筆時(2021.10.02)は発売直後のため,Amazonやセブンネットショッピングでは在庫がありませんでした.
自分は↓から購入したよ!!
実践野生動物管理学の通販/鷲谷 いづみ/梶 光一 - 紙の本:honto本の通販ストア
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目次
1. 全体を通した感想
2. 旧教科書『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較
3. レビュー:アライグマとイノシシ
-3.1. 10章 外来哺乳類の管理
-3.2. 5章 野生動物の基本生態と社会的課題-イノシシ-
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1. 全体を通した感想
・第一印象
第一印象としては…
「かなり広く網羅的にまとめられている!!」
「野生動物管理とは」からはじまり,「動物の生態」,「法整備」,「人材育成」などが続く.しかも,「感染症対策」や「個体数推定」など大事でありながらあまりしっかりは語られない(気がする?)内容までカバーしている.
・初学者向け
大学1年生や初めて学ぶ方を対象にしているのか,練習問題などがいっぱい載っている!!
たとえば,「○基の罠を△日設置して◇頭捕獲した時のCPUEを求めなさい」「なぜ近年シカが増加したのか説明しなさい」など.難しくはないけど,絶対押さえておきたい知識の確認ができるね.
・その分内容はちょっと簡単?
幅広い内容をカバーした一方で,内容は深くは突っ込んでいない印象.
これは後述のレビューにて触れるけども.
だから,既に学が進んでいる人には物足りないかもしれない.
一方で,偏食な自分としては得意獣種以外にかなり疎いので,必要最低限の知識をお得パックとして学べるのは大変ありがたい.
・さすが「実録」
「実録」と銘打っているだけあり,最新知見・具体的なデータが豊富.
今回の著者の半分以上が兵庫県立大学の先生方(個人的には,野生動物管理の聖地だと思っています笑).
cf. 兵庫県立大学・兵庫森林動物センター
そして,こういったデータの詳細は13巻にもわたる兵庫ワイルドライフモノグラフにまとめられていて,本書でも多数引用されている.
使い方としては『実録 野生動物管理』で流れをつかみつつ,興味持った内容を兵庫ワイルドライフモノグラフで詳細データ・考察で知識を深めるのいうのがいいかもね.
cf.兵庫ワイルドライフモノグラフ
2. 旧教科書『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較
今は単行本絶版となってしまった我がバイブル『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』との比較をします.
『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』は2015年に野生度物管理に関して読みやすくまとめられた本で,管理の概念から大型獣の生態・軋轢まで網羅している本.
以下が比較表.
似た内容を同じ色でくくってみたよ(独断).
先述の通り,やはり『実践 野生動物管理』の方が広い内容をカバーしている(ピンクが『実践 野生動物管理』にのみ載っている内容).
シカ・イノシシ・クマに限らず,サルやアライグマなどまで言及しているし,感染症や個体数推定,資源管理も言及している.
一方で,『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』は「管理システム」と銘打っているだけあって海外とのシステムの比較が丁寧になされている.
3. レビュー:アライグマとイノシシ
本書は無料公開されている論文ではないので,ごく一部のざっくりとしたレビューにとどめます.
3.1. 10章 外来哺乳類の管理
本章ではアライグマなどの各種の説明は軽く済ませ,外来哺乳類(外来種)の定義や外来生物法などを丁寧に解説している.
外来種の定義から入り,外来種のカテゴリ(総合対策外来種,産業管理外来種,定着予防外来種),外来生物法,外来種の影響,外来種予防三原則,住民による管理体制など基本的な知識を丁寧に解説している.外来生物防除と有害鳥獣捕獲の違いとかも解説あり!!
その後,ヌートリア,アライグマ,ハクビシンの生態などをそれぞれ1ページ強でまとめている.アライグマ好きとしてはちょっと物足りないけど,本の趣旨的に仕方ないね…
あと,マングースの成功例についても学びたかった気はする(自分で学びます)
cf. 生態系被害防止外来種リスト
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/gairai_panf_a4.pdf
cf. 外来生物防除と有害鳥獣捕獲,狩猟の違い
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
3.2. 5章 野生動物の基本生態と社会的課題1-ニホンジカ・イノシシ(イノシシのみレビュー)
イノシシはアライグマとくらべて人身被害があったり,被害額が高かったりするため,かなり丁寧に書かれている.また,特に著者の先生方は兵庫でかなりのデータを集めているので,日本のデータに基づいた内容になっている.地域差が大きい&日本での研究が進んでいないイノシシで,日本の情報が得られるのは嬉しいね.
また,最新の情報も取り入れられている.
たとえば豚熱.2018年から広まったこの感染症は業界ではかなり問題となっているが,教科書に反映されるには時差が生じる.とうとう書籍の教科書でも触れられるようになったね.
また,2019年とかから顕著になった都市部への突発的出没なども触れられている.
自分が個人的に一番アツかったのは,初期死亡率の記述.従来は,イノシシは多産多死型の繫殖戦略を取り,4~5頭の幼獣のうち半数は死ぬといわれていた.しかし,どうやら初期死亡率はそんなに高くないようだ.
おそらく多産多死型ということに変わりはないのだろうが,もっと生存率が高いとなると個体数回復も容易かもしれないね.
個人的にちょっと欲しかったのはイノシシの生態系への影響.
イノシシは採餌時に掘り起こすなど環境形成作用が強く,生態系エンジニアとしての役割もある(海外では研究例がある).一方で,日本ではほとんど研究されていない.
野生動物管理は生態系保全の側面も強いのだから,ちょっと触れてほしかったな.
(『野生動物の管理システム クマ・シカ・イノシシとの共存をめざして』では軽く触れられている).
まとめると...
◎かなり広範囲の内容をカバー
◎そのかわり内容はちょっと簡単かも
◎初学者を対象にしており,練習問題や対策のアドバイスも豊富
◎兵庫の事例がかなり多い→兵庫ワイルドライフモノグラフ片手に読むと理解深まる
以上です.
2021.10.02 執筆
【寄稿】アライグマによる両生類被害について(づまささん)
【寄稿】アライグマによる両生類被害について
今回は初の寄稿回です!!
アライグマについて,もっとまとめるべき内容がたくさんあるのに実力が追い付いていない私,さとやまんですが,
今回は両生類に明るいづまささんにアライグマの両生類に対する影響について寄稿していただきました!!
づまささん (@wildanimalphoto) / Twitter
づまささんは関西でカエルとアライグマについて調べていた方です.
では,さっそく両生類被害についてご説明いただきましょう!!
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この度アライグマ備忘録に寄稿することになりましたづまさ(@wildanimalphoto)です。私は関西の某県でアライグマと水田のカエルを対象にした研究をしていました。今回はその研究の過程で調べたアライグマが日本の在来両生類の捕食被害をまとめたので、皆さんと共有しようと思います。
両生類について簡単な説明をします。両生類は生活史のなかで陸域と水域の両方を利用する脊椎動物です。現在、日本在来のサンショウウオとカエルは合計95種生息しています。その数はどんどん(サンショウウオの再分類が進んでいるため)増加しています。
cf. 日本爬虫両棲類学会 (2021) 日本産爬虫両生類標準和名リスト(2021年4月22日版) http://herpetology.jp/wamei/index_j.php, 2021年9月23日確認
しかし、外来種であるアライグマが個体数増加・分布拡大に伴って、両生類に対する捕食被害が報告されるようになりました(表1)。中にはアライグマによる捕食が確定していないものも含まれていますが、状況証拠的にアライグマの関与が強く疑われるものを表1にまとめています。
cf. 栗山・沼田(2020)兵庫県神戸市におけるニホンアカガエル繁殖期に出没・カエルを捕食したアライグマの記録
http://www.wmi-hyogo.jp/upload/database/DA00000594.pdf
cf. 栗山・沼田(2020)のレビュー
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
今のところ、サンショウウオ類は5種、カエル類は11種に食痕や消化管から確認された事例が報告されています。この中で特筆すべきものとして、伊原他2014の報告を取り上げます。
伊原他2014では、福島県でのモリアオガエル大量死を報告しています。本報告では、主に水田の水路に222個体のモリアオガエルの死体があったと報告しています(図1)。
cf. 伊原他(2014)福島県只見町で発生 したモリアオガエルの大量死につ い て
その死体には、体表面の創傷、眼球の突出、腹部の膨張が確認されており、その要因として肉食動物による咬傷と判断されました。最後の考察では、既出の報告である金田・加藤2011の中に三浦半島の葉山町でアライグマが多くのヤマアカガエルを襲い殺害したうえで、食べずに放棄したことを例に挙げ、福島県での事例と酷似しているため、アライグマの関与が強く疑われると記述されていました。
このように、散発的ではありますが、アライグマによる両生類への捕食被害は発生しており、中にはモリアオガエルやヤマアカガエルの大量死が報告されています。今後も捕食被害報告(疑い含む)を積み重ねていくことが重要であると感じます。また、両生類に対するアライグマの影響を量的に明らかにしていくことも重要です。
アライグマ備忘録を閲覧されている読者の方には、是非自分のフィールドで不自然な怪我をした両生類を片手間でいいので探してもらい、短報として報告するかしかるべき研究機関に情報を提供していただければ幸いです。
質問等あれば、
kankyou.wolf☆gmail.com(☆を@に変えて)
までお願いします
(文責:づまさ)
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ありがとうございました!!
>両生類に対するアライグマの影響を量的に明らかにしていくことも重要
本当にその通りだと思いました.捕食事例があっても,それがどれくらいクリティカルな被害なのか定量評価した報告はあまりない印象です.
ただ,現場ではやはりかなり影響がある印象が強いようで.
報告が待たれます.自分も探してみたいなぁ...
以上.
2021.9.25.執筆
武蔵野アライグマ #3調査報告③-爪痕調査 全域完了!!-
~前回までのあらすじ~
武蔵野におけるアライグマの生息状況を調べようと思った.
先行研究をざっとあたると,埼玉では報告が多い一方,東京での報告は少ない.
埼玉の報告や埼玉・東京の捕獲数をみると狭山丘陵周辺に多く生息してそう.
そこで,特に報告が少ない狭山丘陵西端の東村山で爪痕調査を行った.その結果,東村山の寺社仏閣には爪痕が少ないことがわかった.
東村山市は生息報告が少なく,爪痕も少ない.これは整合性の取れた結果といえそう.
しかし,爪痕調査は地域によってはあんまり参考にならないこともあるらしい(めっちゃ生息しているのに爪痕はない事例あり).
cf. 武蔵野アライグマ#2 爪痕調査-東村山偏-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
cf. 武蔵野アライグマ#3 爪痕調査-東大和編-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
前回の報告からはや5ヶ月…
報告遅れてすみません…
しかしこの5ヶ月,サボっていたわけじゃないんです!!
なんと…
狭山丘陵周辺爪痕調査完了しました!!
所沢は先行研究(堀井ほか 2014)があるので,それ以外の5市町(埼玉県入間,東京都東村山市,東大和市,武蔵村山市,瑞穂町)で行いました.
合計103か所!!
今回はその調査結果の報告です.
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目次
- 調査概要
- 結果
- 考察
- 今後の予定
- 謝辞
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1. 調査概要
今回,アライグマの生息を「浅く広く」調べる手法は「爪痕調査」.
簡単に言うと,木造の寺社仏閣をめぐり,柱につく爪痕を調査するというもの.
爪痕の様子でアライグマが来ているのかどうかがわかる.
アライグマ→5本の平行な爪痕
ハクビシン→4本の平行な爪痕(ネコも?)
詳しくはこの記事でまとめました.
Cf. アライグマ爪痕調査について
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
今回はそれ以外,西側南北の結果.
2. 結果
結論からいうと…
半分くらいの寺社で爪痕を確認!!
市町村名の横の数字は最新年度の捕獲頭数.埼玉県は2020年度,東京都は2018年度.
東京都のカッコ内はCPUE(捕獲効率)の値.1.0くらいで密度高め.
だから瑞穂町とかはヤバそう.
この数値のデータについてはまた追って記事出しますわ.
詳細データも表にしてみたよ.
こうみると,東村山だけアライグマの爪痕少ないものの,それ以外では高い割合で爪痕が見つかっているようだ.
寿昌寺(入間市)では,このように侵入防止ネットを張っていたよ.
そして,狭山丘陵や加治丘陵に近い寺社で爪痕が多く,街中の寺社では少ない気がする…
ということで,解析してみようか.
まず,国土交通省から土地利用データ(100 mメッシュ)をダウンロードし,森林のみ抽出.
https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html
そして,寺社周辺400 m内のセル数(メッシュ内に含まれるセルの重心の数)を算出してみた.
やっぱり,印象通り爪痕がある寺社は森林に囲まれていることが多いようだ.
(t検定,p<0.05)
もっとしっかり言うならば,より詳細な土地利用データを用いて面積算出したほうがいいんだけど,今回はザックリ見ることが目的なので簡略的な解析でご容赦ください.
3. 考察
今回の考察は大きく分けて2つ
- 狭山丘陵のアライグマは西側で多そう
- 爪痕がある寺社の周辺に森林が多いのは…
・狭山丘陵のアライグマは西側で多そう
前回までは極めて断片的なデータしか得られなかった.でも,計6回以上の調査を経て全貌が見えてきた.
どうやら,東大和市以西では爪痕が多いようだ.そして,捕獲効率は西に行くほど高くなっている.以上から,西ほどアライグマが多いことが推察される.
埼玉県はCPUEを算出していないため,南北の比較はできないのが心残りだが…
・爪痕がある寺社の周辺に森林が多いのは…
今回の調査結果から,爪痕がある寺社の周辺に森林が多いことが示唆された.この原因は大きくわけて3つある.
◎アライグマは森林を好む
これは一番シンプルな読み方.森林にアライグマが多いから森林近くの寺社に爪痕が残る.そういう考察はよく見るし,ありえそうだが…断定するにはちょっと早いか.
◎寺社爪痕調査は環境要因が大きなバイアス
アライグマは森林だけでなく街にもいるが,森林だと爪痕が残りやすい説.
たとえば,
街には側溝や納屋,空き家などカバーが森林より多い
↓
寺社のカバーとしての価値は森林>街
↓
アライグマ密度が変わらなくても,森の寺社の方が好まれる
これも十分ありえそうな説.
◎生息密度が低く,森林が少ない東村山が下に引っ張っている
うーん,これはどうだろ.武蔵村山や東大和などでも街中の寺社には爪痕がない傾向があるから,この説は薄いと思う.
アライグマの環境選択の問題なのか,環境要因によるバイアスの問題なのかは今回の結果や現状の先行研究では断定できない.
今後の調査に期待大.
4. 今後の予定
今回で爪痕調査はとりあえず終わった.
そして,(これは後日まとめますが)行政の捕獲データもゲットした.
- ひと段落着いたので,ちゃんとした形でまとめます
とりあえず今回の内容を野生生物と社会学会大会2021でポスター発表してきます.そのあと論文か報告書かなんかにまとめて形に残します.
- より解像度の高い調査(餌トラップ調査,カメラトラップ調査)
考察や爪痕調査の記事でも触れた通り,アライグマの爪痕調査は簡易で広範囲で行える一方で不確実性も高い.ということで,武蔵野のアライグマ調査をより補強するためにまだまだ調査をします.様々なポイントでより詳細がわかる調査を行う予定.
たとえば,餌トラップ調査.これは,設置から回収までの1週間でアライグマが来たか否かが判断できるというもの.
これを狭山丘陵周辺の5か所くらいでやりたいなぁ
まだまだ報告続けますよ.
調査やってみたいって人は連絡ください笑
TwitterのDMでも,コメントでも,メールでも.
(中高生以上,中高生は保護者の許可を)
raccoon.memorandum☆gmail.com(☆を@にかえてね)
チェックしてください.
5. 謝辞
調査同行してくれた同期・後輩諸氏に感謝します.
何か感想,考察,疑問,議論等ございましたらコメントください.
2021.9.14 執筆
哺乳類学会大会2021ポスター発表参戦します
私事ですが,2021年8月28日からの日本哺乳類学会大会にポスター発表で参加してきます~
内容はもちろんアライグマ!!...といいたいところですが,今回はイノシシでかましてきます!!
イノシシは採餌時に土を掘り起こすんだけど,それって生態系にどう影響あるんですかね?
気になるね!!
でも,実は日本でそういう研究している人はほとんどいない.
海外だと,植生の種構成が変わったり,土壌の理学特性(有機物分解,CN比など)が変わったりするっていう報告がある(Siemann 2009;Barrios-Garcia et al. 2014;Burrascano et al. 2015).
こういった哺乳類による小規模な攪乱は,また面白い特徴がある.
攪乱と言うと火山噴火とか台風とかそういうのを考えがちだけど,そういったものに比べて
・小規模で高頻度
・攪乱が生じる場所に偏りがある(=動物が好む場所で攪乱が生じる)
といった特徴がある.
じゃあ,イノシシの攪乱の影響の前に,
イノシシの掘り起こしってどういう場所にあるの?
イノシシはどういう場所で餌食ってるの?
ってことが気になるね.
いや,気になってください.
ということで,どんな場所にイノシシの掘り起こしがあるかを調べました!!
テクテク色々なところ歩いて,掘り起こしを記録する感じ.
日本での掘り起こしの調査の先行研究は3件ある.
島根での小寺ほか(2001)と,栃木での大橋ほか(2013)と角田ほか(2014).
cf. 小寺ほか(2001)島根県石見地方におけるニホンイノシシの環境選択
cf. 大橋ほか(2013)栃木県南西部の耕作放棄地に成立する植物群落とイノシシの生息痕跡の関係
cf.角田ほか(2014)栃木県佐野市新合地区および氷室地区におけるイノシシの採餌環境
いずれも暖温帯の人里周辺だけど,今回の対象地は冷温帯の森林域.
どういう結果になるのかはポスター発表のお楽しみで!!
また論文化したら告知します(笑)
あと,11月の野生生物と社会学会にもたぶん参戦するよ!!
こっちはアライグマで.
Let me see your gun finger
楽しみましょう!!
2021.8.27. 執筆
日本のアライグマの実態-捕獲数の傾向のまとめ-
日本のアライグマの実態-捕獲数の傾向のまとめ-
アライグマってどこにどれくらいいるの?毎年どれくらい増えているの?
これは全国民が気になるところだと思う.
たとえばシカだったら,
・2019年で個体数は約189万頭と推定(2021.3時点)
・2014年ごろにピークで現在は減少傾向,しかし1990年代よりははるかに多い
・生息域は東北や北陸を中心に拡大傾向
・農作物被害額は約53億円で,野生動物による被害約1/3
などなど,基本的な状況を統括できるが,アライグマの生息状況とかあんまりまとまっているの見たことないな,と思うわけです.
Cf. 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について(令和2年度)
環境省(https://www.env.go.jp/press/109239.html, 2021年8月15日確認)
でも,アライグマってなんか増えているとは聞くが,どの地域に多いのかとか,具体的にどれくらい増えているのかとか,あまり詳細情報見たことない気がする…
ということで,今回は日本全国の規模でざっくりアライグマの動向をまとめてみた.
1. 個体数
まず真っ先に知りたくなるのは個体数ではないか(少なくとも自分は,まず最初に何頭いるか知りたくなる).
実はこれ,全然わかっていない,
シカやイノシシは推定生息数がおおむね分かっている.
シカ:2019年で推定個体数は約189万頭,2014年ごろにピークで現在は減少傾向
イノシシ:2019年で推定個体数は約80万頭,2014年ごろにピークで現在は減少傾向
これらの情報がわかるのは,この2種は研究が進んでいて,データもたくさん蓄積されているから.
野生動物の個体数の推定は複数種類のデータを踏まえて考える.
たとえば,シカだと
・捕獲効率
・カメラに映った頭数
・糞の数
・目撃情報
などなど…
しかし,アライグマはこういうデータがかなり少ない.
集められていないっていうのもあるし,そもそも集めるのが難しいっていうのもある.
捕獲数はデータとして集めているものの,捕獲効率まで算出していない都道府県が多い.
(捕獲効率を算出するためにはわなを何日かけたか知る必要があるが,この情報をそもそもちゃんと集計していないところが多いんです).
そして,アライグマは痕跡が見つけにくい.
シカに比べて糞は見つけにくいし,イノシシのような掘り起こしの痕跡が見つかるわけでもない.
また,自動撮影カメラによる推定方法も確立していない(気に登ることを考慮するとより複雑になってしまう…).
また,捕獲個体にタグをつけて,再度捕獲する標識再捕獲法(高校生物参照)もあるけど,侵略的外来種を再放逐することは不適切…
そのため,「アライグマって何頭いるの?」の問いの答えはズバリ…
全っ然わからん!!
とはいえ,個体数推定方法の研究はある.
そのひとつが除去法だ.
cf.浅田(2014)とそのまとめ記事
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
これは,捕獲効率の変動から個体数を推定する.
どんどん捕獲して減らしていくにしたがって,だんだん捕獲しづらくなっていく.
その捕獲がどれくらいむずかしくなっていくかというデータから生息数を推定することができる.
ただ,先述の通り捕獲効率まで算出していない都道府県が多いなど,2014年の論文以降いまだ実用化はされていなそうだ…
2. 捕獲数
生息個体数も捕獲効率もわからないとなれば,あとは捕獲数を見るしかない.
ググってみると,都道府県単位でまとめたグラフはあるものの,全国規模でまとめたものはない.
一方で,鳥獣の捕獲数などは環境省が1998年度以降毎年公開している.
Cf. 鳥獣関係統計
環境省(https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs2.html, 2021年8月15日確認)
そこで今回,この統計資料20年分を頑張ってまとめたので見てほしい!!
今回のまとめた対象は狩猟,有害鳥獣捕獲,外来生物防除の3種類(有害鳥獣捕獲は都道府県ver.と環境省ver.があるので厳密には4種類).
学術捕獲などは対象外としました.
……このようになりました.
まずは地方別で捕獲数をまとめてみた.
(※沖縄県は捕獲数0)
全体として,捕獲数はかなり増加傾向で,2017年度には55,000頭を越しているね.
地域で見ると,北海道,関東,近畿が大きなシェアを誇る.
しかも,北海道,関東は特に増加傾向にある.
近畿や九州,中部も,北海道や関東ほどじゃないにしろ増加傾向にあるね.
最近は東北もだんだん増えているみたいだ.
一方で,北陸,中国,四国はほとんど増えていない.
もちろん地方ごとに面積が異なるので,安易に比較することはできないけど,おおまかな傾向は掴めた気がする.
北海道や関東は1年で15,000頭もとっているのに減っていないみたいだ…
続いて,捕獲区分ごとの捕獲数.
アライグマを捕獲するには許可が必要なのだが,その許可にはいくつか種類がある.
詳しくはこちらのまとめを↓
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
このグラフを見ると…
捕獲圧の主力は外来生物法にもとづく防除だとわかる(約70%).
ついで有害鳥獣捕獲(約28%).
そして,外来生物防除と有害鳥獣捕獲の双方が明確な増加傾向にあるね.
有害鳥獣捕獲は農業被害防止が目的だから,生態系被害の防止・軽減なども踏まえると限界があるんだよね…
cf. アライグマ-有害鳥獣捕獲からの脱却-
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
そして,狩猟はいずれの年もシェアが小さく2%弱.
たまに「外来種対策として狩猟鳥獣にしよう!!」という言説もあるけど,狩猟が捕獲圧としてどの程度なのかは考えなくてはいけないね.
もちろん,狩猟の捕獲圧はその獣種の人気も影響するし,2%弱とはいえ年900頭以上捕獲されているので一定の効果はあると思うけど.
今回は捕獲数のまとめでした.
ただし,捕獲数という指標は必ずしも生息数を忠実に反映しているとは限らない.
生息数は変わらない(or減った)けど,めっちゃがんばったから捕獲数が増えたという可能性もある.
だからこそ,どれだけ頑張ってどれだけ捕獲されたかが大事.
また,捕獲の目標を立てるには,1度減らすことが大事.
減少傾向に転じてはじめて目標値の適切さが担保される.らしい.
以上まとめると,
・捕獲数めっちゃ増えてる!!
→もっともっと捕獲しなくては!!
・捕獲数だけでなくどれだけ頑張ったか(捕獲努力量)も集計して!!
ですかね.
以上.
2021.8.15執筆
【ご紹介】新潟県 市民参加型アライグマ分布調査
【ご紹介】新潟県 市民参加型アライグマ分布調査
日本各地でアライグマの対策が行われている.
北海道,神奈川県三浦半島,兵庫県丹波篠山市,大分県…などなどアツい地域いくつかあるが(逆に言えばいくつかしかないからもっと普及啓発頑張りたいね),
私が最近刺激を受けたのが新潟県におけるアライグマ防除だ.
とっても最高なwebページが公開されたので,是非とも共有させていただきたい.
アライグマ侵入初期・分布拡大地域の新潟県で,長岡技術大学が動いた!!
6/14にアライグマセミナーを開催.
そして住民参加型のアライグマ分布調査を実施するようだ.
筆者の個人的な感想としては,この取り組みの以下の点が魅力的!!
当該webページは↓から!!
新潟県は侵入初期・分布拡大地域.
外来種防除の肝は侵入初期段階と言われている.
アライグマは産仔数が多く,幼獣の致死率が低いので個体数増加が著しい.
つまり,増えてしまってからだと加速度的に増えるアライグマを抑えるのがどんどん大変になっていく.
そのため,増える前に抑えるほうが費用対効果もいいし,無駄に殺す必要もなくなる.
防除の現場で必要なのは現状把握と住民理解.
そこで,現場を主導する長岡技術大学は住民参加型のアライグマ分布調査を企画している.
使用する手法は,安価・簡易で広範囲をカバーできるアライグマ爪痕調査.
cf. アライグマ爪痕調査について
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
しかも,この手法を丁寧に解説するセミナー・動画まで公開しているのが素晴らしいね.
わかりやすい!!
今後は誰でもGIS上にデータをアップロードできるというシステムが開発されるらしい(7/22予定:7/6現在).そしてアップされた爪痕をベテランが精査して獣種判別するらしい.
これまでにないほどハードルが低い住民参加型のアライグマ対策だね.
自分もこういうGISを作ってみんなが参加できるようなオープンデータを整備したい!!
今後の新潟のアライグマ対策に注目!!
2021.7.6. 執筆
【レビュー】浅田(2014)階層ベイズモデルを使った除去法によるアライグマ(Procyon lotor)の個体数推定
浅田正彦(2014)
階層ベイズモデルを使った除去法によるアライグマ(Procyon lotor)の個体数推定
哺乳類科学54(2):207-218
↓原文
本論文は,大きく分けて2つの内容からなる.
①統計的な個体数推定方法
②千葉での個体数推定からわかったこと
①については論文理解するのに一定の知識が必要になると思う(去年の自分には理解できなかったので...).
たとえば,GLMM(一般線形混合モデル)とかMCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)とか階層ベイズモデルとか.
この一定知識から書くと本になっちゃうし,なにより筆者自身かろうじてわかる気がする程度の知識なので今回はあんまり触れません.
したがって,①自体軽く流します.
あ,でも.オススメ教材を置いておきます.
一緒に頑張りましょう.
②は個体数推定と生態のすりあわせとその考察なので,事前知識なくてもわかりやすい.本ページでは②に重点を当ててレビュります.
実際読む際も,もし統計勉強されているなら前から読んだほうがいいと思うけど,もし統計全然わからないならガッツリとばして「結果」から読むのも手だと思います~
せっかちさんのためにずばり要点だけいうと
「めっちゃ捕獲しても,すぐにオスがどんどん外から入ってくる」
「個体数が多い地域では本気出しても根絶は無理,まず広範囲である程度減らす.話はそれから」
ったかんじ
なお,今回の内容は遅滞相管理の知識があるとかなり面白いです.
知らない方は↓を一緒に読むのがオススメです.
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
※遅滞相
アライグマ(ほとんどの動物)の定着過程では,まず行動圏が広いオスが先に入ってくる.この状態ではなかなか増えない.この状態が遅滞相.
このあと,メスが定着して爆発的に増える.
以下目次です.
赤字は自分の意見です.
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目次
①統計的な個体数推定方法
②千葉での個体数推定からわかったこと:結果
③千葉での個体数推定からわかったこと:考察
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①統計的な個体数推定方法
先述の通り,ガチガチ統計トークはこのスペースじゃ無理だし,筆者も無理なので,オススメの教材おいておきます.これ,難しそうですが,本気出せばたぶん理解できます.
結構がっつり数学の話だと思いますが,ここ理解できなくても全然問題ないです.
その場合は②から読んでもらっても大丈夫です.
また,結局資料の本にイチから書いています.動画わからんくても本をイチから読むとたぶんわかります.
資料1:そもそもベイズ推定とは?
大人気Youtuberのヨビノリたくみ先生の動画です.
この動画の例題では
事後確率:陽性と診断された確率
から
事前確率:本当に陽性である確率(直接わからない→統計を使う)
を求めていた.
野生動物業界の個体数推定では
事後分布:捕獲効率とか糞粒密度,目撃効率などなど各種情報
から
事前分布:個体数(直接わからない→統計を使う)
を求めるかんじです.
本当だったら「個体数」(原因)あっての「捕獲効率とか糞粒密度,目撃効率などなど各種情報」(結果)なんだけど,直接はわからないから結果から原因を推定するってイメージ.
(ここでの確率と分布のニュアンスは同じとしていい.はず.)
資料2:階層ベイズモデルのイメージ
cf. 資料2.5 「え?最尤推定の説明から全然わからん??」って人向け
資料3:階層ベイズの本の作者による講義動画
久保先生は資料4↓の作者の先生.
このみんながオススメする本を授業っぽく教えてくれる.
やっぱ文字だけよりわかりやすいね.
資料4:階層ベイズで僕が色んな人からオススメされた本
データ解析のための統計モデリング入門――一般化線形モデル・階層ベイズモデル・MCMC (確率と情報の科学) | 久保 拓弥 |本 | 通販 | Amazon
僕も統計クソ苦手だけど,得意な人曰くこの本がいいらしいよ
たしかに練習問題からしっかり書いてくれているから,本気で学びたい人はこの本がいいのかも.
自分は最終章で1度挫折して,資料3の動画読んで再挑戦→読破(でも理解できてないかも)みたいな感じです.難しかった...(隙自語)
ここまで理解出来たら,この論文読んでみたらわかるかもです.
なお自分は修士1年でやっとちょっとわかったかもって感じです.
②千葉での個体数推定からわかったこと:結果
・めっちゃ捕獲しました
2012/6/22-2013/3/23で
35.1 km^2の範囲に約300 m間隔の面的に連続した100台の箱罠(=2.9 台/km^2)
捕獲数(計137)
オス成獣:53
メス成獣:29
幼獣 :55
・CPUE(捕獲効率)の変化
CPUEは初日~20日目と20日目以降で比較
メス成獣と幼獣は捕獲を続けるうちにCPUEが下がった
メス成獣:0.6→0.06
幼獣 :1.2→0.12
オス成獣はCPUE下がらない
※普通に考えると,捕獲しまくったらオスもメスも幼獣も効率下がるはずなのに...
・捕獲前後の性比を成獣・幼獣それぞれで比較.
成獣
前半はオス:メスに違いなし
後半はオスが有意に多く捕獲された
幼獣
前後半通してオス:メスに違いなし
・MCMC法による初期個体数の推定
メス成獣:収束
幼獣 :収束
オス成獣:収束せず
※めっちゃ雑に言うと,メス成獣と幼獣では推定成功,オス成獣は推定成功とはいえないかも.そうなった理由は生態に関係している?っていう考察が続きます
※MCMC法について知りたい方は資料3の久保先生の動画をご覧ください
推定の結果,
捕獲開始前の推定密度
オス成獣:2.54 頭/km2
メス成獣:2.93 頭/km2
幼獣 :3.70 頭/km2
↓
3か月後の推定密度
オス成獣:3.48 頭/km2
メス成獣:0.80 頭/km2
幼獣 :0.74 頭/km2
※いや,オス増えとるやないかい!!でもオスもかなり獲っているはず.
③千葉での個体数推定からわかったこと:考察
・この地域は遅滞相に以降したのでは
メス成獣・幼獣:7割以上除去
オス成獣:むしろ増加傾向
オス:メス=1:1.15
オス:メス=1:0.23
CPUE0.2以下
オスの割合が多い
※遅滞相
アライグマ(ほとんどの動物)の定着過程では,まず行動圏が広いオスが先に入ってくる.この状態ではなかなか増えない.この状態が遅滞相.
このあと,メスが定着して爆発的に増える.
・今回の結果から
CPUE=0.2のとき,3.12 頭/km^2に相当することがわかった.
強い捕獲圧をかけると...
・メス成獣の排除によって遅滞相に移行することがわかった
したがって
地域的な根絶はすぐには難しい
メス成獣を減らして遅滞相管理に移行すべし
・オスはメスより低密度
∵オス優位の一夫多妻or乱婚型→ほかのオスを排除
捕獲前推定個体数 :89
捕獲数 :53
but全然減らない!!むしろ増える!!CPUE減らない!!
101日目推定個体数:122
理由
①他地域からの移入
②4kg以上を成獣とした(元幼獣が成長知って成獣扱いになったので増えて見えた)
メスは減っていて,オスは増えていることから①が大きそう
(もし②がメインならメスも増えるはず)
定住していたオスが捕獲されたことで,弱いオスが定着・移入したと思われる.
・オスの個体数のMCMCサンプリングは十分に収束しなかった
≒あまり推定に成功したとは言えなかった
→仮定(他地域からの移入がない)が誤っているため推定がうまくいかなかったのでは?
→他地域からの移入があった!?
北海道
春に捕獲しまくっても,春-秋で捕獲しないと来年春には個体数復活
・海外の事例を見ると,根絶の鍵は
△増加率が低いこと
◎分散能力が低いこと
↓
分散能力が低いメスは減る
分散能力が高いオスはなかなか減らない
・本研究では,一気に捕獲すると遅滞相まで持っていくことは可能だとわかった
・しかし,オスの移入によって根絶はキツイことがわかった
・これは隣接地域が高密度だからかも
↓
最初から根絶を目指すのではなく
まず,広範囲の遅滞相を形成
その後に広範囲の地域丸ごと根絶
※「外から入ってくるのなんて知ってるわ」って?
自分は「一時的にほぼ根絶」→「ちょっとしたら外から入ってくる」
と思っていた.でも,実際は
「オスは減った瞬間に移入してくる」
とのこと.
だから,「1ヵ所根絶して,その範囲を広げていく」作戦は難しいんだね...
以上
2021.6.18執筆
箱罠vsエッグトラップ(Austin et al. 2004)
James Austin, Michael J. Chamberlain, Bruce D. Leopold, L. Wes Burger Jr.(2004)
An evaluation of EGG™ and wire cage traps for capturing raccoons
Wildlife Society Bulletin, 32(2):351-356
アライグマ捕獲で主流の箱罠
アライグマ専用として界隈では名高い(?)前肢拘束型捕獲器
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
このふたつがあったとき,まず最初に気になるのは
「結局どっちがよく獲れるの?」
だろう.しかし,日本での実証事例は少ない.
(野生動物保護管理事務所 2008など←後日レビューします)
ということで色々さがしていたら海外には比較論文があったので読んでみました.
例によって赤字は筆者の意見です.
↓原文
[https://bioone.org/journals/wildlife-society-bulletin/volume-32/issue-2/0091-7648(2004)32%5b351%3aAEOEAW%5d2.0.CO%3b2/An-evaluation-of-EGG-and-wire-cage-traps-for-capturing/10.2193/0091-7648(2004)32[351:AEOEAW]2.0.CO;2.short:embed:cite]
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目次
1. はじめに
2. 方法
3. 結果
4. 考察
5. 筆者追記と感想
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1. はじめに
・研究者は箱罠を使いがち
∵怪我が少ないし,錯誤捕獲個体を逃がしやすい
・エッグトラップはとらばさみより人道的で効率的な捕獲器として開発されたが,箱罠と比較した研究はまだない(文献による部分的な比較ならある).
※日本ではとらばさみの使用は原則違法であるけど,そもそも前肢拘束型捕獲器はとらばさみの代替で開発されたっていう前提は留意しておきたい
・先行研究では,箱罠にはオスがつかまりやすいとされる.
∵オスは行動圏広い・活発=より罠に出会いやすい,行動パターンの違いや個体差も
・雌雄差は研究の面から大きな問題だ
→雌雄差を減らすor考慮できる罠が必要
・錯誤捕獲や空うちの評価も大事
2. 方法
2.1. 調査地
・Black Prairie Wildlife Management Area(BPWMA),ミシシッピ
・平均年降水量150 cm(1500 mm),年平均気温17℃
・牧草地28%,穀物畑25%,保護区24%,森林20%,水辺1%,道1%,Old Field1%(耕作放棄地?)
・狩猟犬の訓練や狩猟のため,コブシロチョウの良質な生息地を目指す.
・外来草本防除や草原維持のための刈り払いなど行う.
2.2. 方法
・均等に罠を設置するために公園を55のグリッドに分ける(1セル40ha)
・1セルずつにエッグトラップとハバハート(箱罠)を1つずつ5 m以内に罠置く(痕跡が多く行きやすい場所)
・日の出直後に見回り,作動・非作動・捕獲
・捕獲個体は怪我確認後,塩酸ケタミンで麻酔,1晩休ませて放獣
※アメリカではアライグマは在来種なので放獣させるんだね.ちょっと新鮮.
◎解析は3つの項目に着目: 罠タイプvs年vs要因[捕獲,捕獲個体の性比,空うち率]
まず7つの要素↓を組み込んだモデル(飽和的モデル)を構築
罠タイプ
年
要因[捕獲,捕獲個体の性比,空うち率]
罠タイプ×年 (2因子相互作用)
年×要因 (2因子相互作用)
要因×罠タイプ (2因子相互作用)
罠タイプ×年×要因 (3因子相互作用)
※相互作用(interaction,交互作用)とは複数の因子が組み合わさって初めてあらわれる効果のこと
※なんかこの解析方法もあんまり良くないらしいけど,まだ自分には理解できなかったので今この場では言及できない...
やってみたら「罠タイプ×年×要因 (3因子相互作用)」は効いてなかったっぽいので以降は取り除いて解析.
捕獲にどれが影響しているかを,完全モデルvs縮小モデルで検討
3. 結果
・5112トラップナイト
※罠1つ1晩で1TN(トラップナイト).
・アライグマ捕獲数173
箱2000...39 箱2001...25 箱2002...26 (オス:メス=71:19)
卵2000...56 卵2001...33 卵2002...27 (オス:メス=93:23)
オッポサム捕獲数299(Egg175 箱124)
ネコ4,スカンク13,イヌ3,コットンラット5(いずれも箱)
[捕獲について]
・罠による捕獲率の差:P=0.064
・年による捕獲率の差:P<0.001
・オッズ比はエッグトラップ(前肢拘束型捕獲器)の方が1.04-1.46倍高い
[捕獲個体の性比について]
・罠による捕獲個体の性差:P=0.92
・捕獲個体の性差:P<0.001
・オッズ比はエッグトラップの方がオスで1.32倍,メスで1.21倍高い
[錯誤捕獲について]
卵:2000...4 2001...5 2002...4
箱:2000...24 2001...20 2002...7
・罠による捕獲率の差:P<0.001
・年による捕獲率の差:P=0.001
・オッズ比は箱の方が1.75-6.13倍高い
[罠の価格について]
卵114$/ダース
箱540$/ダース
※日本でエッグトラップを購入するなら個人輸入です↓
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
※同メカニズムのハイクトラップとかなら国内販売アリ
4. 考察
エッグトラップは従来のフットホールドトラップ(※とらばさみ)のアライグマ・オポッサム用代替案として開発された.
自傷行為の防止や人道的な罠として開発された.
4.1. 侵襲性[どれだけ動物を傷つけるか]
箱罠<エッグトラップ<トラバサミと言われるが,裏付ける研究報告はない
(International Association of Fish and Wildlife Agencies 2000)
・エッグトラップで捕獲した個体は目視で確認できる傷はなかった
・放獣時に器用さを失うなど大きな損傷していた個体もいなかった
※個人的には侵襲性高いと思う.目視でどれくらい確認したのかわからないけど,個人的な経験や国内の使用経験者との共通見解としては,鬱血などがみられている.
※裏付け研究がないとあるが,原理として「箱罠<エッグトラップ<トラバサミ」なのは当然な気がする.
4.2. 雌雄比と空うち,錯誤捕獲
・箱罠による捕獲個体はオスに偏る傾向
・エッグトラップではオスの捕獲率上昇,メスの捕獲率少し上昇
空うち率 : エッグトラップ<箱罠
空うちは罠の捕獲成功率が過小評価される可能性
→エッグトラップの方が空うちのバイアスを減らすことができる
錯誤捕獲=対象動物の捕獲率低下,再訪減少
オポッサム以外 :箱罠でのみ確認
オポッサム :箱罠・エッグトラップ両方で多い
※日本にはオポッサムがいないので,この選択性の高さはありがたい!!
ただし,日本にはニホンザルがいるので要注意
4.3. 費用対効果
購入費や捕獲選択性の観点から費用対効果は,
箱罠<エッグトラップ
ただし,エッグトラップは長期的な耐久性がないことに注意 (今回の研究では3年はもったが,かなり摩耗していた)
※エッグトラップは耐久性が低い.プラスチック製なのでちょっと変な力を入れればすぐ曲がる(1年で2つ壊した...).ハイクアライグマトラップなどは金属製なので,その点も有利.
・罠の輸送の面からはエッグトラップの方がよい錯誤捕獲個体の放獣は箱罠の方がよい
※これは重要な観点.エッグトラップとかは片手で5個とか持てる.
4.4. 総合
罠は動物福祉,捕獲効率,選択性の3つの側面が重要(Hubertほか 1996)
動物福祉 :エッグトラップはトラバサミよりもよい
捕獲効率 :箱罠<エッグトラップ
選択性 :箱罠<エッグトラップ(オポッサム以外)
→エッグトラップは箱罠の代替として適していることが示唆された
※動物福祉については疑問が残る.
5. 筆者追記と感想
野生動物保護管理事務所(2008)が平成19年度関東地域アライグマ調査報告書で少しだけ比較してる(後日レビューします).
そこではエッグトラップの方が捕獲効率が高いわけではなかった
ただし,捕り残し個体がいる地域にエッグトラップを集中的に設置したためCPUEが下がった可能性がある
そのためこの結果だけでは詳細な比較はできない
また,トラップシャイ個体の捕獲に有効な可能性がある.
友人や先生たちと話していたのは,そもそも同じ土俵で比較するものではないかもということ.
「箱罠より前肢拘束型捕獲器!!」っていうより,使い分けが大事なのかもねってこと.
やっぱり箱罠の使用者の安全性は大きいし.
また,個人的には侵襲性も色々考えないといけないと思う.
まず,前肢拘束型捕獲器の侵襲性はちゃんと評価しないといけないだろう.
(未公表かなんかの報告書で言及されていたくらい)
そのうえで,どこまで侵襲性を認めるかも大事ではないか.
正直言って,捕獲して殺す以上,完全に動物福祉をかなえることはできない.
捕獲が全然間に合っていない以上,効率を上げるために一定の侵襲性は認める必要があると思う.もちろん体制などの向上も同時並行で.
(ex.シカなどのくくり罠も侵襲性はあるが認められている)
などなど.
以上.
2021.6.6. 執筆
アライグマ爪痕調査について
アライグマの生息状況確認方法としての爪痕調査のまとめ
アライグマが生息しているか否かについての確認方法はいくつかある.寺社仏閣等におけるアライグマの爪痕調査もそのひとつである.
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目次
1. 爪痕調査とその利点
2. 問題点
3. その他の手法
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1. 爪痕調査とその利点
アライグマは木を登る際に爪痕を残すことがある.この調査方法は木造建築の柱に残された爪痕を確認することでアライグマの訪問を評価する手法である.
図1はアライグマの爪痕である.このように5本の爪痕が残る(幅5 cm以上という見分け方も?).
似た痕跡としてはハクビシンの爪痕があるが,こちらの爪痕は4本で幅が5 cm未満らしい(戸田ほか 2011).
調査法は関西野生生物研究所HPに詳しい.
cf. 関西野生生物研究所HP
この調査手法は以下のような利点がある.
①専門的な技術が不要である点
②広範囲でデータが取得できる(我が国では寺社仏閣は広範囲に多数存在する)
この手法を用いた研究や報告は複数ある.
江成広斗,高田真朗(2019)平成30年度絶滅危惧種保全・外来種防除対策事業(外来種侵入状況調査)報告書
https://www.pref.yamagata.jp/documents/2431/h30araigumahokokusho.pdf
堀井達夫,北浦恵美,横山伸夫(2014)所沢市におけるアライグマ生息状況調査.トトロのふるさと基金自然環境調査報告書11.11-14
https://www.totoro.or.jp/goods_books/report/img/ho11_2.pdf
川道美枝子,川道武男,金田正人,加藤卓也(2010)文化財等の木造建造物へのアライグマ侵入実態.京都歴史災害研究11.31-40
https://r-dmuch.jp/wp/assets/ja/results/disaster/dl_files/11go/11_3.pdf
川道美枝子,川道武男,山本憲一,八尋由佳,間恭子,金田正人,加藤卓也(2013)アライグマ侵入実態とその対策.畜産の研究67(6).633-641
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010852248.pdf
戸田春那,岡田奈々,高田安則(2011)栃木県における痕跡による外来生物の生息確認調査.野生鳥獣研究紀要37.43-48
その他学会での報告など複数
2.問題点
一方で,私はこの手法にはいくつかの問題があると感じている.
①検出力が評価されていない
②評価基準が客観性に欠ける
③時間スケール評価が不十分
④寺社仏閣の規模というバイアス
⑤獣種判別の不確かさ
それぞれについて.
①検出力が評価されていない
1-1 どれくらいいたらどれくらいの爪痕がつくの?
これは一番の問題だと考えている.アライグマの生息密度と爪痕の多寡の関係は明らかになっていない.では爪痕の多寡ではなく有無を評価すればいいかというとそうでもない.すなわち爪痕がないからといって,アライグマが生息していない・訪問していない証拠にはならない.したがって,爪痕調査は在不在データとしても不十分な可能性がある.たとえば,私が年数頭捕獲している地点(繁殖も確認済み)から600 mの寺社仏閣では爪痕が確認できなかった.
1-2 周辺環境で爪痕の残り方は変わらないの?
山林と街では環境が大きく異なる.そのため,カバー(隠れ場所など)の相対的価値は変わるので,生息地としての寺社仏閣の価値は変動する可能性がある.これを踏まえると爪痕の残り方は地域差が生じる可能性がある.
②評価基準が客観性に欠ける
多くの報告書では,爪痕を5つの評価区分に分けている.すなわち,「現在侵入している可能性がある」,「現在侵入はしていないが訪問形跡はある」,「過去侵入していた可能性がある」,「過去侵入はしていないが訪問していた形跡はある」,「痕跡なし」である.侵入しているか否かは爪痕の多寡で決まるため,評価区分は多寡と時間スケールの2つの軸によるが,いずれも調査者の主観に基づくため客観性は十分ではない可能性がある.
③時間スケール評価に弱い
爪痕は一度ついたら半永久的に残る.そのため,時間スケールの評価が難しい.多くの先行研究では最近か否かの評価にとどめている.
④寺社仏閣の規模というバイアス
多くの先行研究では,先述の5つの区分を用いる.しかし,寺社には小さい祠しかないところから大きな建物が複数棟あるところまである.厳密に柱1本あたりの密度を算出しない限りは,このバイアスは除けないだろう.
⑤獣種判別の不確かさ
似た痕跡を持つハクビシン(またはネコ)は先述の通り爪痕の本数で判別する(戸田ほか 2011).しかし,この根拠は検証不十分である.アライグマでも4本しかついていない可能性は十分にある.また,何度もひっかいた爪痕だと何本か判別するのが難しい.
以上から,爪痕調査は簡易で全国で適用可能であるが,その検出力は不確実な部分も多いため結果の扱いには気を付けるべきであろう(参考程度にとどめておくとか).
3. その他の方法
そのほか,被害対策で多く用いられる方法としてはカメラトラップ調査や目撃情報等のアンケート調査などがあげられる.
これについては環境省近畿地方環境事務所(2008)が詳しい.
cf. 環境省近畿地方環境事務所(2008)近畿地方アライグマ防除の手引き
https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/files/racoon_kinki.pdf
個人的には餌トラップ法や足跡トラップ法の検出力が気になるね.
餌トラップ法についてはこちら.
cf. 餌トラップ法について
satoyaman-raccoon.hatenablog.com
以上
2021.4.25執筆
武蔵野アライグマだより バックナンバー
武蔵野アライグマだより バックナンバー
「武蔵野アライグマだより」は長期調査プロジェクト"武蔵野アライグマ"の広報誌です.
武蔵野アライグマの調査結果などについてまとめてご報告いたします(不定期).
バックナンバーは以下の共有フォルダからご確認いただけます.
第1号(公開日:2021.4.16)
◎内容
2021.2-2021.3の爪痕調査の報告.東村山市と東大和市で40ヵ所の爪痕を調査しました.
◎該当記事
武蔵野アライグマ #2調査報告①-爪痕調査(東村山市)- - アライグマ備忘録
武蔵野アライグマ #3調査報告③-爪痕調査(東大和市)- - アライグマ備忘録
2021.4.16 執筆